第89回全国高校サッカー選手権大会がいよいよ開幕した。今年の大会は群雄割拠、どこが優勝するか分からない戦国決戦と呼ばれる。2年連続出場の前年度優勝校山梨学院高校は、1回戦をシードされ正月2日の2回戦から登場、長崎代表の国見高と千葉・柏の葉公園総合競技場で対戦した。前年覇者対過去6度の優 勝を誇る名門校との新旧強豪対決は、フィールドに気魄の火花が散る激しい戦いとなった。国見は、開始直後から約15分間、猛攻撃で山学陣を襲い続けた。この猛攻を山学の守護神畠山睦がファインセーブを連発して防いだ。耐えて流れを引き寄せた山梨学院は、2トップFW加部未蘭と白崎凌兵が前半だけで3点を奪い取り、後 半の国見の反撃を1点に抑え伝統校に3−1と快勝した。連覇に向けて最高の発進をした山梨学院の次の対戦相手は、PK戦を制して3回戦に進出した東京B代表の駒澤大高と決まった。明日3日にベスト8進出を賭けて千葉・フクダ電子アリーナで対決する。
千葉県柏市・柏の葉公園総合競技場バックスタンド山学応援席は、バス20台を連ねて駆けつけた全校応援の生徒(受験生を除く)と選手の家族・OBら約1000人によって青く染まった。フィールドに出て来た山学イレブンのユニホームは、いつものプルシアンブルーではなく純白だった。対戦相手の国見が黄色と 青の縦縞のため、セカンド・ジャージでの登場となった。試合前、吉永一明監督は選手に対し「優勝旗を返還してチャレンジャーに戻った。何色にも染まっていない真っ白な気持で新たな戦いを始めよう」と鼓舞して決戦場に向かった。
午後2時10分、応援スタンドからは逆光の眩しさの中で、光り輝くゲームが始まった。そして、開始直後から国見が猛然と攻撃してきた。前線から早いプレッシャーをかけ、両サイドを使った素早い動きで山学陣深くに切れ込み、CK(コーナーキック)に持ち込む場面を再三演出した。開始3分から5分にかけての 4連続CKはGk畠山睦(3年)がナイスセーブ連発で防御した。山学イレブンは、初戦の緊張から動きがぎこちない、中盤が機能せず、セカンドボールを奪われてゴール前に持ち込まれる危険なシーンを何度も作った。前半の山学CKはわずか1本だったに対し、国見には10本も奪われた。しかし、開始15分間の猛攻に耐えた ことで、徐々に攻撃のチャンスが生まれ始めた。そして前半21分にその時が来た。前線でボールを奪ったFW加部未蘭(3年)が相手DF陣の裏に絶妙なループパス、走り込んだMF白崎凌兵(2年)が浮いたボールをワントラップしてDFを抜き去り、飛び出してきたGKを冷静にかわしてゴール右サイドに決めて先制した。直後に国見に反撃され、強烈なシュートを打たれたが、GK畠山が右足1本で食い止め、22分から25分の 4連続CKはDF・MF一体で体を張りピンチを防いだ。防ぎ切ったことで、ピンチの後に再びチャンスが来た。30分、加部未蘭が右45度からのセンターリングに、187cmの長身をいっぱいに伸ばしてヘディングシュート、矢のようになったボールがゴールを射抜いた。さらに32分、最前線で白崎が粘り、ゴール前に詰め た加部にパス、これを未蘭が再び決めた。山学が誇る2トップは、その爆発的な破壊力を全国のサッカーファンに見せつけ、二人で3点を奪い取り3−0で前半を折り返した。
ハーフタイムのバックスタンド。大声援を送る山学応援席には、わが子の勝利を願い祈るように見つめる選手の保護者の姿と鈴木峻太・伊東拓弥・松田ランさんら前年優勝メンバーの姿も見られた。昨年のGK松田ランさん「前半で3点はすごい、GK畠山とDF関が踏ん張っている」。伊東拓弥さん「去年の自分のポジション白崎に期待している、後半も頑張ってほしい」。鈴木峻太さん「3点取ったが、中盤でのボールキープが出来 ていない。このままではスタミナが心配、ボールキープをしっかり」。優勝メンバーは連覇を目指せと後輩を励ました。スタンドは生徒も保護者も先輩も心ひとつにフィールドを見つめ、プレーに一喜一憂した。
