第89回全国高校サッカー選手権大会は1月5日、準々決勝4試合が行なわれた。初戦で長崎代表の名門国見高、3回戦で東京B代表の駒澤大高を下し、昨年同様の快進撃でベスト8に名乗りを上げた山梨学院高は、千葉市フクダ電子アリーナで千葉代表流通経済大柏高と対戦した。試合は、前半27分にエースストラ イカーFW加部未蘭が放った弾丸シュートがゴールネットを揺らし、山梨学院が先制した。しかし、その直後にDFクリアボールが流経大柏選手の顔に当たってゴールするという不運に見舞われ同点に追いつかれた。一進一退のままPK戦突入かと思われた後半33分、セットプレーから一瞬の隙を衝かれ流経に逆転シュートを許し 1−2で敗退した。山学イレブンは、自分たちのサッカーを1年間模索して作り上げ、その集大成といえる最高のプレーをしながら勝負に敗れた。あと一歩に迫った"2年連続国立"の夢実現はならなかった。
試合開始前のバックスタンド、バス21台を連ねて再び甲府から駆けつけた約1200人の山学応援席を、一人のサッカー部員が駆け回った。「今日の相手は流経です、応援の力で絶対勝つよう、応援よろしくお願いします」スタンドを駆け回ったのは、ベンチ入りを果たせず応援団長となった大内健太郎選手(3年)、その手が握るハンドスピーカーには"一緒に国立行こう"の文字が書き込まれていた、仲間の思いが込められていた。
試合は、12時05分に流経のキックオフで始まった。山学は、187cmの長身FW加部未蘭(3年)をターゲットにボールを前線に上げ、加部が競り落とすセカンドボールをMF陣が取って攻める自分たちのサッカーを繰り広げようとする。しかし、流経は189cmの主将増田繁人を中心とするDF陣・MF陣が 体を張り、前線からプレッシャーをかけ簡単には突破を許さない。それでも山学は徐々にペースを掴み、前半27分に加部未蘭(3年)がドリブル突破で攻め上がり、DF陣5人を抜いて弾丸弾を放ち先制した。しかし、直後の29分にDFクリアボールが相手選手の顔に当たってゴールする不運、1対1の同点で折り返した。
ハーフタイム、初戦からずっと演奏を続けている吹奏楽部の芦澤康帆部長(2年)は「前半1点を返されましたが、とてもいい試合をしていると思います。皆の力を合わせて後半も点を取ってほしい、私たちも皆の力を合わせて演奏します」と話した。横一列に並んで声援を送っているソフトボール部の清水琴乃主将は「自分たちは、全国の高校が交流する栄光杯で水戸商に敗れてしまったが、サッカー部には連覇を達成してもらいたい。部員全員で精一杯応援します」とエールを送った。
前半は山梨学院が試合の主導権を握ったが、後半は流経大柏が主導権を握った。運動量と1対1の強さを中心に鍛えている流経は、左足小指骨折のため途中交代で入ったエースMF吉田眞紀人が流れを変えた。そして、後半33分に途中出場のFW田宮諒に逆転のシュートを決められてしまった。山学イレブンは最後まで気力を振り絞って駆け回ったが、攻撃バリエーションと体力が流経に劣った。流経の本田裕一郎監督は「技術的には山梨が上、フィジ カルではうちが上」と語った。8日に国立競技場で行なわれる準決勝戦の組み合わせは、流経大柏高対久御山高(京都)、立正大松南高(島根)対滝川第二高(兵庫)の対戦となった。
第89回全国高校サッカー選手権大会 準々決勝
≪山梨学院高vs流経大柏高≫(1/5) 於 千葉市フクダ電子アリーナ |
● 山梨学院高 1 |
前半 1−1
後半 0−1 |
2 流経大柏高 ○ |
得点 加部未蘭(山学)、宮本拓弥、田宮諒(流経) |
