社会科学研究科創設20周年記念フォーラム
~片山善博氏が地方創生と大学の役割を講演~
~興味あるテーマに多くの参加者が熱心に傍聴~
山梨学院生涯学習センターは、山梨学院大学大学院社会科学研究科が20周年を迎えたことで、「創設20周年記念フォーラム」を11月29日、山梨学院50周年記念館(クリスタルタワー)で開催した。社会科学研究科は高度な知識と実務能力を備えた専門知識職業人を養成する目的で1994年、公務員、議員、経営者など多様な人々を対象に創設された。今までに400人余りが修了し、それぞれの分野で活躍している。記念フォーラムは、20年間の歩みを回顧するとともに、これからのさらなる発展のあり方を展望する目的で行われた。第1部は慶應義塾大学法学部教授で元総務大臣の片山善博氏が「地方再生と高等教育機関の役割について」と題して記念講演を行い。第2部では日高昭夫山梨学院大学副学長がコーディネーターとなり、今井久同大学大学院社会科学研究科教授らが「山梨の地方創生と地域の魅力づくりのために大学・研究者に期待されること」をテーマにパネリストがそれぞれの専門分野から地域づくりのあり方についてパネルディスカッションが行われた。会場は、修了生や自治体職員、学生、教職員、一般市民など約140人が集まり、満席の盛況だった。
社会科学研究科は公共政策を担う人材の育成。社会人のキャリアアップ、地域産業の振興を図るための人材育成、国際的分野で活躍する人材の育成など、高度な知識と実務能力を備えた専門知識職業人を養成する目的に1994年に創設。約400人が修了している。
わが国の人口は、2008年をピークに減少に転じ、2050年には1億人を切り、9,700万人程度に減少すると見込まれ、将来、896にも及ぶ自治体が『消滅』の危機にあると言われている。この問題に取り組むため、政府は「まち・ひと・しごと創生本部」(地方創生本部)を設置し、昨年12月27日、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(地方創生ビジョン)と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(地方創生総合戦略)を策定した。それと同時に、各自治体に対して、地域の実情に応じたビジョンと総合戦略の策定を要請。こうした「戦略」を展開していく上で、地域を支える人材、いわゆる「ローカル人材」の積極的養成と、それに貢献する高等教育機関の抜本的変革が重要な鍵と考えられる。本フォーラムは、「地方創生」と高等教育機関とあり方に焦点を当て、国内の有識者や地域住民の方々とともに考えていく場として開催した。
初めに古屋忠彦学長が、「山梨学院大学は、私立とか国立の枠を超えて、高等教育機関としてあるべき姿を模索する。愛される大学になるためにこれから何をするか、何が出来るか、それを皆で考えようとする時代が来ました。ちょうどターニングポイントである70周年を機に、新しい山梨学院に生まれ変わろうとする時に、国にあって最もこのテーマに相応しい方をお招きすることが出来ました。講演を通じて1つでも2つでもヒントになるものを捉えられたら、何を実行したらいいか皆で考えようではありませんか」と挨拶した。続いて江藤俊昭大学院社会科学研究科長は「政府の動向はともかく今後の地方とか地域のあり方を山梨という場から発信していきたいと考えています。山梨の良い資源を様々に良い方向に結び付けていく人材が求められている。そういう意味では高等教育を今まさに議論する時期に来ている。地域に根差し、世界に開かれた新たな大学を目指すことを模索する場にしたい」と今回のテーマの概要を説明した。
◆第Ⅰ部《記念講演 片山善博氏》
第1部の記念講演は慶應義塾大学法学部/元鳥取県知事/元総務大臣の片山善博氏を講師に招いて行われた。「地方創生と高等教育機関の役割について」をテーマに1時間の講演を行った。片山氏は国の施策についての苦言や、鳥取県知事だった頃の鳥取の地域づくりの現状分析など地域創生の課題に立ち向かう難しさを解説。地元大学に期待する役割については、「地域の抱えている課題を診断することが必要。診断する時に役所だけでやっていると限界がある。大学には立派な専門家がいるのでその専門家に頼れば、役所の人間がやるより余程良い顕著な成果が出てくる。本当の意味での地方創生というのは、地元の高等教育研究機関の力を存分に活用することが大事。逆にいうと地元の高等教育研究機関の皆さんは地域に目を開いてこれまで以上に地域に目を向け、そこに自分たちの研究テーマを見出し、そこからメジャーになっていくことを心掛けていく。ローカル人材というものが地方創生にとって重要」と提言した。
◆第Ⅱ部 《パネルディスカッション》
第2部は、地方創生、新たな地域経営のために主体的に発信、活動する山梨にゆかりのある方々のパネルディスカッションが行われた。「山梨の地方創生と地域の魅力づくりのために大学・研究者に期待されること」がテーマ。パネリストは、風間ふたば山梨大学大学院総合研究部国際流域環境センター長、佐藤文昭大学コンソーシアムやまなし事務局コーディネーター、守屋守山梨県企画県民部長、今井久山梨学院大学大学院社会科学研究科教授、コーディネーターに日高昭夫山梨学院大学副学長があたった。それぞれの研究テーマから地域創生に関わる活発な意見が出された。風間ふたば氏は「地域で活動するためには、その地域を知ること。山梨は豊富な水資源を県外に供給するなど強みがある。このような強みに気付いていないのが弱み」、今井久氏は「山梨の風土や歴史、都会との距離を考えた創意工夫のエッセンスを持ち、地域の課題を民間で考えていくソウシャルビジネスが必要」、佐藤文昭氏は「山梨県の人口は全国41位。それに対して県内にある12大学・短大の学生数は山梨県の人口に占める割合は全国13位と上位に位置する。大学間の資源を持ち寄ることで地域連携が図れ、地域の活性化が期待される」、守屋守氏は「地方創生の論議は、早く先取りをして前を進む取り組みをやっていくことのいいきっかけを得られたと考えて行くと、山梨県の弱みが20年、30年後には強みに変わる可能性がある。現状をダイナミックに分析して、強みを効果的に変えていくことが重要」などと、地域創生と地域づくりについてそれぞれ専門分野を切り口に意見を述べた。会場には最後まで熱心にパネラーの意見を聞く、多くの参加者の姿が見られた。
文(K.F) カメラ(平川大雪) 2015.11.30