後半開始、山学ベンチはMF長谷川紫貴(3年)に変えてFW林憲吾(3年)を投入、さらに得点を奪いに行く姿勢で臨んだ。しかし、国見の反撃は凄かった。手負いの獅子のように牙をむき出しにして懸命に攻め上がって来る。決して諦めない伝統校の底力をそのプレーが示した。得意のサイド攻撃から次々に決定的 なチャンスを作り出す。そして後半22分、左サイドからのセンターリングに反応してゴール前に飛び込んだMF大町将梧(3年)にヘディングシュートを決められて3−1とされた。直後に白崎が相手ゴール前に切れ込みシュートを放ったが入らず、山学の攻撃らしい攻撃はここまでだった。あとはもう防戦一方だった。もう1点 取られたら、試合はどうなるか分からなくなる緊張感の中で、山学イレブンは体を張って守り続けた。最後の10分間も2分間のアディショナルタイム(ロスタイム)も非常に長く感じられた。そして、後半から出場の林憲吾がボールを外に蹴りだした瞬間に試合終了のホイッスルがなった。勝った、よくやった。山学サッカー史第 2章の新たな1ページに記された文字は"勝利"だった。
第89回全国高校サッカー選手権大会 2回戦
≪山梨学院高vs国見高≫(1/2) 於 千葉・柏の葉公園総合競技場 |
○ 山梨学院高 3 |
前半 3−0
後半 0−1 |
1 国見高 ● |
得点 白崎凌兵、加部未蘭2(山学)、大町将梧(国見) |
先制点を奪った白崎凌兵選手「シュートは相手がよく見えていたので、落ち着いて決められた。前半苦しい時間帯が続いたので、流れを変えられて良かった。国見のパワーに押されたが、もっとやれるチーム、明日はもっとやります」。2得点でチームを牽引した加部未蘭選手「前半はいいプレーが出来たが、後半は良くなかった。去年は先輩に優勝させてもらった、今年は自分が引っ張る立場。山梨代表の誇りを持って、もっと貪欲にゴールを奪いチームを優勝に導きたい」。好セーブを連発したGK畠山睦選手「長袖だと反応が遅くなる気がして、1年の時から冬も半袖でプレーしています。開始直後からいきなり攻め込まれたが、色々考えずに夢中でやったことが、かえってよかった。あとは緊張しないで冷静に対応することが出来ました」。宮本龍主将「勝ててよかった。プレッシャーは感じなかったが、セカンドボールを多く相手に奪われた。色々な意味で課題の多い試合だった。明日は課題点を修正して試合に臨みたい」。吉永一明監督「初戦はどの大会も難しいと思っていた。チャレンジャーとして一試合一試合戦いを挑みます。2トップが点を取った事は評価したい、こういう形で次に進めることは良かった。ただ、セカンドボールへの反応が遅く奪われた点は反省点。去年は1戦1戦勝ち進むごとに強くなった。今年も一試合一 試合ごとに成長するよう力を伸ばして行きたい」。湯浅征二郎GKコーチ「畠山はよく踏ん張った。1点を与えた場面はミスだが、あとはよく防いだ。明日対戦することになった駒澤大高は、山梨学院に赴任する前にコーチをしていた学校です。PK戦勝利に導いたGK岸谷はジュニアユース時代からの教え子です。まさの対決ですが、山梨学院に勝利をもたらす よう全力で指導します」。碓井鉄平前主将「俺たちの時はチャレンジャー、今年は王者として臨むので大変だけど、このチームなら出来る。全員で力を合わせ、全力で連覇を目指してほしい」。加部未蘭選手の母由利子さんは「強敵との試合だったので、祈るような気持でした。息子は点を取る役割なので、責任が果たせてホッとしました、明日も頑張ってほしい」。それぞれがそれぞれの思いを言葉にした。
この他の試合結果、前回準優勝の青森山田と3大会ぶりの優勝を狙う流通経大柏(千葉)が、前々回覇者の広島皆実と明徳義塾(高知)をそれぞれ2―0で下し3回戦に進出した。高校総体準優勝の滝川二(兵庫)は鹿島学園(茨城)に4―1、前橋育英(群馬)は室蘭大谷(北海道)に4―0で快勝。優勝候補の一角 静岡学園(静岡)も順当に勝ち上がった。16強入りしたチームが戦国決戦を繰り広げる3回戦8試合は、明日3日に東京・千葉・埼玉の4会場で行なわれる。山梨学院は千葉・フクダ電子アリーナ12:05分試合開始で、PK戦を制して進出した初出場の駒大高(東京B)とベスト8進出を賭けて決戦する。そして、必ず勝利する
文(M.T)、カメラ(平川大雪)
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