「第十七回酒折連歌賞」表彰式
~大賞今村光臣さんら上位5人に表彰状授与~
~表彰後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣~
「第十七回酒折連歌賞」の表彰式が2月21日、山梨学院広報スタジオで行われた。今回の応募は国内外から昨年より2,500句多い、総数31,251句が寄せられ、その中から一般部門大賞・文部科学大臣賞には今村光臣さん(山梨学院高1年)、山梨県知事賞は伊賀﨑美千代(福岡県宗像市)、山梨県教育委員会教育長賞の秋山恵里さん(山梨県立第一高2年)、甲府市長賞の今田紗江さん(徳島県徳島市)がそれぞれ受賞。小・中・高校生を対象にしたアルテア部門の大賞・文部科学大臣賞は水野真奈香(静岡市立清水第八中3年)が受賞、上位5人に表彰状と副賞が贈られた。一般部門の大賞・文部科学大臣賞を受賞した今村光臣さんは「酒折連歌には中学1年から学校の取り組みで応募していましたが、今までどの賞にも入らなかったので、新聞で今回の受賞を知ったときは非常に驚きました。それからは知り合いの方々からたくさんのお祝いの言葉をいただきました」と受賞の喜びを語った。5人の受賞者は、表彰後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
◆酒折連歌賞とは
わが国の連歌発祥の地とされている『酒折宮』にちなんでつくられた酒折連歌賞は、1998年(平成10年)、多くの人に連歌に興味・関心と創作意欲を持ってもらい、連歌を蘇えらせ普及させ、文学の振興、文化の創造を推進しようと、山梨学院大が母体になり創設された。「古事記」に登場する倭建命(日本武尊)と御火焼(かがり火役)の老人との問答にちなみ、五・七・七の問いの片歌に対して答えの片歌五・七・七で返す問答形式の歌遊び。文学形態上からも珍しく特色があるといえる。伝統を現代に活かそうという試みは、今回で第十七回を数え、一般部門では大賞の文部科学大臣賞を初め、山梨県知事賞、山梨県教育委員会教育長賞、甲府市長賞があり、また、小・中・高校生を対象に、斬新で若々しく将来楽しみな才能を見出すことを目的としたアルテア部門にも昨年度より大賞・文部科学大臣賞が設けられた。表彰式に招かれた上位5人の句のほか、入選10句、優秀賞12句、優良賞54句、アルテア賞佳作19句の合計100選が選出された。
◆清々しい表情で表彰式に臨む上位5人の受賞者
表彰式では、主催者代表の古屋忠彦山梨学院大学長は「酒折連歌賞選考委員の先生から初期の頃からの作品に比べて質が高まったとお褒めをいただいき、誇り高く自分が誉められたような気持ちがしました。連歌にしても短歌にしても質というのは客観的なものではなく、時代とか、歌を詠む人の感性とか色々なつながりが出てくるもので、柔軟性があるからこそ歌の良さが出てくるのではないかと私は感じています。そんな中、受賞者でこんなに若い人が出てきたのは17回目で今回初めてで嬉しく思います」と挨拶した。続いて川手千興酒折連歌賞実行委員長が「酒折連歌賞は地域文化の創造拠点であるとの目標にやってきています。酒折連歌は2人唱和の片歌問答と規定することが出来ます。これは全国に例のない形態で珍しいという点で山梨の特色を世に出そうという狙いもありまして、今後ともより一層真剣に取り組んでまいります」と挨拶した。選考委員の三枝昂之委員長は「酒折連歌の選考は何しろ応募が多いから大変です。しかし楽しいです。なぜ楽しいかというと短歌や俳句というのは、自分ひとりで作って自問自答します。酒折連歌は例えば私が問いかけをすると1万以上の人が答えを返してくれます。つまりコミュニケーションができます。たった一つの問いが1万以上の問答になる。そこがとても楽しい。今回、選考委員は『良い句が選べた』と思っています。大変素敵な答えを返してくれました。来年もこの場所で会いましょう」と一つひとつの句に講評を加えながら挨拶した。一般部門大賞・文部科学大臣賞の今村光臣さんは「酒折連歌には中学1年から学校の取り組みで応募していましたが、今までどの賞にも入らなかったので、新聞で今回の受賞を知ったときは非常に驚きました。それからは知り合いの方々からたくさんのお祝いの言葉をいただきました。今回、一番嬉しかったのは同級生からの言葉です。僕の友だちに非常に辛口な男がいまして、今回の受賞で皆がちやほやする中で、大賞だとはいえ、しけた歌だろうと思っていたらしいですが、僕の歌を見て『あれは十分大賞に値するよ』と言ってくれました。その言葉が何よりも嬉しかったです」と受賞の喜び語った。
◆上位5人受賞者の感想
◆一般の部 大賞・文部科学大臣賞 今村光臣さん | |
問いの片歌1 自転車のギヤを一段あげよう今朝は |
答えの片歌 立ち漕ぎでアンナプルナを上り切るため |
今村光臣さん(山梨学院高校1年 16歳 甲斐市在住)
