11月2日、山梨学院メモリアルホールで「酒折連歌講座2013」が開催された。山梨学院生涯学習センターが主催する今年4回目の講座。今年の酒折連歌講座は、国民文化祭の関連事業として行われ、最終回の今回は国民文化祭記念特別講座「酒折宮と古代甲斐国」をテーマに国立歴史民俗博物館館長・山梨県立博物館館長の平川 南氏を講師に迎え開催。会場には、歴史愛好家や連歌に興味のある一般聴講者約90人と酒折宮の地元、山梨学院大附属中学校の生徒300人が詰めかけ熱心に話を聞いていた。平川氏は、日本古代史が専門分野で、墨書土器木簡、漆紙などの出土文学資料から日本古代史を研究している。講演の中では、古事記、日本書記や甲斐国史に登場する甲斐国・酒折宮の記述を説明。酒折宮が歴史上重要な場所であったことを解説した。参加者はメモしたり興味深く聞き入っていた。
酒折連歌講座は、山梨学院大学と酒折連歌賞実行委員会が主催する「酒折連歌賞」が創設10周年を迎えた2008年に記念事業として実施された。連歌への文化的価値歴史的価値を検証。そして、連歌への興味・関心から創作意欲の喚起・普及を目的に始められた。毎年開講され、今年で6回目の開催になる。今年は甲府市が国民文化祭の市町村主催事業「酒折連歌」祭として実施。「酒折連歌賞」「酒折連歌の歴史展」「酒折連歌講座」の3部門が行われ、「酒折連歌講座」はすでに5・7・9月に3回開講。今回、最終回の4回目となった11月2日は、国立歴史民族博物館長・山梨県立博物館長の平川 南氏が講師を務め、「酒折宮と古代甲斐国」と題し講演を行った。この講座には一般から110人の申し込みがあり、90人が参加した。課外授業で聴講に来た山梨学院中学校の300人を合わせ、山梨学院メモリアルホールに約400人が来場し、関心の高さを示した。
講演に先立ち、この講座のコーディネーターを務めた「酒折連歌」祭実行委員会の廣瀬孝嘉副会長が講座の主旨説明と講師紹介を行った。講師の平川 南氏は、1943年山梨県出身。山梨大学学芸学部社会科学科を卒業。1970年より宮城県多賀城跡調査研究所勤務。1982年、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)歴史研究部助教授に就任。1989年に教授に昇任。1990年東京大学、文学博士。著書の「漆紙文書の研究」で第12回角川源義賞を受賞。2005年に山梨県立博物館の初代館長に就任後、2006年には国立歴史博物館館長にも選任。現在に至っている。
平川氏は現在、新しい時代の博物館研究のあり方を提案・実践する一方、研究者としては古代日本史を専門分野とし、墨書土器や木簡、漆紙文書などの出土文字資料から日本古代史の研究に力を注いでおり、近年、山梨県地方史では「甲斐」の国名を「交ヒ」とする新説を提唱。古代甲斐国が東海道と東山道の結節点にあったとする位置づけを試みている。講演では、「古事記」と「日本書紀」の両書に記述されているヤマトタケルノミコトの東征伝承のルートを紹介。甲斐・酒折が東国征伐の重要拠点であり、甲斐国は大和朝廷が直轄する3つの国(飛騨<現在の岐阜>・美作<岡山>・甲斐<山梨>)の一つであり、特に酒折宮は政治・経済・軍事・宗教・交通が結節する地点だったことを解説した。そのなかでヤマトタケルノミコトが長い遠征の途中に酒折宮に立ち寄り、ここで問の歌を詠んだが周囲の人は誰も答えられず火の番をしていた老人が答えの歌を即座に詠んだところミコトはこれを賞賛したといい、二人の問答が連歌の発祥とされると酒折宮伝承のロマンを語った。平川氏は古代史の資料から読み解く酒折宮の歴史文化的価値の高さを説明した。また、「歴史を研究する者は一つの資料と素直に向き合う。常に新しい資料、すでにある多くの資料でもひとつの見方を変えたり、原点に戻ったり時に新しい解釈が生まれる。学問は手続きが必要でプロセスが大事」と平川氏は説いた。そして、最後に課外授業で参加した山梨学院中学校の生徒には、「自分たちの足元の歴史文化を見直し、きちんと学ぶことを期待します。学校教育でもっと博物館を活用して欲しい」と注文をつけた。
11月9日(土)には、山梨学院メモリアルホールで第15回酒折連歌賞の表彰式が行われる。酒折連歌賞は、問の片歌(五七七)に対する答えの片歌(五七七)を募り、優れた作品を表彰するもの。前回の第14回までには県内外、海外から総数42万点もの作品が集まり、認知されてきた。今回も多くの作品の中から大賞の文部科学大臣賞を初め、5点が選ばれる。また、表彰式に続き、直木賞作家・辻村深月さんのトークショーが行われる。辻村さんは、笛吹市石和町出身。山梨学院大学附属高等学校を卒業後、千葉大学教育学部を経て作家デビュー。「ツナグ」で第31回吉川英治文学新人賞を、昨年「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞を受賞。今回の酒折連歌賞の選考委員の一人として審査を務めた。トークショーでは、「辻村深月の原風景"ふるさと山梨"」と題して講演する。また、第28回国民文化祭「酒折連歌」祭では、11月10日まで連歌発祥の地「酒折宮」において「酒折連歌の歴史展」を開催。酒折連歌に関する地理的・歴史的資料の展示のほか、3日は雅楽演奏会と能、4日は稚児舞と伝統芸能などのイベントを開催する。
詳しくは第28回国民文化祭甲府市実行委員会
(酒折連歌祭ホームページ)(酒折連歌賞ホームページ)
文・カメラ(K.F)
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