
高円宮牌2010ホッケー日本リーグ男子は6月13日、岐阜県グリーンスタジアムでプレーオフ最終順位決定戦を行なった。前日に天理大学ベアーズを下し、1位2位決定戦に進出した山梨学院大OCTOBER EAGLESは、メンバーのほとんどが日本代表候補の社会人チーム、最強の敵名古屋フラーテルと対戦した。観客の多くが地元に近い名古屋に視線を送る中、会場の一角に風林火山の横断幕が張られた。山学男子は、勝てば男女を通じ創部初となる"日本リーグ優勝"の金字塔を目指し、火の如く熱く燃えた。試合は、山学大が前半30分と34分に得たPC(ペナルティーコーナー)から2点を上げて先行した。名古屋は後半終盤に猛反撃して1点を返し、なおもチャンスを作った。しかし、この日の山学はディフェンスが安定していた上に、GK山阜ウがファインセーブを連発、ラスト5分の猛攻にも耐え2−1で勝利した。日本リーグ参戦5年目の山学男子は、堅守速攻・全員攻撃全員守備の風林火山ホッケーで一丸となり、難攻不落の名古屋城を攻め落とした。
今年の山梨学院大男子ホッケー部は、7人の4年生が7日交替で主将を務める日本では前例のない"週替わり主将交代制"を採用している。これは寺本祐治監督が「今年のチームは、チームの要であるFB久保良太(4年 伊吹)中心のチーム、普通なら彼が主将だが、そうすると彼に全て頼り切ってしまう。勝ち負けの責任を全員で負い、チームが一丸となって戦うためにオーストラリアの例を参考に考えた」ユニークな主将制度。この効果は抜群だった、新チームは4月から5月にかけて関東学生リーグ(2季連続優勝)と日本リーグ東地区戦を戦ったが、試合を経験するたびに7人の主将を中心にチーム全員で話し合い、議論して連携を確認、個人力に組織力が加わり、チーム力は飛躍的に成長した。
こうして向かえた日本リーグ・プレーオフ、前日の第1戦で今シーズン初対決の天理大ベアーズに2−0で勝利した部員達は「自分たちのホッケーをすれば勝てる」自信を胸に、表示灯時代からリーグ優勝通算7回の常勝軍団名古屋フラーテルとの頂上決戦に臨んだ。
小雨の降る岐阜県各務原市(かかみがはらし)の岐阜県グリーンスタジアム、東海地方が梅雨入りした6月13日午後3時、伝説を作った試合が始まった。山学大は開始早々の4分に、日本代表候補のFW北里謙治(3年 小国)が左サイドを切り裂きPCを得た。得点には結び付かなかったが、チームにやれるという自信を与えた。序盤は一進一退だったが、徐々に山学が押し始めた。DFがしっかりしているので、FWとMFが安心して高い位置からプレッシャーをかけて行く。名古屋に自由な球出しを許さない、敵陣でボールを奪い取り、果敢に相手ゴールに迫っていく。そして前半30分、久保良太が正面30ヤード付近からサークル内に打ち込んだボールが、相手の体に当たりPCを得た。久保のシュートはGKに弾き返されたが、こぼれたボールをMF朱光珍(ジュ カンジン 4年 大元)が押し込み、やった、先制した。さらに34分、2連続PCの2本目、今度は久保良太が決めた。その直後、前半終了間際にピンチが来た。しかし、GKとしては小柄な168cmながら、俊敏な動きで正キーパーとなった山阜ウ(3年 北海学園札幌)が身を呈して防ぎ、続くピンチもDF陣が落ち着いて守り切り、前半を2−0として折り返した。
王者の名古屋フラーテルは、おとなしく引き下がるようなチームではない。岐阜に近い名古屋から駆け付けた応援団の声援に後押しされ、後半はその牙をむき出しにして山学陣を襲って来た。後半序盤の山学はちょっと受け身に回った、しかも、カウンター攻撃から一気に敵ゴールに迫った北里が、相手を押したと判断されイエローカードで5分間以上の退場処分。11分からの約5分間は一人少ない状態でのプレーを余儀なくされた。しかし、今シーズンの山学はディフェンスが非常にしっかりしている。全員で組織的に守り、穴を作らない。後半は押され気味だが、決定的場面を作らせないで少しずつ時間が進んでいく。あと6分、このまま行けばと思った時、今度はFW佐藤大公(さとう まさひろ 3年 築館)にイエローカード、またしても一人少ない状況になった。フラーテルは手負いの獅子が吠えるように猛然と襲いかかって来た。