第89回全国高校サッカー選手権山梨県大会は11月27日、甲府・小瀬陸上競技場で決勝戦を行った。決勝は昨年と同じ対決、2年連続2度目の制覇を目指す第1シードの山梨学院高と、初優勝を狙う第2シードの日本航空高が激突した。試合は、山梨学院が前半38分と39分に2連続ゴールを決めて優位に立ち、 後半も開始4分に追加点を奪うなど5得点の猛攻、終盤に日本航空に1点を与えたが5-1の大差で快勝した。高校サッカー界には2つのジンクスが存在した。一つは、前年度全国優勝チームは翌年の県大会を突破できない。もう一つは、インターハイで山梨代表になったチームは選手権予選では敗れる。昨年初出場で全国の頂点に 立ち、夏の沖縄インターハイに出場した山学イレブンは、自分を信じ、仲間を信じ、プレッシャーを跳ね返してジンクスに打ち克った。12月30日に国立競技場で行われる選手権開会式で、全チームの先頭で入場行進を行い、チーム全員で優勝旗を返還する。
穏やかな小春日和、快晴、無風の絶好のコンディション。頂点を決める戦いは、午後1時05分に始まった。山梨学院は長身フォワード9番加部未蘭(3年)と10番白崎凌兵(2年)を攻撃起点とする中盤フラットの4-4-2システム。一方、日本航空は6番内山輝也(3年)をワンボランチとする4-1-4-1システムで戦いが幕を開けた。山学は、奪ったボールをシンプルに2トップに入れ、ここを起点に右8番堤建太(3年)、左11番長谷川紫貴(3年)の両翼がサイドからのクロスとドリブル突破で再三決定機を作るが、相手DF陣とGK川北泰也(2年)の好守に阻まれる。一方、航空は守りを固めながら、ボールを奪ったら素早く攻め上がるカウンター戦法で対抗。前半終盤まで一進一退の展開が続いた。試合が動いたのは前半終了2分前の38分だった。山学はCKのチャンスを生かし、白崎が後頭部で押し込み先制。その1分後に堤のスルーパスを長谷川が 鮮やかに蹴り込み、あっという間に連続得点、一気に2-0として前半を折り返した。
晩秋の小瀬に強い日差しが差し込む中、生徒・保護者・卒業生・教職員など2000名を超す大応援団は、黄色いメガホンを手に力の限り声を張り上げた。前半38分、山学先制の瞬間は、地響きに近い歓声があがり、応援席は盛り上がりを見せた。ベンチに入れなかったサッカー部員たちは、大応援団の最前線に陣取って応援をリード。前半を終わり、第2のキャプテンマークを巻いた大内健太郎選手(3年)は「後半はもっともっと点が入るように応援を盛り上げていきたい。走って走って相手を圧倒して欲しい」と力強く語った。また、音楽で応援を盛り上げ、選手を後押しした吹奏楽部の芹澤康帆さん(2年)は「今日のためにいっぱい練習してきました。少しでも選手の力になれるように私たちも一生懸命演奏したい」と笑顔で話した。特注のゲートフラッグを持参して大阪から駆けつけた大黒貴哉選手の父大黒秀雄さんは「高校最後の試合、悔いのないようにしっかり守ってほしい」とゲーフラを握る手に力を込めた。そして、応援席の一角を埋めた昨年の全国優勝メンバーは「精一杯頑張れ、守備が安定しているから大丈夫だ、俺たちを超えろ」と口々に後輩にエールを送った。
そして、後半が始まった。2点のリードでプレッシャーから解放された山学攻撃陣は、開始早々から猛攻撃で航空陣深くに攻め入った。開始4分、加部がゴール前に持ち込みシュート、相手DF陣に跳ね返されたが、こぼれたボールを走り込んできた主将の宮本龍(3年)が低い弾道で右隅に決めた。10分に加部が白崎にスルーパスを通し、白崎がこの日2得点目のゴール。15分には、今度は白崎から加部にナイスパス、これを加部が豪快に蹴り込み5点目を上げ勝負あり。後半30分に航空の原大地(2年)にシュートを決められ、完封は逃したが決勝とは思えない5-1の大差で快勝。 2年連続2度目の全国切符を獲得した。
第89回全国高校サッカー選手権山梨県大会 決勝
≪山梨学院高vs日本航空高≫(11/27) 於 甲府・小瀬陸上競技場 |
○ 山梨学院高 5 |
前半 2−0
後半 3−1 |
1 日本航空高 ● |
