主将の後藤輝也は阿修羅の如く修羅場を駆け、先制トライと流れを呼び戻すトライを決めた。ウイングの安江智一は猛突進してくる相手に真正面から激突して止めた。司令塔のラファエレはキックとパスで引っ張り、ものすごいステップを踏んだ。ラストゲームの4年生がチーム全員の闘志に火をつけた。ラグビー関東大学リーグ戦グループ1部2部入れ替え戦が12月8日、埼玉・熊谷ラグビー場で行われた。11年ぶりに2部優勝を勝ち取った山梨学院大は、1部8位の拓殖大との最終決戦に挑んだ。入れ替え戦に3年連続して敗れてきた4年生は、3年間の屈辱を3倍返しする激走をした。後輩たちは体を張って先輩たちを支えた。その山学フィフティーンを、大型バス5台に分乗して駆けつけた観戦ツ アーの実に204人もの学生が、スタンドから大声援を送った。学生だけではない、去年悔し涙を流したOBも、教職員も、たくさんの山学ファミリーがスタンドを埋めた。ノーサイドの笛、ついに勝った、悲願の、念願の、11年ぶりの1部昇格を決めた。フィールドの選手とスタンドが一体となって歓喜の瞬間を勝ち取った。スポーツって本当に素晴らしい、みんなの心を一つにしてくれる。
舞台は、“ラグビーの街”埼玉県熊谷市の熊谷ラグビー場Aグラウンド、山学大がこの舞台に立つのは4年連続、過去3年間は、いずれも悔し涙で終わった。3年前は法政大に、2年前は中央大に、昨年は大東文化大に昇格を阻まれた。今年のチームは、最後に絶対笑うつもりで戦場にやって来た。その選手たちをスタンドは熱い眼差しで見つめた。カレッジスポーツセンター観戦ツアーで駆けつけた法学科4年の安達香奈さんと金丸晃子さんは「勝てなかった先輩の人たちの思いも胸にしまい、精一杯戦って勝ってほしい」と、祈りを込めた表情で戦場に向かう選手を見つめた。試合は山学のキックオフで午後2時に開始された。
平成25年度関東大学リーグ戦1部2部入れ替え戦
山梨学院大vs拓殖大 (12/8) 於 埼玉・熊谷ラグビー場 |
○ 山梨学院大 50
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前半36−14
後半14−12 |
26 拓殖大 ● |
山学トライ、後藤3、ラファエレ2、安江、森賀、大石、 |
前半の山学は風上に立った。正面スタンドから見ると左から右に強い北風、この風が山学に味方した。開始7分だった、この試合最初のライン攻撃から主将の俊足センター13番後藤輝也(4年 桂)が、相手ディフェンスラインを鮮やかに突破して先制トライ、ゴールも決まった。12分には、189cmの長身フランカー6番大石力也(3年 岡谷工)が相手ラインアウトのボールを奪い40ヤード独走し最後は司令塔のスタンドオフ10番ティモシー・ラファエレ(4年 ニュージーランド)がトライを決めた。試合後、大石力也選手は「みんなが前に出る気持ちでいたので自分も出れた、1年間やって来たことを試合で出せた」と振り返った。前半の山学は、このあとも得点を奪い、36―14の大量リードで折り返した。
後半は試合が一転した。今度は風上に立った拓大が猛然と攻め込んで来た。スクラムを押し込まれ、3分にトライを許した。12分にはゴールライン前で同じ反則を何度も繰り返したとペナルティートライとゴールを奪われ、一気に10点差に迫られた。後半は完全に拓大の流れで防戦一方になりかけたが、16分に奇跡的なプレーが起きた。自陣10m付近でのルーズボールを俊足の後藤が奪取、そのまま50ヤード独走してゴール真下にトライを決めた。このプレーで山学は息を吹き返した。28分には、敵ゴール前のスクラムからスクラムハーフ9番森賀光貴(2年 日大藤沢)が機敏な動きで後藤にパス、主将が再びトライを決め拓大を突き放した。最後の15分間は、拓大が再び猛烈に攻め込んで来 て何度もゴールラインに迫られた。しかし、ウイング14番安江智一(4年 日川)が猛突進してくる相手に怯まず真正面から激突して止めるなど、山学フィフティーンは全員が体を張って相手のトライを阻止した。試合後、安江智一選手は「先輩たちの思いも背負い絶対勝つという気持でした。後輩たちに1部でプレーさせてあげるためにも、ああいうところで抑えた姿を見せたかった」と振り返った。誰もが気力を振り絞り、懸命に守り抜いた末に、ついにノーサイドの笛、50―26で10年ぶりに入れ替え戦に勝利、来シーズンは11年ぶりに1部に復帰することになった。
勝利の瞬間、スタンドは大興奮に包まれた。山梨学院のゲートフラッグが大きく揺れ動き、歓喜の大歓声が沸き起こった。昨年悔し涙を流した三輪京介・石井泰地・小暮平の3人のOBは「俺たちの悔しさを晴らしてくれた、おめでとうという気持でいっぱい、来年は1部で頑張るんだぞ」と後輩にエールを贈った。フィールドの選手たちは、就任10年目に入れ替え戦初勝利を果たした吉田浩二監督とコーチ陣を次々に胴上げして喜びを爆発させた。卒業後はNECでプレーする後藤輝也主将は「フォワードが前に出てくれて、バックスも前に出ることが出来た。後半は詰め寄られたが、全員が絶対取らせない気持ちで守ったことが勝因だと思います。後輩たちには、大学選手権に出ていい結果が残せるように頑張ってほしい」と自身も大活躍した試合を振り返った。ティモシー・ラファエレ選手は「めっちゃ、うれしいです。最初のPKは緊張したが、あとは大丈夫だった。後輩たちには1部で頑張ってほしい」と4年間で上達した日本語で話し「社会人チームのコカコーラでプレーを続ける」と語った。吉田浩二監督は「夏合宿の頃は故障者続出で最悪でしたが、リーグ戦に入った時は、最高の選手が、最高のスタートを切り、最高の結果を出してくれた。入れ替え戦では、すべてをいつも通り、気負わずに戦えと指示し、自分たちのやって来たことをいつも通り出してくれた。50点取った以上に、最後の15分間を守り切ったことが来年につながる、1部でやれる自信を選手は得たと思う」と冷静にチーム力を分析していた。試合終了から1時間後、ユニホームからブレザーに着替えた選手たちは、夕闇の熊谷ラグビー場の場外で緑色の達磨に目入れを行った。そのダルマには「祝1部昇格」「目標達成」の文字が書き込まれていた。後藤主将によって書き入れられた目は、静かに微笑んでいるように 見えた。おめでとう、山学フィフティーン・・・
文(M.T) カメラ(平川大雪)
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