
第27回皇后盃全日本女子柔道選手権大会が4月15日、横浜文化体育館で開催された。山梨学院大の新キャプテン山部佳苗が2人のロンドン五輪日本代表候補を破り、体重無差別で争う舞台で"柔道日本一"の栄冠を獲得した。大会には前年覇者で五輪代表候補の世界選手権覇者杉本美香(コマツ)ともう一人の五輪代表候補世界ランキング1位の田知本愛(ALSOK)ら35人の精鋭が出場、心技体を尽くした熱戦を展開した。山学大からは、山部佳苗と濱田尚里の2人とOG1人が関東地区予選で出場権を獲得し参戦した。濱田は2回戦で杉本美香に善戦しながら敗れたが、山部は準々決勝で田知本、決勝で杉本を破り「あこがれの舞台で信じられないくらい嬉しい」初優勝を果たした。
この大会は、柔道本来の姿である体重無差別によって争われる。昨年の優勝者・準優勝者及び全国10地区の地区予選上位者35人だけで競われる真の女子柔道日本一決定戦。試合時間は6分間、延長戦は行なわず旗判定で勝敗を決める。ロンドン五輪代表第1次選考を兼ねて行われた。山学大柔道部からは、新キャプテンとしてチームを引っ張る大黒柱の山部佳苗(やまべ かなえ 4年 旭川大付属 関東大会2位)と成長著しい濱田尚里(はまだ しょうり 4年 鹿児島南 関東大会5位)の2人の現役学生と、了徳寺学園所属ながら山学大で練習している2年前の主将谷口亜弥(たにぐち あみ 関東大会3位)が3月の関東地区予選で7名の選出枠に入り出場した。
濱田 尚里(78kg)は山学大に入学後、コツコツと努力を重ね昨年夏のユニバーシアード大会に初出場し5位になった。最上級生になった今年は、日本を代表する選手になることを心に固く期している。1回戦では松尾千香(75kg 松山東雲女子大4年)を圧倒した。立ち上りから積極的に攻めて足技から得意の寝技に持ち込み、開始1分24秒に縦四方固めで一本勝ちした。2回戦の相手は優勝候補筆頭の杉本美香(100s)だったが、臆することなく果敢に攻めて行った。盛んに足を飛ばして牽制、組み手争いも対等に戦った。しかし、一瞬の間合いを杉本は逃さなかった。残り2分15秒に送り足払いから寝技に持ち込まれ、横四方固めで敗れた。
濱田尚里選手は「強いと思っていたが、組み手も手順通り取れたし思ったよりやれた。負けたけれど次に向けて大きな自信を得た」と杉本戦を振り返った。OGの谷口亜弥(70s 了徳寺学園職員)は2回戦から登場した。渡邉悠季(78kg 仙台大4年)を寄せつけず、払い巻き込みで一本勝ちした。3回戦の烏帽子美久(93kg 東海大3年)戦も体重差を感じさせず優勢に試合を進めたが、不用意な巴投げを逆に返され横四方固めで一本負けを喫した。
谷口亜弥選手は「久しぶりの試合ですごく緊張した。初戦よりも、2戦目の方が行けると思ったが、巴投げで自滅してしまった。この経験を夏の実業団と講道館杯に活かす」と指導者を目指す23歳は雪辱を誓った。
山部佳苗(105s)は、昨年のこの大会3位(準決勝で優勝した杉本に敗退)だった。昨夏のユニバーシアード大会で結果を残せず、冬の国際大会派遣メンバーに選ばれなかった。世界ランキング40位で大会に出場した。五輪代表を一発勝負で決める競泳と違い、柔道のロンドン五輪選考対象は、五輪出場資格のある世界ランキング14位以内の選手に限られる。該当者は同1位の田知本と同4位の杉本の二人だけ。全日本選手権は世界ランクを上げるポイントがつかないため、山部は優勝しても五輪出場資格のない40位のままで選考の対象にはならない決まりになっている。山部も2回戦から登場した。初戦の滝川真央(96kg 富士市立2年)戦は得意の払い腰で一本勝ち。3回戦の稲森奈美(10 7s 三井住友海上)は開始わずか45秒で大外刈り一本勝ち。準々決勝の難敵田知本愛(110kg)戦では攻めの姿勢を貫き、何度も奥襟を持った瞬間に払い腰を仕掛けた。勝敗は旗判定にゆだねられたが、積極的な攻めが評価され赤2本で勝利を収めた。準決勝戦の相手朝比奈沙羅(126s 渋谷教育学園渋谷1年)は高校生になったばかりの巨漢の新星だが、得意の払い腰で豪快に投げ飛ばし決勝に進出した。
≪決勝戦 山部佳苗vs杉本美香(コマツ)≫
試合前の選手控え所は、動と静、杉本は体を左右に振り屈伸を行い体を動かし続けた。これに対し、山部は全く動かなかった。前方の一点を見つめ、微動だにせず出番を待った。そして、試合が始まった瞬間に山部は動の人となった。右組みの相四つ、左手で引き手を取り、右手で前襟か奥襟の釣り手を持つとすぐに投げに入った。杉本よりも常に先に先に技を仕掛けた。開始2分27秒、山部の思い切った大外刈りに杉本が崩れ落ちた。判定は技あり、押さえ込みは5秒で解かれたが、この投げで大きなリードを奪った。劣勢に立った杉本が猛然と攻めてきたが、山部は自分の力を出し切り6分間を戦い抜いた。オリンピック代表候補2人を退ける完全制覇の初優勝を達成させた。
山部佳苗選手は「あこがれていた舞台での優勝、信じられないくらいうれしい。トップの2人を倒して優勝するのが目標だったので、目標を達成できた。今日の試合はすべて自分から攻めて行けたので良かった」と話し、テレビ中継アナの誘導に「ロンドンの次のリオ(リオデジャネイロ五輪)に出て優勝したい」と答えた後、「オリンピックはまだ遠いので、目の前の試合に全力で向かいたい。当面は、まぐれと言われないように5月の選抜で優勝することを目標に頑張りたい」と自らの心を戒めていた。札幌から駆けつけて我が子の試合を見守った
母親の山部苗美さん(54歳)は「小さい時からスポーツが大好きで、運動会のリレー選手に選ばれないと悔しがる子でした。スイミングもピアノもなんでも一生懸命やりました。柔道は父親の指導で兄とともに始めましたが、山梨学院大に進んだおかげで先生方の指導で日本一になれました。信じられません」と興奮冷めやらぬ表情で語った。
山部伸敏監督は「元々重量級にしては技が切れたが、最近は体重が増えてフィジカルも強くなった。一試合一試合集中しろと指示し、その通りに戦ってくれた。あいつの一番いいところ、攻めの柔道で最後までやり切ってくれた」と教え子の日本一を称えた。
「体が勝手に動いた。自分は重圧も何もないので、挑戦者の気持ちで戦った」山部佳苗は、この優勝で一躍リオ五輪日本代表最有力候補に浮上した。この後の戦いは、勝って当然という眼で見られる重圧とも戦うことになる。リオへの道は平坦ではない、しかし、山部は信念と稽古で己の道を切り開き、真の五輪選手になる。
文(M.T) カメラ(小池裕太)
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