「このような大きな賞をいただき大変嬉しいです。中学から応募はしていましたが、普段詩や歌を読むことさえない素人なので、当然賞に入ることはありませんでした。文部科学大臣賞と聞いた時はとても驚きました。学校の宿題として6句ほど作り、その後ブラッシュアップすることになっていたのですが、すっかり忘れていて締め切りの日の朝早くに起きてこの句を書きました。今思えば朝早い清々しい冷たい空気に触れたから「雪山」という題材が浮かんだのかも知れません。電子辞書で『アンナプルナ』を見つけ、語感も良かったので使いました。後は困難なことにも、物怖じせずぶつかっていく男子高校生の無根拠な勢いのよさを立ち漕ぎの自転車というものに投射し、細かいことは考えず、ストレートに表現しました」。
◆一般部門 山梨県知事賞 伊賀﨑美千代さん | |
問いの片歌5 歩くこと走ること風の声を聞くこと |
答えの片歌 不確かなでも確実な存在証明 |
伊賀﨑美千代さん(主婦 34歳 福岡県宗像市在住)
「5番の問いの片歌を見た時、すぐに日課である愛犬と子どもたちの散歩の風景を思い浮かべました。子どもたちが『近道』、『ひみつの道』と称するバレバレの細い遊歩道を、私に隠れて歩き走っていきます。その足音で『ああ先に公園に向かったな』とか『足音が止んだからどこかに隠れているな』とか子どもたちの様子が分ります。…その足音を風伝いに聞いて私の眼の届かない所にいる子どもたちの存在を知るのです。5つの全ての問いの片歌に応募しましたが、5番の問いが一番日常的で自然に答えが出てきた句でした。問いの句に19文字で答えの句を作るのはとても面白く、奥が深く、実に高度な言葉遊びだと思います。次回以降も挑戦したいですし、子どもたちにも是非チャレンジさせてみたいです」。
◆一般部門 山梨県教育委員会教育長賞 秋山恵里さん | |
問いの片歌2 だれか来る木々の匂いと風をまといて |
答えの片歌 参観日一番乗りの僕の父さん |
秋山恵里さん(山梨県立甲府第一高校2年 16歳)
「学校の授業の中で作りました。問いの片歌の『木々の匂い』、『風』という言葉に自然のあたたかさの良い印象を受けたので、「だれが来たのか」を考えてみたいと思いました。すると小学校の頃、授業参観に父が来てくれたことが思い出されました。自分の様子を見られることは恥ずかしいという気持ちもありましたが、私のために仕事を休み、見守ってくれる父の姿はあたたかくて、とてもうれしかったことを覚えています。その時の喜びを、女の子よりも素直に表現できそうな少年に託し、『一番乗り』という誇らしさや清々しさのイメージを加えて答えの片歌を作りました。まさかこのような賞をいただけるとは全く思っていなかったので驚きました。酒折連歌から言葉が与える力、言葉の大切さや面白さを感じます」。
◆一般部門 甲府市長賞 今田紗江さん | |
問いの片歌3 啄木のひたいに触れて聞くかなしみは |
答えの片歌 キツツキになれずあなたの心も打てず |
今田紗江さん(主婦 48歳 徳島県徳島市在住)
「ずっと憧れていた賞です。とてもうれしいです。歌仲間に教えていただいたのをきっかけに6年前から参加させていただいています。100選に一度、入選に一度、今回やっと市長賞をいただけました。「一握の砂」を読んだのは10代の初めでした。「いのちなき砂のかなしさよ さらさらと握れば指のあひだより落つ」。こぼれ落ちる砂で弱者の絶望や哀しみを表現した歌に感銘を受けました。言葉遊びの延長で歌を作り始めて8年になりますが、私は10代の私の心を打った啄木のように誰かの心に残る歌をつくることはできません。いつかそんな歌をつくれたら良いな…という想いを片歌にしました。次は文部科学大臣賞を…というのはおこがましいですが、諦めずにまたチャレンジしたいです」。
◆アルテア部門<小・中・高校生対象> 大賞・文部科学大臣賞 水野真奈香さん | |
問いの片歌3 啄木のひたいに触れて聞くかなしみは |
答えの片歌 はきはきともの言うきみが救ってくれる |
水野真奈香さん(静岡市立清水第八中学校3年 14歳)
「このような素晴らしい賞を自分がいただけるとは考えていなかったので、驚きでいっぱいです。選んでくれた審査員の先生方に感謝いたします。中2で短歌と俳句を勉強しました。中3で連歌と出会い、国語の授業で、このコンクールを紹介され、興味をもったので、その場で作りました。問いの片歌のイメージにピタッと合う場面が自分にはあると思います。言葉が自然と出てくるので、私には向いていると思います。明朗活発な友人がいます。私が勉強や部活動のことで落ち込んでいると、明るく励ましてくれます。また、はっきりと叱ってくれます。そんな友人のおかげで前向き気持ちになれます」。
受賞者は表彰式後、メディアの取材、記念写真撮影などを行い、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
文(K.F) カメラ(平川大雪)(藤原稔)2016.2.21
100選の詳細及び選評は酒折連歌賞HP