山梨学院生涯学習センターと酒折連歌賞実行委員会は6月9日、「酒折連歌講座2012」第2回講座を開催した。酒折連歌講座は「酒折連歌賞10周年企画」として始まり、今年で5年連続開催、例年同様に3回の講座が実施される。第1回は5月26日に行われ、山梨県立大学名誉教授で俳文学会会員の両角倉一氏が「連歌の歴史−発生と展開−」をテーマに講演した。6月9日の第2回講座は、今年度から酒折連歌賞の選考委員に就任した現代俳句協会特別顧問の俳句界の第一人者宇多喜代子さんが「短詩型文学のことばについて」と題して講演を行った。一般の応募者や来年山梨で開催される「国民文化祭」に向けて結成された「酒折連歌の会」の会員ら約80人が、宇多さんの言葉に耳を傾けた。第3回目は6月30日に同じく選考委員の歌人今野寿美さんが「七五の魅力」について講演を行う。
今年度の「酒折連歌講座2012}は、受講者が当初予想を大きく上回ったため、会場を山梨学院50周年記念館クリスタルタワー8階大会議室に変更して講座が実施されている。第2回講座には約80人が出席し宇多喜代子さんが発するユーモアと示唆に富んだ言葉を楽しんだ。開講に先立ち、コーディネーター役の川手千興酒折連歌賞実行委員長が宇多喜代子(うだ きよこ)講師のプロフィールを紹介した。
宇多喜代子さんは、昭和10年(1935年)山口県徳山市(現・周南市)生まれ、武庫川学院女子大卒、俳人、大阪府池田市在住、桂信子に師事し「草苑]創刊に参加、2001年句集『象』で第35回「蛇笏賞」受賞、2002年紫綬褒章受章、2004年桂信子没し「草苑」終刊、あらたに「草樹」を創刊し会員代表となる。2006年現代俳句協会会長に就任、2008年旭日小綬章受賞、2012年『記憶』で第27回詩歌文学館賞俳句部門を受賞、今年3月末に会長を辞し4月から現代俳句協会特別顧問。代表句に「天皇の白髪にこそ夏の月」(『夏月集』)、「いつしかに余り苗にも耳や舌」(『象』)などがある。農事や歳事に関心が深く、俳句史や俳句評論の分野の著作も多い。
講演の冒頭で宇多さんは、前日にお会いになった日本文化研究者で91歳になられたドナルド・キーンさん(米国出身、日本国籍名:鬼怒鳴門)の「日本は奇数の文化である」という発言を紹介し「俳句や短歌、連歌、川柳は5と7で言葉を歌っている。割り切れる偶数ではなく、割り切れない奇数で作る文学は、日本の文化がその基にあるからだと思う。西洋の庭園はシントメリー(左右対称)だが、日本庭園に対称性はなく、日本料理の盛り付けにも対称性はない。小さい空間に割り切れない空間を作るのが、日本独特の奇数の文化」と前日に得た知識とエピソードを切り口にして講演を始めた。本題の「短詩形の言葉(俳句の言葉)」については、「『歳時記』は、季節の言葉で日本人の暮らしを知 る日本ミニ百科事典」と話し、「梅雨という言葉一つ取っても、『走り梅雨』、『菜種梅雨』、『梅雨寒』、『五月雨』などたくさんの表現がある。歳時記に収録されている言葉は日本の風景、日本人の歴史と知恵の塊、ここから学んでほしい」と導き、1、歳時記の言葉、2.「秋」の言葉、3、暦と自然の言葉、4、口碑・諺の言葉、5、観天望気の言葉、についてそれぞれ解説を行った。「簡単に手に入れた情報は簡単に忘れる、時間をかけて手に入れた情報は簡単には忘れない。記憶は創作である。体の中とノートにメモしておくと、10年前の水の音も匂いも思いだす。今日は明日につながる、歩けなくなってもいくらでも俳句は作れる。日常の中の言葉を言葉で磨き、どうぞ俳句や連歌を作ってください 」と参加者に語りかけた
「酒折連歌賞」は問いかけの五・七・七の片歌に、答えの片歌を五・七・七で返す二句一連の返歌問答。作歌上の約束事は五・七・七で返す以外はなく、自由な発想で応募することができる歌遊び。今年の第十四回酒折連歌賞は4月1日から募集を開始しており、応募の締め切りは9月30日。最優秀作品には、大賞と文部科学大臣賞が贈られ、副賞として賞金十万円と楯などが添えられる。詳しい募集内容と応募の問い合わせは、山梨学院大学酒折連歌賞事務局(TEL055-224−1641 ホームページ)
文(M.T)カメラ( 平川大雪)
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