残り5分にPCを与えた、このシュートはGK山崎が左手一本で防いだ。しかし残り4分のPCは防げなかった。1点差に迫られ、アウェイ状態の会場は異様な空気に包まれた。ただもう守り切るしかなかった。久保良太が誰もまねが出来ない超ロングスイープで敵陣深くにボールを戻し、最後の3分間は足がつりそうになりながら全員が全身全霊を傾けて守り切った。試合終了のホーンは観衆の大歓声にかき消されてスタンドでは聞こえなかった。突然、山学ベンチが躍り上がり、名古屋の選手がフィールドに崩れ落ちた。その瞬間、新たな山学伝説が生まれた。
≪ホッケー日本リーグ男子 優勝決定戦 山学大 VS 名古屋フラーテル≫
於岐阜県グリーンスタジアム
○ 山梨学院大 2 |
{前半2−0}
{後半0−1} |
1名古屋フラーテル● |
得点 朱光珍・久保良太、小野知則(名古屋) |
試合終了直後の山学ベンチは歓喜の渦に包まれた。体をぶつけあって抱き合い、叫び、笑い、そして、寺本祐治監督を胴上げした。その渦の中には、GKのポストを後輩に譲り、自らは縁の下の力持ちとしてチームを支える皷野均(つづみの ひとし)マネージャー(4年 飯野)の弾ける笑顔もあった。
今週の主将岩田卓也ゲームキャプテン(4年 横田)は「決勝はいつも硬くなって負けていた。今回は皆でチャレンジしようと話し合い、前半はリラックスして出来た。後半は守ろうという意識が強くなって最後に攻め込まれたが、全員がキャプテンのつもりで声を掛け合い守り切った。フラーテルに勝って夢を形にするというのがチームの目標だった、気持ちを一つにして達成できた」。
チームの要久保良太選手は「予選ではフラーテルに負けたが、気持ちでは負けていなかった。自分たちが作って来たものを強敵相手に形にすることが出来た。最後の5分間はきつかった、素直に嬉しい。上の学年が中心になって、守りから攻撃の形を作り、7人の主将と46人の部員全員がまとまって掴み取った勝利。ここで一回喜んで、王座に向けて気持を引き締めて、また全員で頑張っていきたい」。
好守でチームに貢献したGK山阜ウ選手は「小柄だけど、粘り強く素早くが身上です。北海道の弱い高校の出身で、山学に入ってもまれて心も強くなりました。やっと試合に出れるようになった上に優勝の感激を味わうことが出来て、夢のようです」。
寺本祐治監督は「いつかは来ると思ってはいたが、まさか日本リーグで優勝するとは(絶句)感無量です。今年はチャンスの年だと思い、4年生全員にキャプテンの気持になってもらい、選手が自分らの力で戦う力を身に付けさせた。私は何もしていない。4年生が中心になって、春から昨年・一昨年の経験を生かし、苦労してチームを作って来てくれた。フラーテルに勝ったという事は日本代表に勝ったと同然ですから」小雨のフィールドで報道陣のインタビューに答えたその顔は、苦労が報われた日本晴れの表情だった。
表彰式で7人の主将のうち5人が前に進み、高円宮牌トロフィーを岩田拓也、日本ホッケー協会賞賞状を久保良太、協会賞杯を久保貴寿、学生連盟杯を赤座武典、読売新聞社杯を内海好貴が受け取った。負傷から復帰した阿部雅と眼を負傷して試合に出れなかった大橋優太の二人は、皆と共に笑顔で見守った。
大会の結果、日本リーグ男子の最終結果は、優勝山学大、2位名古屋フラーテル、3位天理大BE、4位岐阜朝日、5位AL飯能、6位東農大、7位立命館H、8位小矢部R、9位法政大、10位S島根となった。
女子の日本リーグは、8チームの2回総当たり方式で10月10日までの長期戦で競われており、山学大女子は第4節が終わった段階で、4勝2敗勝ち点12、ソニーに次ぐ2位に付けている。尚、山学大女子は12日に行われた関東学生リーグ優勝決定戦で駿河台大を5−0で下し優勝。関東リーグの記録を32季連続優勝、179連勝に伸ばした。山梨学院大ホッケー部は、7月1日から始まる全日本大学王座決定戦と秋の全日本学生選手権(インカレ)の学生二大タイトル男女アベック優勝を胸に、今度はともに学生日本一を目指す。 (M.I)
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