天皇杯全日本レスリング選手権大会
~リオ五輪最有力選手、高橋侑希無念!出場を逃す~
~大学1年コンビ、乙黒圭祐優勝、藤波勇飛2位~
リオデジャネイロオリンピック代表選考をかけた「天皇杯全日本レスリング選手権大会」が12月21日から23日までの3日間、東京・代々木競技場第2体育館で行われた。男女合わせて24階級種目が行われ、社会人から高校生まで出場資格を満たした選手が各階級で日本一を争った。山梨学院大からは8人、OB8人が出場した。3日目最終日、波乱が起こった。フリースタイル57㎏級優勝最有力の高橋侑希(4年)が3回戦で敗れ、リオ五輪出場のチャンスを逃してしまった。周囲の期待も高かっただけに悔やまれる大会になった。1日目には男女9階級が行われ、山梨学院大からは5人が出場した。フリースタイル61㎏級の乙黒圭祐(1年)は決勝戦で、これまで2度対戦して2度負けている優勝候補筆頭の有元伸吾(近畿大)に勝利し、初優勝を飾った。フリースタイル65㎏級・藤波勇飛(1年)は決勝戦で2013年60㎏級世界選手権出場、今年の国民体育大会65㎏級で優勝した前田翔吾(クリナップ)と接戦を演じ惜しくも敗れ2位となった。オリンピックを懸け、優勝を狙った高橋選手と1年生コンビが優勝と2位の好成績を挙げる、明暗を分けた大会となった。
■大会1日目 12月21日 東京・代々木競技場 第2体育館
◆フリースタイル61㎏級優勝・乙黒圭祐(1年)、優勝候補を一蹴
フリースタイル61㎏級の乙黒圭祐(1年 東京・帝京)は山梨県出身だが中学2年の時にJOCエリートアカデミーに入校、将来オリンピックを目指す逸材として研鑽を積んできた。今春山梨学院大に入学。夏に初めての「全日本学生選手権」(インカレ)で準優勝を果たした乙黒だが、11月の内閣杯全日本大学選手権では4点技を決めた直後に相手に返され、フォール負けするなど、防御でのもろさが課題となっていた。しかし今大会では、しっかり対策を固め、準々決勝では内閣杯2位の葛西飛駿(専修大)、準決勝では、全国社会人選手権優勝の菊池憲(静岡クラブ)を危なげなく判定で敗り、決勝に進出した。決勝の相手は、昨年の天皇杯3位、今年の全日本選抜選手権(明冶杯)2位で学生二冠王者の実力者、有元伸吾(近畿大)。この大会の優勝候補の筆頭。乙黒は6月の明冶杯で敗れ、8月のインカレでも決勝で敗れた因縁の相手。決勝戦は、第1ピリオド(1P)互いに素早い動きで攻撃を仕掛けるが、乙黒が終始先行。1分35秒、4点技を奪い、8-2とリード。相手も実力者、4点技を返し意地を見せる。第1Pを9-6で折り返すと、第2P、相手は猛攻をかけるが乙黒も必死に凌ぎ、チャンスに再び4点技を奪いさらにポイントを加え、4分53秒、19-8のテクニカルフォールで宿敵の相手を倒し、初優勝を飾った。乙黒圭祐選手は「前回大会の1位と3位の選手がいなかったので、自分にもチャンスがあると、出るからには優勝を狙おうと行きました。減量、調整もうまくいき、身体の動きも良かった。小さい頃から憧れていた大会なので優勝はうれしいし、自信になりました。」と喜びを表した。オリンピックのことを聞くと、「リオは無理ですけど、東京、その次を目標にします」と抱負を語った。
◆フリースタイル65kg級2位・藤波勇飛(1年)、一瞬の油断を挽回できず
藤波勇飛(1年 三重・いなべ総合学園)は、東京五輪に最も近いと評価が高い選手。大学に入り、1年生ながら着実に実績を積み上げ、今年8月ブラジルで行われた世界ジュニア選手権で準優勝を果たし、11月の内閣総理大臣杯全日本大学選手権でも優勝するなど、名を高めている。今大会のフリースタイル65㎏級には、今年の世界選手権代表の石田智嗣(警視庁)や2014年世界選手権7位の高谷大地(拓殖大)ら7人の世界選手権経験者が集まる激戦区。そこに藤波がいかに食い込むかが注目された。1回戦を難なく下すと、2回戦は前回大会2位の田中幸太郎(阪神酒販)とは前半先行するも後半逆転され予断を許さない展開。最後はポイントからフォールに持ち込み勝ちを収めた。準々決勝は同門の初見智徳(3年)と対戦、テクニカルフォールで下すと、準決勝は、前出の石田智嗣。強豪との戦いになった。最初にポイントを取ったのは藤波、激しい攻防で同点に追いつかれ、2-2同点で終了。最初に2点取った藤波がビッグポイントで辛くも勝利、決勝に進んだ。決勝戦は、世界選手権経験者で今年の国民体育大会優勝の前田翔吾(クリナップ)。静かなこう着状態が続いた2分。あっという間に一本背負い4点技を決められた。藤波勇飛選手は「最初に4点を奪われたのが大きかった。あの1本に悔いが残る」と悔しがった。第2P、技の掛け合いの好ゲームを展開、中盤一旦は同点にするも、最後まで逆転は成らず5-6で終了。「石田さんに勝った時点で優勝しか狙ってなかった。負けたのは上ばかり見ていて足をすくわれたという感じです」と油断を反省した。初挑戦、激戦区での優勝を逸した。「自分はまだ失うものはないので思い切って試合に臨みました。結果的には優勝できなかったですけど、実力は示せたと思います。石田さんや強い選手に勝ったことが自信になりました」と淡々と話した。
