「第93回全国高校サッカー選手権大会」3回戦。大晦日に滝川二高、2日に岐阜工高を下し3日の3回戦に進出した山梨学院高は、前日と同じ東京・駒沢陸上競技場で群馬代表・前橋育英高と対戦した。序盤は押し込まれたが、徐々に自分たちの形を作り、後半2分にFW宇佐美佑樹が先制ゴールを奪った。後半10分に同点に追いつかれ、その後は一進一退、後半途中出場した小川雄大のシュートがポストに当たる不運もあり1−1で終了、2試合連続となるPK戦に突入した。サドンデスまでもつれた末に5−6で敗れ、3年振り4度目の選手権はベスト16となった。試合後の選手たちに涙はなかった、それは、大会3試合で一番いい戦いをしたから、胸張って山梨に帰って来い。
3回戦の山梨学院高はファーストジャージのプルシアンブルーに戻り、青い輝きを取り戻した戦士たちが駒沢陸上競技場のピッチを疾走した。対する前橋育英高は黄色と黒の縦縞のユニホーム、プリンスリーグ関東でいつも闘っていて互いに手の内を知っている同士が激突した。前日同様に第1試合がPK戦までもつれて応援席の入れ替えが遅れ、全校応援団がまだ席に着けない状態のままこの日も午後2時10分に慌しく試合が始まった。
第93回全国高校サッカー選手権 3回戦
≪山梨学院高vs前橋育英高≫(1/3) 於 東京・駒沢陸上競技場
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1 前橋育英高 ○ |
得点 宇佐美佑樹(山学) 宮本鉄平(前橋) |
序盤の前橋育英の攻撃はものすごかった。これでもかこれでもかと恐怖の波が次々に襲って来た。細かくパスをつなぎ、サイドから仕掛けたりDFの背後にボールを入れて何度も迫ってきた。応援スタンドからはその度に悲鳴が上がった。「だめだ、強すぎる、点を取られるのは時間の問題だ」とため息が漏れた。しかし、青き戦士たちはその猛攻に耐えて見せた。徐々に徐々に自分たちの形を作り出した。18分過ぎに188cmの長身FW原拓人がヘッドで合わせゴールポストに当てた。このあたりから攻撃にリズムが出てきた。前半は0−0で終了。そして、後半開始早々の2分にFW20番宇佐美佑樹がドリブル突破でゴール前に迫りシュート、GKが伸ばした手のわずか上を超えてゴールネットを揺ら し先制した。しかし、10分にCKのボールを前橋の184cmDF宮本鉄平にヘッドで合わせられ同点にされた。山学ベンチは12分に足の負傷で先発を外れていたMF10番小川雄大を投入した。その小川が24分に左サイドから切れ込みシュートを打つがポストに当たった。その後もピッチ上に火花が散る攻防がずっと続いた。山学の守護神古屋俊樹はこの試合も獅子奮迅の活躍をした、前橋の15本におよんだシュートを雷神の如く右に左に飛んで止めた。両チームともに得点を奪えず1−1で終了、PK戦の結果5−6で前橋育英の勝利となった。
山学高応援団はこの日も大声援を送った。吹奏楽部のリードでチアリーダーが舞い、♪ここは俺たちの夢かなう場所と歌い、サッカータオルを広げて波を打ち、スタンドをブルー一色にした。ハーフタイムにサッカー部員7人が行う妖怪ウォッチの「ようかい体操第1」は前日よりパワーアップされ応援スタンドを一段と盛り上げた。敗戦の瞬間、応援スタンドは一瞬時が止まった、そして、静かに涙を流した。うなだれて応援スタンド前にやってきた選手たちには声を枯らし健闘を称える拍手を送った。3試合ともスタンドで舞ったチアリーダー部の向山稔里新部長(2年)は「相手は強いといわれている高校でしたが、選手たちは最後まで全力で戦ってくれました。応援団も一体となって最後まで全力で応援できたと思います」と話しそっと涙を拭いた。寒さをこらえて演奏を続けた吹奏楽部の弦間美波新部長(2年)は「3年生の先輩方も大勢参加してくださって力を頂きました。「ようかい体操第1」や「紅蓮の弓矢」の新曲も力一杯演奏できました。来年は2年生が吹奏楽部を引っ張る立場になりますが、自分たちの部活も各部活の応援も先輩たちを見習って一生懸命やりたい」と話し真冬の応援スタンドに別れを告げた。
試合後の選手たちに涙はなかった。大場祐樹選手「悔いはないです、悔しいという涙は出てこなかった。戦い抜いたという思いの方が強いです。サッカーを続ける上で貴重な経験が出来たと思います」。多田倫浩選手「自分たちは個人が強いわけではないので、全員で守備して、全員で攻撃するということを意識していて、どれだけ我慢できるかということがポイントでした。PKは運ですし、負けたと思っていません。ゲーム自体も負けていなかったと思います」。小川雄大選手「熱い応援があり、自分が出来ることをやって勝負を決めようピッチに入りました。ポストに当たったのは運がなかっただけ、足のケガは言い訳にしたくないです」。山中登士郎主将「前橋はいいチームでしたし、それに対して自分たちもチャンスを作れたので本当にいいゲームでした、3試合の中では一番いい試合が出来たと思います。最後はPKで紙一重という形になってしまいましたが、悔いはないなと思います」。吉永一明監督「立ち上がりは攻め込まれて苦しい時間もありましたが、そこはよく凌いでくれたと思います。どっちが勝ってもおかしくないゲームでした、大会に入って3試合目でしたが一番いいゲームだったかなと思います。試合を終えた選手に対しては「この経験を糧にしてこれから頑張ってほしい」と話しました。よく頑張ってくれた3年生に感謝したい」と全員が3年生の選手の健闘を称えた。
3年振り4度目の選手権、今年の3年生にとっては最初で最後の選手権、大晦日の滝川二戦の山学イレブンは硬かった、原拓人のPKで何とか勝利をもぎ取った。正月2日の岐阜工戦は攻めて攻めて攻めたが得点を奪えずPK戦古屋俊樹の好守で辛勝した。前橋育英戦の前にDF渡部剛は「自分たちは、格好よくではなく、泥臭く、気合の入ったプレーで立ち向かう」と語った。正月3日の山学イレブンは渡辺の言葉通り、前橋の猛攻に泥臭く立ち向かい、序盤は押されたが終盤は押し勝った。見事に戦い抜いて見せた、3試合で一番いい試合をした。決して負けていなかった、ただ運がなかっただけだ。青き戦士たちは涙を流さなかった、その姿が自分たちの力を出し切り全力で戦い抜いたことを証明していた 。その胸には悔しさではなく誇りを宿していた。胸張って山梨に帰って来い、青き戦士たち!
「文(M.I)カメラ(平川大雪・M.T)2015.1.3
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