天皇杯全日本サッカー選手権
~山学大オリオンズがジャイアントキリング~
~栃木ウーヴァFCを破り山学勢初の初戦突破~
第96回天皇杯全日本サッカー選手権大会が8月27日に開幕し、各地で1回戦が行われた。4年ぶり2回目の出場の山梨県代表の山梨学院大オリオンズは栃木県グリーンスタジアムで栃木県代表の栃木ウーヴァFC(JFL)と対戦。試合は、前半序盤から山学が積極的に攻撃を仕掛け、格上のJFLチームにも当たり負けしないフィジカルの強さも見せた。後半に入るとウーヴァも攻勢を強めるが、山学GK一瀬幹の好セーブやDF陣の体を張った守備で防ぎ、両チーム無得点のまま前後半15分の延長戦へ。延長前半2分、疲労から相手の早い攻撃に対応できず失点。その後、ウーヴァは追加点を奪うべく、運動量の落ちた山学陣内に攻め込むも全選手が気迫で対応する。延長前半アディショナルタイム、反則で得た自陣でのFKをGK一瀬が相手ペナルティエリア内に蹴りこむと、相手選手のハンドを誘発。PKを獲得した山学はこれをDF永野博之が決め同点に追いつく。延長後半は両チーム無得点で試合の決着はPK戦へ。山学はGK一瀬が 最後まで集中力を切らさず、ウーヴァの2、4本目をセーブ。山学は2本目が止められたが、5本目を一瀬自身が決め、4対3(PK)でジャイアントキリングを成し遂げ、山学勢初の天皇杯初戦突破。次戦・2回戦ではJ1の湘南ベルマーレと対戦する。
天皇杯サッカーは日本サッカー協会の1種登録のアマチュアチームからJリーグ加盟のプロチームまでが参加する日本最大のサッカートーナメントで日本サッカー最強を決める戦い。出場チームはJ1・18チーム、J2・22チーム、シード1チーム(昨年のインカレ優勝校:関西学院大)、都道府県代表47チームの全88チーム。山梨県代表の山梨学院大オリオンズは、山梨県社会人リーグ最高峰のスーパーリーグに所属し、7月30日に行われた山梨県サッカー選手権大会(天皇杯山梨県予選)決勝で、同門の山梨学院大ペガサスと対戦し、1対0で勝利し4年ぶり2回目の本戦出場を決めた。対する栃木ウーヴァFC(栃木市)は日本フットボールリーグ(JFL)に所属し、関東1部のヴェルフェたかはら那須と対戦し、2対1で勝利し、4年連続8回目の本戦出場。オリオンズは格上相手に、厳しい戦いが予想されたが、県予選決勝で敗れたペガサスの思いも背負い戦いに臨んだ。
第96回天皇杯全日本サッカー選手権大会 1回戦 |
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○ 山学大オリオンズ | 前半 0−0 | 栃木ウーヴァFC ● |
■前半、山学は積極的に攻撃を仕掛ける。
試合は、ウーヴァのキックオフでスタート。山学は、序盤から県予選決勝で見せた積極的なプレーで相手ゴールを襲い、開始2分でシュートまで持ち込む。前半4分、アクシデントが起きる。山学DFの前潟将吾(2年 築陽学園高)が相手選手と交錯し、足を脱臼し負傷退場。前潟は応急処置の後に、救急車で病院に搬送された。残された山学選手たちは、前潟の思いも背負い、パスを繋ぎ前線にボールを送る。対するウーヴァも裏への飛び出しなどで山学ゴールに攻め入るが、DF陣の体を張った守備とオフサイドの見極めでゴールを許さない。この試合、延長まで含めたオフサイドの数は山学が0に対し、ウーヴァは7。このうち、前半は4つのオフサイドで攻撃の芽を摘んでいる。また、ウーヴァは山学同様に激しいプレスを仕掛けるが、山学は 格上のJFL相手に当たり負けしないフィジカルの強さも見せ、セカンドボールへの対応も相手を上回る勢いで、試合前の下馬評を覆す善戦。前半30分にペナルティアーク付近で裏へと抜け出され、フリーでシュートを打たれるが、ゴールポストに助けられ、両チーム無得点のまま、試合は後半へ。
