学校法人山梨学院は、学生・教職員・外部有識者が連携して調査と研究を行う「甲斐の古道プロジェクト委員会」を昨秋正式発足させ、酒折を起点にした古道の現況調査に取り組んでいる。創立70周年記念事業に向けて長期にわたり民俗学的学術調査を実施する。昨年度に山梨学院大学考古学研究会の学生たちが、学生チャレンジ制度の認定を受け、大学近くの山崎三叉路から山梨市までの雁坂路(秩父往還)・青梅街道に関わる石造文化財や民俗行事を先行調査しており、今年度はその延長線上の山梨市・甲州市・丹波山村・小菅村を対象に、古道沿いの道標、道祖神、民俗行事、伝承などの調査に取り組んでいる。1月14日には、山梨市の市川地区と雷地区に伝わる小正月行事を調査した。中心的に実地 踏査を行なっている考古学研究会の学生たちは、今年度分の調査結果を3月末までに調査報告書「甲斐の古道調査2」にまとめることにしている。
江戸時代後期に編纂された『甲斐國志』(巻之一「提要部」及び巻之三十八)には「本州九筋ヨリ他州ヘ通ズル路九條アリ(中略)皆酒折ヨリ路首ヲ發起ス」(甲斐の国から他国へ通じる道は9筋あり、それらはみな酒折を起点としている)と記載されている。「甲斐九筋」は甲斐国内の古道と地域区分の総称。河内路(駿州往還)、右左口路(中道往還)、若彦路、御坂路(鎌倉街道)、萩原路(青梅街道)、雁坂路(秩父往還)、穂坂路、大門嶺口(棒道)、逸見路(信州往還)の9路を指す。連歌発祥の地酒折宮を中心とした甲府市東部地域は、『古事記』『日本書紀』の時代から、東海道と東山道の結節点、交通の要衝として、また、生産・流通の拠点、文化・行政の交流基地として、重要な役割を果たしてきた。現在でも、盆地を横断する交通路(甲州街道など)と、盆地を縦断する交通路(御坂路、中道往還など)が交差する交通の要衝として位置づけられている。大学のある酒折地区が、古来より交通の要衝であったことから学校法人山梨学院は、昨年10月末に「甲斐の古道プロジェクト委員会」を発足させ、創立70周年記念地域貢献事業に向けて4年間にわたり民俗学的学術調査を行うことにした。
実地踏査に取り組んでいる山梨学院大学考古学研究会の学生たちは、昨年山梨市牧丘町塩平集落に伝わる道祖神祭「塩平の獅子舞」と甲州市藤木地区に伝わる「藤木道祖神太鼓乗り」を先行調査したのに引き続き、今年は、山梨市市川地区の3か所と旧三富村雷地区に伝承されている小正月行事を調査した。昨年は大雪であったが、今年は寒さこそ厳しかったものの好天となり、清水勇希・土橋正弥・斉藤裕志の3人の学生と顧問の十菱駿武客員教授が調査を行なった。昼間の段階で、地区の道祖神を藁や檜の葉で包んだ「御小屋(おこや)」と「御柳(おやなぎ)」の形態を調査し、夜は家内安全・五穀豊穣・習字の上達などを願い、山梨市では「どんどん焼き」と呼んでいる道祖神祭の火で団子を焼く大人や 子どもたちの姿をカメラに収め、地区に伝わる小正月行事の由来と伝承について聞き取り調査を行った。
考古学研究会の学生たちは、12月まで行った今年度の現地調査と今回の小正月行事調査について、報告書を作成する作業に入っており、3月末までに調査報告書「甲斐の古道調査2」として冊子にまとめることにしている。また、プロジェクト委員会は、山崎三叉路が青梅街道、秩父街道の起点として、今にその姿を残していることから、「甲斐古道の起点、連歌発祥の地、酒折」にちなみ、三叉路近くの空き地を「甲斐の古道公園(仮称)」として整備することにしており、甲府市東部の まちおこし、ふるさとおこし、学園都市さかおりの活性化を実現させていくことにしている。
文・カメラ(M.T)
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