●山学大特別シンポジウム「日露関係のゆくえ」
~3人の日露関係研究者が意見を交わす~
~「北方領土」問題解決に関心集まる~
山梨学院大は、山梨学院創立70周年記念事業の一環として12月3日、「日露関係のゆくえ~日ソ共同宣言60年後の北方領土~」と題した山梨学院大学特別シンポジウムを開催した。12月15日に山口県長門市で開かれる安倍晋三首相とプーチン大統領の首脳会談を前にしたシンポジウムとあり、会場になった山梨学院50周年記念館8階大会議室は約120人の聴衆で一杯となり領土問題、経済協力関係の駆け引きなど日露を巡る関係のゆくえに関心の高さを窺わせた。冒頭、主催者を代表して古屋忠彦山梨学院大学長は「首脳会談は間もなくですが、政治的な大きなインパクトになるかも知れません。そのためにこのシンポジウムの鼎談は本当に価値のあるものになると予感がします」と挨拶。続いて基調講演に移り、コンスタンチン・サルキソフ山梨学院大名誉教授/元ロシア外務省外交アカデミー日本・北東アジアセンター長が日本と旧ソヴィエト、ロシアの北方領土に関する歴史や経緯、これからの道筋、経済協力など「平和条約締結」へ向けた日露首脳会談のポイントについて講演した。次にロシア研究の二人の専門家を加えた鼎談が行われ、適時的なシンポジウムとあり、3時間に及ぶ時間にも聴取者はメモを取るなど熱心に聞き入っていた。
12月15日に安倍晋三首相とプーチン大統領との日露首脳会談が行われる。北方領土問題を含む日露平和条約締結、経済協力などを協議する。日本は、今年60年目となる日本と旧ソヴィエトが批准した「日ソ共同宣言」(1956年)で明記されている歯舞・色丹の引渡しを中心に議論を引き出す方針だが、一方、ロシア側は経済協力を優先しており、複雑な駆け引きが予想される。シンポジウムでは、日露関係を巡る国際的・国内的な視点から首脳会談の課題を探るとともに、今後のゆくえを考えていく。表層的な情報を超えて、構造的・歴史的・地政学的な視点から検討できるよう、第一線で活躍する方々を招き、最新の状況と展望について語ってもらった。
シンポジウムは、初めに総合司会を務める江藤俊昭山梨学院大法学部教授/大学院社会科学研究科長が「日露問題は国際情勢、国内情勢に密接に関連していることを考えていかねばならないと思っています。今回のこのシンポジウムはホットな話題を日露関係の第一人者をお呼びして議論できる機会だということで、私たちも真剣に議論しながら考えたい。本学の70周年記念事業の一環としてこのシンポジウムに素晴らしい人たちをお招きできたことを光栄だと思っています」と話した。次に主催者を代表して古屋忠彦山梨学院大学長は挨拶の中で、「首脳会談は間もなくですが、政治的な大きなインパクトになるかも知れません。そのためにこのシンポジウムの鼎談は本当に価値のあるものになると予感がします。山梨学院は政治や宗教とは距離を置いてスクールマネジメントをすることを哲学としてやってきました。政治的なアクションを起こさなくても、学問として深い政治的なテーマに視点を当てることは、学者として当然のことですから本学の政治学の先生たちが胸を張って誇れるシンポジウムになればと思っています」と述べた。
続いてシンポジウムに移り、基調講演ではコンスタンチン・サルキソフ山梨学院大名誉教授/元ロシア外務省外交アカデミー日本・北東アジアセンター長は、日露関係の重要な鍵を握る『平和条約締結』に向けた山口県での日露首脳会談に焦点を当て、「今までになかったチャンス。私の直感と色々な分析で、今回は特別です」と領土問題に期待を寄せた。「二人は違う立場ですが、愛国心を背負い相手の愛国心も認めて問題に取り組んでいます。それを上回る価値が平和条約です。安倍首相はそれをどう考えたらいいのか、それは真の愛国心といい。そのやり方で問題を解決しようと提案している。また、プーチンの発言で注目すべきは、彼は意欲があって、日露関係を豊かにするために絶対に平和条約が必要だと言っている。安倍とプーチン、二人の政治家は、『平和条約締結』ができる。期待感がかなり強いです」と新しいアプローチを探るポイントから問題解決を見出すと日露関係の展望について解説した。続いて行われた鼎談では、下斗米伸夫法政大学法学部教授は「これからの多極的な世界になってくるとロシアと日本の関係は非常に大きくなるのではないか。今、世界が変わろうとしているときモスクワは世界のゲートウエーのひとつである。そして日露関係改善を安倍、プーチンがこういう形で模索していることは非常に重要なことである」と説き、「『平和条約締結』は政治決断であり、条件がこんなに整っているときはなく、双方に極めて長期の強力なリーダーがいて、これでできないことはない」と今がチャンスと強調した。一方、コンスタンチン・ヴィノグラードフロシア連邦交流庁駐日代表/ロシア大使館一等書記官は「日ソ共同宣言」から60年経ち双方に平和的問題がないことを踏まえ、個人的な意見と断り、「早い解決は期待できない。すべきではなく、できるだけ少ない人数で落ち着いてさまざまな側面から検討してゆっくり取り組むべき」と北方領土問題について述べた。シンポジウムの最後は、聴取者からの質問用紙を集め、その中からいくつかの質問事項を出席者の3人が応える形で行った。適時的な時期のシンポジウムとあり、旧ソヴィエト時代を知る世代が多く、特に北方領土問題に関心が集まり、3時間という時間は瞬く間に過ぎ、密度の濃いシンポジウムとなった。
■出席者略歴
◆コンスタンチン・サルキソク《基調講演、鼎談》
1942年生まれ(74歳) アルメニア共和国エレバン出身 レニングラード国立大学/
東洋学者 山梨学院大学名誉教授・法政大学大学院特定課題研究所特任研究員 国際政治学
◆下斗米伸夫(しもとまい のぶお)《鼎談》
1948年生まれ(68歳) 北海道札幌市出身 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士) 法政大学法学部教授 ロシア・CIS政治、ソ連政治史
◆コンスタンチン・ヴィノグラードフ《鼎談》
1974年(42歳) ロシア・モスクワ出身 モスクワ国立大学、アジア・アフリカ諸国大学、国際関係学博士(早稲田大学)、歴史学博士(モスクワ国立大学) ロシア連邦交流庁駐日代表/ロシア大使館一等書記官 日本史、地方研究、日露文化・教育交流
文(K.F) カメラ(平川大雪) 2016.12.4