■後半、ウーヴァの猛攻をGK一瀬を中心に防ぐ
エンドが変わった後半は山学のキックオフでスタート。後半6分過ぎから、ウーヴァの波状攻撃が山学ゴールを襲う。しかし、山学GK一瀬幹(2年 山梨学院高)が好セーブや果敢な飛び出しで、ゴールを守りきる。後半中盤は一進一退の攻防が続くも、前半積極的に入りすぎたためか、山学選手の運動量が徐々に落ち始める。後半31分にはインターセプトから一気に相手ゴールに攻め込むが相手GKの好セーブに阻まれ、得点することができない。一方、運動量の落ちないウーヴァは、好機を見逃さず山学ゴールに襲い掛かり、山学DF陣は体を投げ出してこれを防ぎ、耐え忍ぶ。後半は山学のシュート数が4本なのに対し、ウーヴァは3倍以上の14本。両チーム無得点で試合は前後半15分の延長戦 へ。
■延長戦 山学の魂の戦い~仲間のために~
延長戦に入り、ウーヴァは交代のカードを2枚切り、チームは勢いを取り戻す。対する山学は、交代カード(3枚)は使い切り、前半積極的に入った影響で、選手の疲労は極限にまで迫っていた。延長前半開始から、運動量の差が目に見えて出始める。延長前半2分、これまで対応できていた、相手の素早い攻撃に対応できず、失点。その後、足がつる選手が続出し、治療のため10人で戦う時間が増えるが、山学イレブンは、下を向かず、仲間のために、ゴールに向かい続ける。県予選決勝で破った山学大ペガサスの仲間の思い、そして無念の途中退場した前潟の思いを背負い、ボールを追いかけた。前潟は救急車に収容される前、ピッチの選手に向かって「絶対勝ってくれ、絶対勝てよ」と叫んでいた。そ の声はピッチの選手に届いており、選手たちは前を見据え戦い続けた。延長前半アディショナルタイム、獲得したFKをGK一瀬が相手ペナルティエリア内に蹴りこむと相手選手のハンドを誘発。これをゲームキャプテンのDF永野博之(3年 築陽学園高)がゴール右隅に決め、同点に追い付く。この同点弾で勢いを取り戻した山学は、延長後半、ウーヴァの攻撃を魂の守備で守りきり、試合の決着はPK戦へ。試合後、山学の守備について栃木ウーヴァFCの堺陽二監督は「決められるべき所で決められなかったことが大きな敗因の一つ。山梨学院さんの体を張った守備、素晴らしい闘志で防ぎ、体を張る素晴らしいプレーがあったから点が入らなかった」と山学のプレーを評価した。
■運命のPK戦 GK一瀬が好セーブ
PK戦の先攻はウーヴァ。1本目、GK一瀬は反応し、ボールに触ることはできたが、左隅に決められ成功。山学の1本目のキッカーは、県予選決勝で決勝点を導いたMF山主康介(2年 韮崎高)。MF山主は、左上に決め1対1の同点。ウーヴァ2本目は、GK一瀬が見事に反応し、得点を許さない。しかし、山学2本目は止められ、ウーヴァ3本目は成功。山学3本目のキッカーのFW山下侑沙貴(2年 高松工芸高)も成功し、3本目が終わり、2対2の同点。自分でも反応できていたというGK一瀬はウーヴァ4本目を見事に止める。山学チームは活気づき、4人目のFW逢坂翔平(1年 山梨学院高)は落ち着いて決め、3対2と山学がリード。ウーヴァに5本目を決められ、勝負の行方は山学5本目へ。5人目のキッカーはこの日、好セーブ連発のGK一瀬。一瀬は気持ちで思い切り振りぬき、ボールはゴールネットに突き刺さる。勝利の瞬間、選手たちは一瀬を中心に体全体で喜びを爆発させ、お互いに激闘を称えあった。山梨県勢の天皇杯初戦突破は10年ぶり。山学勢では、これまで高校が2回、大学(ペガサス・オリオンズ各1回)が2回天皇杯に出場しているが、いずれも初戦敗 退で、今回が初の初戦突破。全選手が気持ちを一つにして戦った結果が、格上のJFLに勝利というジャイアントキリングに繋がった。