得点 白崎凌兵2、長谷川紫貴、宮本龍、加部未蘭(山学)、原大地(航空) |
後半のアディッショナルタイム(ロスタイム)3分はとても長く感じ、大応援団は祈る思いでピッチを見つめていた。後半は3点をあげ、応援席のボルテージは最高潮に。主審の長い笛が鳴り、山学の勝利を告げた瞬間、応援席は割れんばかりの歓声に包まれた。青と黄色のボンボンを振り、笑顔で応援し続けたチアリーダー部の萩原紀恵さん(2年)は「去年も全国に行ったので、今年も行って欲しかった。選手たちに自分たちの声が届くように準決勝よりも大きな声で応援しました。優勝して良かったです」と声を弾ませていた。最後まで最前線で声を張り上げた大内選手は「嬉しい気持ちでいっぱいです。全国では、今まで以上に強い相手なので、選手の力になれるよう 声を出していきたい」と晴々した表情で語った。
山学ベンチの隅には、7人の女子マネージャーが祈りを込めて折った千羽鶴と帝京三・韮崎から託された千羽鶴が飾られていた。その短冊には「仲間を信じ、ピッチを駈けろ、走って、走って、走りぬけ」と書かれていた。この1年間、周囲の期待に押しつぶされそうになりながら、懸命にプレッシャーと戦ってきたイレブンは、仲間を信じ、自分を信じ、全力でピッチを走り切った、一人ひとりの力と技を結集させ て全国切符を掴み取った。
優勝チームに贈られる優勝カップ、優勝旗などたくさんの賞品・賞状を手にした選手たちは、全力疾走でバックスタンドの応援席前に駆け寄った。最前列で応援した控え部員たちとハイタッチを交わした。選手はフィールドで肩を組み、応援席は総立ちになり、全員で校歌を大合唱して感激の時を共有した。昨年は感激の涙を 流したが、2連覇を果たした今年は、選手も監督もコーチも歓喜の笑顔をカメラの列に向けた。
宮本龍主将「前半はチームのために何も出来なかった、後半はしっかりやれた。最高の仲間たちと全国に行くことができる。昨年優勝しているので、期待されると思うが、地に足をつけて一勝一勝して行きたい」主将は静かに闘志を燃やしている。全ての得点に絡み復活した加部未蘭選手「この仲間たちと全国でやれることになって嬉しい。自分たちのプレーをすれば勝てる」長身ストライカーは選手権での活躍を誓った。肩を負傷しながらフル出場した関篤志選手「立ち上がりは悪かったが、先生から言われていた通りセットプレーのチャンスから先制点を奪いリズムに乗った。この1年間はプレッシャーで苦しいときもあった。全国では自分たちのプレーを全力でやります]重圧から解放された山学最高のディフェンダーは、全国ではのびのびプレーする。吉永一明監督「プレッシャーの中でしか経験できないことがたくさんあったので、これを乗り越えてくれた選手に感謝したい、よく頑張ってくれた。山梨代表として恥ずかしくない試合をするようにしっかり準備していきたい」監督就任1年目の元Jリーグコーチ指揮官は、県大会から素早く全国に気持を切り替 えていた。横森巧総監督「1年間が長かった。チーム力がもう一歩ピリッとしなかったが、最後に本来の力を発揮できた。これからが最後の仕上げ、国見は厄介な相手だが、選手・監督・スタッフの全員が全力でぶつかっていきたい」総監督の立場に戻った名将は、伝統校に対し密かに闘志を燃やしている。
第89回全国高校サッカー選手権は、12月30日に国立競技場で開会式を行い開幕する。昨年の優勝校山梨学院は、全出場チームの先頭に立って入場行進を行ない、優勝旗を全員で返還する栄誉が与えられる。今月22日に行われた抽選会の結果、昨年の優勝で第1シードとなった山梨代表は、1回戦をシードされ、正月2 日の午後2時10分から、千葉・柏の葉公園総合競技場で長崎代表の国見高校と2回戦で対戦することになった。国見は2年連続23度目の出場で、戦後最多の6度の優勝を誇る名門校。昨年は静岡代表の藤枝明誠に2回戦で敗れている。2年連続出場の新王者山梨学院は、全力疾走で往年の王者に挑む。(M.Ⅰ)(Y.Y)
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