第28回出雲全日本大学選抜駅伝競走
~駅伝シーズン開幕。2年連続、悔い残る2位~
~最終区ニャイロ激走も青山に届かず~
「第28回出雲全日本大学選抜駅伝競走」が10月10日、島根・出雲大社前をスタート、出雲ドームをゴールに6区間、全長45.1kmで競われた。全国から選抜された20チームと米・アイビーリーグ選抜チームの計21チーム(1校が辞退)が出場、スピード駅伝大学NO.1を競った。レースに先立ち10月9日、出雲市民会館で出場校20校の選手・監督ら200人が集まり開会式を行った。参加各校は自分たちの目標達成を胸に式に臨んだ。山梨学院大は昨年、3年ぶりの出場で2位となり、3位までのシード権を獲得した。今年は6区にエントリーされた全ての選手が万全のチーム状態で、2年連続3度目の優勝を狙う青山学院大学と14年ぶりの王座奪還を懸けて一騎打ちが予想された。1区に起用されたのは上田健太(3年)。昨年この出雲で初の駅伝デビューし4区で2位と好走した。今大会では大学の駅伝では初めての1区挑戦。1区、2区で流れに乗れば優勝も見えてくると目論む山梨学院。上田はトップと3秒差と幸先の良い好走を見せた。しかし、続く期待された2区、スピードに定評のある秦将吾(4年)、3区、粘りと安定感が持ち味の佐藤孝哉(4年)の4年生コンビがトップと約1分の差をつけられレース展開が苦しくなった。4区市谷龍太郎(3年)、5区永戸聖(2年)が好走を見せたものの1位の青山学院大、2位東海大の差は縮められず1分差で最終区間6区のドミニク・ニャイロに優勝への望みを託し繋いだ。ニャイロは襷をもらうと快調に飛ばし6,5km付近で2位の東海大をかわし、青山学院を猛追したが一歩及ばず31秒差で昨年に続き2年連続で青山学院に敗れた。
大学三大駅伝の開幕レース。出雲駅伝は平成元年10月(神在月)八百万の神が集う出雲で誕生し、今年が28回目。「全日本大学駅伝」、「箱根駅伝」と並び大学三大駅伝と呼ばれ、毎年「体育の日」に開催している。出雲駅伝は6区間全長45.1kmと全日本大学駅伝の8区間106.8km、箱根駅伝10区間217.1kmと比べ距離が短く、スピードと総合力が求められる大会。
◆第1区 上田健太(3年 山梨・山梨学院高)
《出雲大社正面鳥居前~出雲市役所・JAしまね前(第1中継所) 8.0km》
1区に抜擢された上田健太選手は、昨年のこの大会で駅伝デビュー。デビュー後は、1年の時に故障で走れなかった無念さをレースにぶつけ、全日本、箱根と安定した成績を挙げ、山梨学院の中でもトップクラスに成長した。エースクラスが揃う1区は、流れを決める重要区間。スタート時の天気は晴れ、気温19,5度、湿度54%、東北東の風6,1m。上田の10000mの持ちタイムは1区出場選手中3位。上位で襷を繋ぐと期待された。レースは向かい風の中、互いに牽制し合い中間点では昨年より30秒も遅い展開。6km付近でペースが上がると徐々に先頭集団から遅れるチームが出始め、上田はじっくり集団の中から様子を窺う。残り1km付近で東海大が前に出ると上田も後ろに取り付き、今度は残り500mで上田がスパート。日体大に残り300mで交わされ、さらにゴールで東海大にも追い付かれトップの日体大に3秒差、2位の東海大と同タイムで3位となり好位置につけた。上田健太選手は「区間賞を狙って先にスパートして離そうとしたのですけど、そんなに離せず詰めが甘かったと思います。自分のレースはやり切ったと思っているんですけど、チームの結果に繋がらなかったことは、どこかに甘さがあったと思います。ニャイロには自分たちが作った差を懸命に詰めようとしているのを見て、もっと頑張らなければ」と反省した。
◆2区 秦将吾(4年 愛媛・今治北高)
《出雲市役所・JAしまね前~斐川直江(第2中継所) 5.8km》