■監督・選手コメント
試合後の記者会見で、武井雅之監督は「山梨県決勝でも苦しい試合をやりながら戦ってきたのですが、きょうも格上ということで、個人の能力も高く、苦しい戦いになってしまいましたが、本当に選手一人ひとりが必死に日々やってきたことを出してくれたので、選手を褒めたいと思います。僕たちはチャレンジャーでJFLという強い相手と戦う中で、スタートから悔いの残さないよう思い切ってやっていこうと選手に伝えていて、その通りプレーしてくれて(勝ちにつながったので)感謝しています」と試合を振り返り、記者から前潟選手離脱の影響を問われると「彼らは、日々の練習から妥協しないのですが、ハーフタイムや延長に入る前などに選手から“前潟のために勝とう”“前潟のために頑張ろう”と言っていて、前潟の離脱の影響 は大きいですが、彼が発した言葉がチームに良い影響を与えてくれたので、彼にも感謝しています」と語った。次戦・湘南戦に向け「勝ったので精神的なダメージは少ないのですが、コンディションの面で肉体的なダメージは思っている以上にあると思うので、しっかりコンディションを整えて戦いたいと思います」と述べた。
ゲームキャプテンを務めた永野博之選手は前半の早い段階での仲間の負傷退場について「誰が交代してもみんな出れる準備はできていたので、不安はありませんでした。ただ、前潟が救急車に乗る前に「絶対に勝ってくれ」と叫んでいて、自分の高校の後輩でもあるので、前潟の分も頑張ろうと思いました」と思いを語り、後半から延長にかけての苦しい展開については「もう一人のCBの新海(貴輝)を信頼していたので、戦術的なことも言いながら、焦れないで自分たちのやれることはやろうと話はしました。足がつり10人でプレーするなど最悪な事態は想定していましたが、気持ちを切らしたら終わりだと思ったので、一人ひとりに“仲間を見ろ”と指示を出し、仲間と目を合わせて戦いました」と振り返り、次戦に向け「Jチームとやれる嬉 しさはありますが、やるからには負けたくないです。(思い出作りではなく)勝ちにいくつもりで、どこまでやれるか、一つでも上を目指して戦いたいです」と語った。
相手の猛攻を好セーブで耐え忍び、PK戦では決勝点を入れたGKの一瀬幹選手は「県のリーグでも格上相手に耐える試合を経験してきて、きょうの試合展開は予想できました。延長前半の失点で、みんなで声を出して、下を向かずに諦めずにプレーできたのは良かったと思います」と試合を振り返り、PK戦について「1本目は決められてしまったのですが、触ることはできて、反応できていたので自信になりました。真ん中に決められた以外は読み通りでした」と話し、5本目の自身のキックについて「フィールドプレーヤーと違ってコースに蹴ったりすることができないので、気持ちで思い切り振りぬきました」と語った。次戦に向け「相手はプロなので、萎縮することなく、自分の持ち味は気分を一定に保つことなので、みんなの気持ちの状況などを見て、声掛けをしていつも通りいけばチャンスはあるかなと思います」と語った。
山梨学院大オリオンズの次戦・2回戦は9月3日に「Shonan BMWスタジアム平塚」でJ1・湘南ベルマーレと19時00分キックオフで行われる。もう一度ジャイアントキリングを起こせるか、山学の戦いに期待が集まる。
文(Y.Y)、カメラ(藤原 稔)2016.8.27