北海道帯広市で4日間にわたり繰り広げられた第86回日本学生氷上競技選手権大会(インカレ)は最終日の1月9日、インカレ恒例の団体戦、男女2000mリレーと3人一組で滑るチームパシュート(団体追い抜き)が行なわれた。総合優勝4連覇中だった山学大女子は、2000mリレーで2位に入ったが逆転ならず、日体大、高崎健大に次ぐ3位となり5連覇はならなかった。一方、今年1部に復帰したばかりの男子が大躍進した。2000mリレーで2位、チームパシュートで3位と最終日の2種目とも表彰台を獲得、この結果、上位にいた早大・明大・日体大を逆転、専大、日大に次ぐ3位となった。男子が名門校・伝統校を押しのけ3位となるのは第64回大会以来で、実に21年ぶり2度目の3位となった。すべての競技終了後、山学大チームは全員でラストラン、花束を手にした4人の4年生は、溢れ出る涙をぬぐい、スケートシューズを脱いだ。
今年のインカレは86年の歴史上初の屋内リンク開催で大会新記録が続出した。中心街の帯広駅前であっても除雪した雪が固まりアイスバーン状態だが、地元の人は「こんなに雪が少ないのは珍しい、去年は2階まで雪があったのに」と話す。土地の人にとっては「穏やか」、本州から訪れた者には「しばれる」寒さの中で、最終日には2つの日本新記録が生まれる記録ラッシュの大会となった。
≪女子2000mリレー 阿部(美)・伊藤・高橋・澤田≫
最終日最初の種目2000mリレーは、1人が500mずつ滑り4人でバトンリレーを行う競技。スプリント力とともにバトンの受け渡しが難しい種目。山学女子は第2組で信州大と同走した。1走の阿部美沙希(3年 白樺学園)は「山梨学院大学、行きま〜す」と大きな声を発して飛び出した。滑らかに力強く滑走、バトンを渡すタイミングも良くいきなりリードした。2走の伊藤さゆり(3年 東海大三)は小柄な体で軽快にピッチを刻み、3走の高橋菜那(2年 白樺学園)は豪快に飛ばした。アンカーのスプリンター澤田芽依(2年 帯広三条)がさらに飛ばし2分39秒31の大会新記録でゴールした。最終組で滑った日体大が大会新・リンク新・日本新の2分37秒24で滑り惜しくも2位となったが、4人は最高の滑りをした。阿部美沙希・伊藤さゆり・高橋菜那・澤田芽依の4人(写真右から)は「みなを信じて、やってやろうと飛び出しました」「最上級生の意地としてしっかり滑りました」「バトン渡しがうまくいったのでよかったと思います」「3人が頑張ってつないでくれたバトンだったので、どうしても早く滑ろうと頑張りました」とそれぞれ喜びを表現した。
≪男子2000mリレー 宗宮・古川・下田・戸田≫
山学男子は、宗宮紘汰(2年 白樺学園)、古川耀(3年 郡山商)、下田琢也(3年 嬬恋)、戸田真也(2年 白樺学園)の布陣、第2組で日体大と同走した。1走の宗宮が勢いよく飛び出し日体大をリード、2走の古川が豪快に滑り、3走の下田は滑らかに滑走、アンカーの戸田が大会新の2分24秒72でゴールに飛び込んだ。最終組の日大が大会新・リンク新・日本新を出し抜かれたが、堂々と2位の表彰台に上った。宗宮紘汰・古川耀・下田琢也・戸田真也の4人(写真右から)は「同走の日体大には絶対負けないと、全力で走りました」「前日までバトンミスでみんなに心配かけていたが、宗宮がいい位置でバトンパスしてくれて頑張りました」「個人種目で活躍出来なかったので、この種目にすべてをかけて滑りました」「個々の力を十分出し切ったベストの滑りだったと思います」と笑顔とガッツポーズで振り返った。
≪男子チームパシュート 高浪・由井(翔)・大林≫