2区の秦将吾副主将(4年)は上田と同様昨年初めてこの大会で駅伝に出場し、今回2度目の2区に起用された。2区は出雲駅伝6区間中最も距離が短く、激しい順位変動がある区間。秦は今回エントリーした山梨学院10人の選手のうち5000mで1位の持ちタイムを持ち、持ち前のスピードで1区・2区で後ろに続く選手に少しでも楽に、最終区間6区のドミニク・ニャイロに繋ぎ優勝を狙う算段だった。秦は襷を貰ってからすぐにトップに追い付き日体大、東海大、山梨学院の3校でトップ集団を形成、2km過ぎで青山学院が追い付き4チームに。残り2km付近になると向かい風に苦しみ、ペースが上がらず、青山、東海に引き離され、最後に順位は守ったもののトップの青山とは23秒に差が開き3区の佐藤に繋いだ。秦将吾副主将は「中盤粘れなかったという自分の弱点をさらけ出してしまった。どの駅伝でも中盤粘れなかったら走れませんので、そこをしっかり改善していかないと」と話した。「今回トータル的に下級生の頑張りがあって2位に入れたですけが、2区の自分だったり、3区の佐藤と4年生があまり良くなく仕事ができなかったですけど、悔やんでても仕方がないのでしっかり切り替えて、ニャイロに頼るのではなくて4年生がしっかり建て直して全日本で優勝できるように頑張りたいと思います」と次に活躍を誓った。
◆第3区 佐藤孝哉(4年 島根・出雲工業)
《斐川直江~平田中ノ島(第3中継所) 8.5km》
佐藤孝哉(4年)は元々粘り強く安定した走りで陸上競技部の日本人エース。チームメイトの信頼も厚く。2年連続のエース区間3区に挑んだ。先月24日の日体大記録会の10000mで自己新を出し、3区出場選手中5位の記録を持ち、上の2チームと競い合うと期待された。松江市出身・出雲工業卒業もあり、沿道の地元ファンの声援も後押しするも、強い向かい風と一人旅の影響か、普段の表情を変えずに粘りの走りも低調で残り1kmで4位の順天堂に追い付かれ、順位を落とすかに見えたが最後は巻き返す粘りで3位を死守したが、トップと57秒差に広がり、苦しい展開となった。山梨学院は、3区までに差を大きく付けられず上位を守る目論見が外れた恰好となった。佐藤孝哉選手は「積極的な走りはしたつもりだったですけど、今回の結果を見てまだまだ足りないなと感じました。ロードが少し弱いのでこれから強化していこうと思います」と課題を挙げ、「ここで気持ちを切り替えて全日本では必ず優勝を狙えるように準備をしていきたい」と前を見据えた。
◆第4区 市谷龍太郎(3年 石川・山梨学院高)
《平田中ノ島~鳶巣コミュニティセンター前(第4中継所) 6.2km》
山梨学院高校の全国大会優勝メンバーで唯一1年生のとき全国大学駅伝出場を果し、箱根駅伝にも出場した市谷龍太郎(3年)は、上田誠仁監督の信頼も厚く、2年生のときは三大駅伝にすべて出場した。今や山梨学院大陸上競技部にとってなくてはならない存在感となっている。57秒差で3区から襷を受け取るとただひたすら前を追った。中間点を過ぎた3,5km付近、2位の青山学院の後ろにまだ遠くだが着実に大きくなってくる市谷の姿があった。残り1km快調なペースで飛ばすが前を行く青山を追い詰めることができず、終盤に差を広げられた。1位の東海には6秒の差を縮め、5区、6区に逆転優勝を託した。市谷の好走は区間新となったが、他にも市谷の上に4人が区間新を記録するレベルの高い4区の戦いになった。市谷龍太郎選手は「自分的には100%の走りは出せたと思うのですけど、個人的にも5位で青山学院にも少し離されてしまったので、チームとしても個人としても苦しい結果で終わってしまいました。区間新は幻に終わってしまったですけど、しっかり駅伝でも走れるぞということをアピールできたと思うのでこれからの全日本、箱根と繋がっていくので、しっかり長い距離でも走れるというところを見せたいです」と最後は意気込みを語った。
◆第5区 永戸 聖(2年 岩手・盛岡工高)
《鳶巣コミュニティセンター前~島根ワイナリー前(第5中継所) 6.4km》