1日目、他の山梨学院勢の結果は、フリースタイル65㎏級・初見智徳(3年 千葉・関宿)ベスト8、同級・後藤佳吾(可茂消防事務組合)1回戦敗退。階級を上げて出場した鴨居正和(自衛隊)ベスト8、フリー86㎏級・奈良部嘉明(筑西広域消防本部)1回戦敗退。グレコローマンスタイル66㎏級・雨宮隆二(4年 山梨・韮崎工)1回戦敗退。グレコ130㎏級・貝塚賢史(2年 茨城・霞ヶ浦)ベスト8。
■2日目 12月22日 東京・代々木競技場 第2体育館
2日目は男女9階級が行われ、山梨学院勢の結果は、フリースタイル125㎏級・宮内健太(2年 山梨・農林)1回戦敗退。同階級・金澤勝利(自衛隊)4位、フリー70kg級・森川一樹(栗東クラブ)負傷のため決勝戦を棄権2位。グレコ98㎏級・山本雄資(警視庁)4位、同階級・有薗拓真(ALSOK)1回戦敗退。
■3日目最終日 12月23日 東京・代々木競技場 第2体育館
◆波乱の幕引き。フリー57㎏級・高橋侑希、一瞬のミスで“リオ五輪の夢”潰える
3日目最終日、フリースタイル57㎏級・高橋侑希(4年 三重・いなべ総合学園)が登場した。優勝候補筆頭で周囲の期待を一心に集める。高橋侑希は6月の明冶杯全日本選抜選手権で因縁のライバル森下史崇(ぼてじゅう)と決勝戦、プレーオフの死闘を制し、2年連続の世界選手権に臨んだが、オリンピック代表選考の3位以内を獲得できず、内定を見送られた。一から出直し、満を持してこの大会に備えてきた。一月前の内閣総理大臣杯の優勝した時、「今日は良かったですけど、小さいミスが次の天皇杯の勝敗を分けてくるので修正しなくては。1ヶ月と少しあるので天皇杯に向けて怪我や体調管理に気を付けて頑張ります。期待していてください」と自信を覗かせていた。その小さなミスが最後の最後に重く圧し掛かった。2回戦、同門の小柳和也をテクニカルフォールで下し、3回戦の対戦相手は川野陽介(自衛隊)。断然高橋有利と目されていた。試合は、開始10秒相手の足へのタックルを不用意に受け、ポイントを失った。そのままローリングされ、8ポイントを先制された。高橋侑希選手は「まだ序盤なので返そうと反撃したが、焦りがあった」。必死の反撃で第1Pで5ポイントを返し5-8で折り返す。第2Pでもポイントを重ね、一時9-8と逆転するも、いつもの高橋ではなかった。ここまで挽回のため体力を使い、相手に簡単に追い着かれる。残り18秒決定的な2ポイントを与え、力尽きた。10-12、波乱の幕引き。リオ五輪最有力者の夢は潰えた。「世界選手権に2度出て世界の強豪たちと戦えたことは、自分のプラスに成っている。それでリオ五輪に出場することが夢だったんですけど、最後の最後に勝ちきれなかったことは、今まで成績良くても最後が悪かったので、次はチャレンジャーとしていきたい」と最後は気持ちを切り替え、東京五輪を目指すことを誓った。
3日目、他の山梨学院勢の結果は、フリースタイル57㎏級・小柳和也(3年 山梨・韮崎工)2回戦敗退、同74kg級・木下貴輪(2年 鹿児島・鹿屋中央)は、大会直前負傷、棄権。グレコローマンスタイル59㎏級・倉本一真(自衛隊)ベスト8。
高橋選手の試合後、小幡邦彦コーチは「一発勝負の怖さは、本人も分ったと思うので、若いので次のオリンピックに向けて4年間、同じ失敗をしないように気持ちを切り替えさせていきたいと思います。今は、まだ何も考えられない状態なので落ち着いてから冷静に今回の課題を指摘しようと思います。優勝した乙黒たちも大きな大会は、強い選手も下から突き上げられ小さなミスが命取りになるということを目の当たりに感じたと思う。その点をしっかり踏まえ修正させていきたい」と語った。高橋選手は、卒業後吉田沙保里、伊調馨選手が所属する「ALSOK」に進むが、練習の拠点を山梨学院大学でするという。
文(K.F) カメラ(平川大雪) 2015.12.23