宮本龍主将「気持の入ったいいゲームが出来たので楽しかった。あっという間の3年間だった。頼りない自分にみんながついてきてくれた、仲間に感謝したい」。関篤志選手「前半は自分たちがやってきたことを出せた。後半はセットプレーから失点したが、システムは崩されなかった。最後の試合で3年間で最高の試合が出来た」。大黒貴哉選手「夢中で思い切りクリアしたが、気付いたらボールは後ろだった。やられる気がしなかったので悔しいが、自分たちのサッカーが出来たので悔いはないです」。加部未蘭選手「いい緊張感の中で、楽しくサッカーが出来ました。苦しい時に仲間に支えてもらった、仲がいい皆とプレーできなくなることが悔しい。3年になって人間的に成長して、少し大人になったと思う。まだ所属は決まっていないが、この経験を生かして、見ている人に感動を与えるプレーをしたい」。 畠山睦選手「選手権の雰囲気を味わうことが出来て楽しかった。応援の声が凄く聞こえてきて励まされた。山梨学院大に進学します。ゴールキーパーとしてもっもっと成長したい」。長谷川紫貴選手「流経は前に早かった、自分がもっとサイド攻撃を仕掛けなければいけなかった。こぼれ球を取るか取られるかが勝負を分けたと思う。辛い思い出より、楽しい思い出の方が多い。この仲間と3年間やれてよかった」。白崎凌兵選手「もっとチャレンジしたかったが、自分が攻め切れなかったことが敗因です。先輩に申し訳ない、3年生にはありがとうと言いたいです。来年は自分が引張って行かなければいけないので、点を取ることに務めたい」。吉永一明監督「このレベルまで来ると簡単に点は取れないが、チャンスはあった。そこで点が取れなかったことが負けにつながった。11人でサッカーをすることを意識したが、上手くいった所といかなかった所があった。吉田君が入ってきてボールを取られ、後半は前に出れなくなった、パワー不足だった。選 手は非常に気持の入ったいいゲームをしてくれた。残念な結果だったが、全力を尽くして戦った結果なので受け入れるしかない。こういうことに耐えて行かなければ上にいけない」今までのベストゲームだったと振り返った。
| アルバム1 | アルバム2 |
青き戦士たち
春
先輩たちが成し遂げた 全国制覇の大偉業は
新チームには 重圧以外の何者でもなかった
新人戦で帝京三に敗れ 総体で航空に敗れた
俺たちは何も取っていないが 口癖になった
最大の敵は日本一のチームという評判だった
夏
前橋育英など強豪校との練習試合に明け暮れた
7月 インターハイ出場権獲得 無冠から脱却
8月 沖縄に渡り優勝した市立船橋と対戦敗退
イビチャ・オシムは選手に毎日毎日語りかけた
「ゲームに負けることはある、
ただ 負けるにしても
自分達のプレーをして負けるのと
そうでないのでは 大きな違いだ」
秋
9月 トレーニングルームで己の体力を鍛えた
10月 フィールドで自分の技術に磨きをかけた
11月 磨いた心と技と体で山梨大会を突破した
自分たちのサッカーは通用する 全国に通用する
冬
開会式で先頭入場行進 全員で返還の夢を叶えた
1月2日2回戦 名門長崎国見高を3−1で撃破
1月3日3回戦 東京代表駒大高を1−0で完封
1月5日準々決勝千葉流経大柏高に1−2で敗退
試合後選手は皆悔しいけれど悔いはないと語った
それは最後に最高の自分たちのプレーをしたから
青き戦士は オシムの言葉をピッチ上で表現した
山梨学院高校サッカー史第2章 その最終ページ
記された言葉は"再びの国立 あと一歩"だった
昨年の青い稲妻たちは 初出場初優勝を達成した
今年の青き戦士たちは それに勝り劣らなかった
逆プレッシャーと戦い 苦渋と苦悩と苦闘の末に
選手権ベスト8という 燦然と輝く歴史を残した
山梨学院をたった2年で全国屈指の名門校にした
胸張って帰って来い ありがとう 青き戦士たち
文(M.T)、カメラ(平川大雪・藤原 稔)