
第94回全国高等学校野球選手権山梨大会は7月21日、小瀬スポーツ公園野球場で準決勝戦2試合が行われた。2年連続6度目の甲子園を目指した山梨学院高は、第1試合で古豪甲府工高と対戦した。山梨学院のマウンドには右のエース平間凜太郎が上がり、甲府工のマウンドには全試合先発の右腕三浦慎道投手が上がった。平間は1回表の立ち上がりに1点を失い、4回にスリーバンドスクイズを決め、6回にタイムリーヒットを放ちラッキーボーイとなった甲工8番芦沢などに足元をすくわれ3点を奪われた。山学打線は、バッターの手前で落ちる球や内外角いっぱいにキレのある遅い球を投げ分ける甲工三浦の粘りのピッチングに的を絞れず、7回に矢崎のタイムリーで入れた1点にとどまり、2 012年の夏は短い夏で終わってしまった。決勝は甲府工と東海大甲府の対戦となった。
夏の高校野球山梨大会準決勝≪山梨学院高vs甲府工高≫(7/21)小瀬球場
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合計 |
甲府工業高 |
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山梨学院高 |
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バッテリー 山学 平間・廣瀬−矢崎、甲工 三浦−小野、
安打 山学6・甲工7、失策 山学0・甲工1、
平間は1回表の先頭バッターにいきなり死球を与え、1死満塁のピンチに立たされた。5番武田の当たりは右中間を抜く打球、これを俊足の青戸角太郎(3年)がダイビングキャッチで一旦はグラブに収めたが惜しくも落球。1点は奪われたが、このプレーでバッターランナーが一塁走者を追い越す違反、一塁走者タッチアウトで最少失点の1点で初回を切り抜け、2回の無死1・3塁のピンチは併殺に仕留めた。しかし、打線が打てなかった。スピードはないがバッターの手前で落ちる球や、内外角いっぱいにキレのある遅い球を投げ分ける甲府工三浦の粘りのピッチングに悩まされた。3回裏に8番矢崎海(3年)が初ヒットを放ち2死1・3塁としたが後続を断たれた他、いい打球は放っても野手の 正面を突く当たりが多かった。7回裏に5番福本大賀(2年)の内野安打と7番加藤久也(3年)のライト前ヒットでチャンスを作り、8番矢崎のライト前タイムリーでようやく1点を返したが、ここもこの後が続かなかった。甲工は4回裏に3連打で1死満塁のチャンスを作り、8番芦沢健が2球目のスクイズをファオルにした後、4球目にスリーバンドスクイズを決めて2点目を奪った。平間は警戒していた4番の長澤壮徒らの主軸をしっかり抑え、点を取られた後のピンチは良く踏ん張った。6回に伏兵8番芦沢にタイムリーヒットを打たれ3点目を失い7回で降板した。8回から登板した左のエース廣瀬直紀(3年)は、一球入魂の投球だった。素晴らしいピッチングで最後の夏の登板を締めくくった。
平間凜太郎投手「先頭打者への死球とかスクイズとか、ピッチャーがやってはいけないことをして負けました。直球に合わせられたのでスライダー中心にして粘って投げました。甲子園で投げたかったので悔しい」。矢崎海捕手「3番の小野4番の長澤を特に警戒して外を中心に組み立てた。平間にはリラックスして落ち着いて投げろと声を掛け、よく投げてくれた」。廣瀬直紀投手「こういう結果になって残念だが、最高の仲間と野球がやれて良かった」。小林義弘主将「自分たちの中では春は選抜、夏は2連覇というつもりでやってきたが、叶えられなかったのは自分が打てなかったから、不甲斐なさもあるし申し訳ない」。須田喜照監督「選手には連覇のプレッシャーに耐えて勝ち抜こうと言って来た。リラックスして戦ってくれてチャンスは作ったが、三浦君が良く投げていてなかなか点が取れなかった。夏の大会は春とは全然違う、もう一つやり切れなかった」。選手も監督も悔しさを堪えて報道陣の質問に答えていた。
2012の夏は短い夏で終わった。応援スタンド最前列で舞い踊り、声を枯らしてメガホンを振り続けた控え部員の横田悟選手(3年)はスタンドで泣き崩れた。「勝ちたかった、負けたのは悔しい。甲府工業には甲子園に行ってほしい。最後の夏、ベンチに入れなかったけれど、みんなと一緒に戦った、一緒に戦えたことを喜びにしたい」非情なインタビューに声を振り絞って応えてくれた。野球部員だけが負けた瞬間に部活を卒業するのではない。チアリーダー部の3年生7人にとっても、この日が部活を卒業する日になった。チアリーダー部大澤香奈部長「私たちも全員が甲子園に行きたいという思いだったので精一杯声を出しました。負けたのは悔しいけれど、選手は最後まで頑張ってくれました」。それぞれが、それぞれの思いを抱いてグラウンドに立ち、スタンドに立った夏が終わった。振り返ると、7月7日の開会式で主催者の朝日新聞気賀沢祐介甲府総局長が語った言葉が心をよぎる。「4000校余りが参加する大会で一度も負けないのはただ一校だけ、すべての学校がただ一度だけ負ける、そのただ一度の敗戦から何を学ぶのかが大切。この夏の思い出は、君たちにとって将来かけがえのない宝物になります」。選手だけが夏の思い出を作ったのではない。スタンドで応援した生徒も、先生も、保護者も、一緒に一体になって同じ時を過ごし、同じようにただ一度だけの敗戦を経験した。戦いを終えて悔いがないと言えば嘘になる。だが、この悔しさが心を成長させる。この夏の思い出は将来きっと宝物になる。
文(M.T) カメラ(平川大雪・今村佳正)
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