5区の永戸聖(2年)は6月の全国大学駅伝の予選会で10000mの自己新を記録。9月24日に行われた日体大記録会でも自己新を1分25秒も更新する伸び盛りの選手。三大駅伝の幕開け出雲駅伝に大抜擢され初出場した。細かなアップダウンがあるコースはペース配分が鍵となるが、永戸は一気に攻める。しかし永戸の前では上位2校が激しいトップ争いを繰り広げていた。5区の中継点で1位東海、2位青山とは11秒の差があったが中継点で青山が追い付き、中継点手前では青山がトップに立った。永戸も苦しいながらも懸命に追い、区間3位の好走を見せるも、上位2校には差を広げられ丁度1分の差で最終6区ドミニク・ニャイロに全てを託した。永戸聖選手は「突っ込めという指示があったので突っ込んでいったのですけど、後半離れてしまって自分の弱いところはそこなのかなと考えられずに走ってしまった。ニャイロにもその分負担かけてしまって、自分の弱さがでたレースでした」と反省の言葉を口にした。駅伝デビューについては、「悔しいことの方が大きくて、今何とも言えない状況なんですけど区間3位ということで最低限の走りはできたと思います。最近は調子が良くて自分でも行けるという気持ちで臨みました」と話した。
◆第6区 ドミニク・ニャイロ(2年 ケニア・メサビサビ高)
《島根ワイナリー前~出雲ドーム前 10.2km》
山梨学院大陸上競技部の10人目の留学生になったドミニク・ニャイロは、エノック・オムワンバからバトンを継ぎ、文字通りエースとなり山梨学院を牽引している。来日した時の持ちタイムは10000m28分58秒。現在の10000mのタイムは27分56秒47と大幅に更新、大会での成績も常に上位に君臨、潜在能力の高さを見せる。トップの青山との差を1分に広げられた山梨学院は最終6区のニャイロにすべてを懸けた。昨年の初駅伝も同じく3位で襷を引き継いだニャイロは、襷を掛けることに手間取った微笑ましい記憶を呼び覚まされた。全日本大学、箱根駅伝と駅伝の魅力に惹かれた留学生は、難なく襷を掛けると1kmを2分40秒を切るスピードで疾風の如く前を追った。再びスタート地点のコース、出雲大社前2.7km付近でトップ争いをする2チームに46秒差まで追い上げ、1位争いから脱落した2位東海大を中間地点で20秒に差を縮めた。その後も勢いは衰えず残り3,5kmでついに東海を捉え2位に浮上した。なおもニャイロの勢いは止まらず、ひたすら青山を追走。結局29秒縮める快走も青山には届かず、昨年は38秒差、今年は31秒差、2年連続の2位でゴールテープを切った。山梨学院の14年ぶりの優勝は来年に持ち越された。
ゴール後、山梨学院のチームメイトが駆け寄り、ニャイロの健闘をねぎらったが、ドミニク・ニャイロ選手は「悔しかった。皆頑張ったけど優勝できなかった。次の全日本で優勝する」と昨年の2位とは違う複雑な胸の内を話した。
■午後1時05分スタート 天気(晴れ、気温19,5度、湿度54%、東北東の風6,1m)
区間 | ランナー | 区間タイム | 区間順位 | 総合時間 | 総合順位 |
1区 | 上田健太 | 23分26秒 | 3位 | 23分26秒 | 3位 |
2区 | 秦 将吾 | 16分54秒 | 3位 | 40分20秒 | 3位 |
3区 | 佐藤孝哉 | 25分27秒 | 9位 | 1時間05分47秒 | 3位 |
4区 | 市谷龍太郎 | 17分45秒 | 5位 | 1時間23分32秒 | 3位 |
5区 | 永戸 聖 | 18分03秒 | 3位 | 1時間41分35秒 | 3位 |
6区 | ドミニク・ニャイロ | 29分05秒 | 1位 | 2時間10分40秒 | 2位 |
レース後、上田誠仁監督は「消化不良のレースです。1区でまずまずの流れで来たので2区の中盤で離され3区に流れを呼び込むことができなかった。1区と最終区だけしか青山に勝てていないので詰めの甘さが積もり積もってきたということです。結果的には30秒まで詰めましたから、その30秒分を他の区間でどうにかできなかったのか」と課題を挙げた。
今大会の結果は、1位・青山学院大、2位・山梨学院大、3位・東海大、4位・中央学院大、5位・駒澤大、6位・日本体育大、7位・順天堂大、8位・早稲田大となった。次回、全日本大学駅伝対抗選手権大会は11月6日(日)、伊勢路106.8kmを舞台に激闘が繰り広げられる。
文(K.F) カメラ(平川大雪・今村佳正・Y.Y) 2016.10.10