チームパシュート(団体追い抜きとも呼ばれる)は、3人一組で滑り、2チームがメインストレートとバックストレートの中央から同時にスタートする。男子はリンクを8周(3200m)・女子は6周(2400m)して3人目にゴールした選手のタイムで順位を競うスピードスケート独特のチーム戦。2006年のトリノオリンピックからオリンピック種目に採用された。個人戦と違い、強い選手が弱い選手を引っ張り全員が一弾となって滑るのが理想。山学男子は、日体大と第2組で滑った。高浪健太主将(4年 白樺学園)、由井翔(3年 市立長野)、大林昌仁(1年 佐久長聖)の長距離陣3人で臨んだ。全チームが滑り終えたタイムの結果、1位早大、2位日体大、3位山学大、4位専大、5位法大の順となった。山学チームの高浪健太・由井翔・大林昌仁の3人は3位の表彰台に上った。高浪健太主将は「今年は3人揃っているぞとコーチから言われていて、1年の大林君、3年の由井(翔)君が頑張ってくれたおかげで、最後のインカレで表彰台に上ることができました」とリーダーは後輩の健闘を称えた。
女子チームパシュートは、阿部小春(3年 山形中央)・池田千奈美(2年 駒大苫小牧)・朝倉由佳(1年東海大三)で臨み、健闘したが4位となった。
大会の結果、スピード部門男子の総合優勝は専修大(63点)、2位日本大(38点)、3位山学大(24点)、4位早稲田大(23点)、5位日体大(20点)、6位明治大(18点)、7位北翔大(13点)、8位法政大(13点)(同点の場合は上位者の多い大学が上位)となった。
スピード部門女子の総合優勝は日体大(70点)、2位高崎健大(56点)、3位山学大(33点)、4位信州大(14点)、5位大東文化大(3点)、6位慶応大(0点)、7位神奈川大(0点)、8位八戸学院大(0点)(同点の場合は上位者の多い大学が上位)となった。
全ての競技を終えた山学大チーム、集まった選手に対し川上隆史監督は「インカレは、一人ひとりの思いやみんなの思いがすべて集結する特別な大会。伝統ある大学やスター選手が入ってくる大学と違い、山梨学院はみんなの力を合わせないと上位に上れないチーム、男子の総合3位は、たぶん20年ぐらい前以来の快挙だと思う。女子はもっと高いレベルという思いがあるかも知れないが、結果的には男子と同じ3位でよく戦った。4年生をこれで送り出すが、下級生は、男子も女子も、まだまだ上があるという気持ちで頑張ってもらいたい」と話した。和田貴志コーチは「勝負は最後まで判らないと言ってきたが、最後に良く1本取ってくれた。走る選手だけでなく、サポートするもの全員が役割を果たしたからこの成績を収めることが出来た。4年生は苦労したと思うが、よくみんなをリードしサポートしてくれた。全員でつかみ取った3位だ」とチーム全員の健闘を称えた。
そして、山梨学院大スケート部は、マネージャーもユニホームに着替え、帯広のリンクでラストランを行なった。社会に巣立つ4年生との別れを惜しむ惜別リンク周回のあと、松尾健治、高村拓磨、岸田昌也、高浪健太の4人に後輩たちから花束が贈られた。花束を手にした4年生は、一人一人後輩に別れの言葉を述べた。選手として入部したが記録が伸びず、チームを支える側に回った松尾健治マネージャーは「泣かないぞ」と言った直後に泣き出し「山梨学院のスケートに入ってよかった。監督と和田コーチに言われたことをこれからの人生の糧にしてやっていきたい」と泣いた。高村拓磨選手は「監督、コーチ、みんなに迷惑かけてばかりだったけど、本当にありがとうございました」と頭を下げた。岸田昌也選手は「4年間教えて頂きながら、なかなか表に表現できず悔しい気持ちで一杯だったですが、今は感謝の気持ちで一杯です」と気持を表現した。高浪健太主将は「1年の時に優勝した後、フォームと自信が崩れて、みなの期待に応えられませんでしたが、最後のパシュートで3位に入れて気持ちよく終わらせてもらいました。総合3位の時のキャプテンが自分であったことを誇りにこれからの人生をしっかり歩いて行きたい」と言葉を結んだ。4人は溢れ出るものに手をやり、監督・コーチ・チームメート・家族・支えてくれた人すべてに感謝する気持を言葉に表し、競技生活とリンクに別れを告げた。
文(M.I) カメラ(平川大雪)
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