●「第十八回酒折連歌賞」表彰式
~大賞佐藤せつさんら上位5人に表彰状授与~
~表彰式後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣~
「第十八回酒折連歌賞」の表彰式が2月26日、山梨学院クリスタルタワー7階広報スタジオで行われた。表彰式には、受賞者の5人のほか主催関係者、後援団体各賞授与者、報道各社が集まった。今回、酒折連歌賞への応募は国内外から昨年より約2,400句多い、総数33,634句が寄せられた。その中から一般部門大賞・文部科学大臣賞には佐藤せつさん(千葉県柏市)が受賞。表彰状と副賞が贈られ、今回から設けた大賞杯も授与された。山梨県知事賞は小林美成子さん(静岡県静岡市)、山梨県教育委員会教育長賞の小金奈緒美さん(埼玉県越谷市)、甲府市長賞の高幣美佐子さん(東京都練馬区)がそれぞれ受賞、表彰状と副賞が贈られた。また、小・中・高校生を対象にしたアルテア部門の大賞・文部科学大臣賞は池田綾乃さん(中国・上海日本人学校中学3年)が受賞、表彰状と副賞が贈られた。また、一般部門大賞同様、大賞杯が授与された。一般部門の大賞・文部科学大臣賞を受賞した佐藤せつさんは「歴史ある酒折という地で酒折連歌大賞という大きな賞をいただき身に余る光栄です」と受賞の喜びを語った。5人の受賞者は、表彰式後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
◆酒折連歌賞とは
わが国の連歌発祥の地とされている『酒折宮』にちなんでつくられた酒折連歌賞は、1998年(平成10年)、多くの人に連歌に興味・関心と創作意欲を持ってもらい、連歌を蘇えらせ普及させ、文学の振興、文化の創造を推進しようと、山梨学院大学が母体になり創設された。「古事記」に登場する倭建命(日本武尊)と御火焼(かがり火役)の老人との問答にちなみ、五・七・七の『問いの片歌』に対して『答えの片歌』五・七・七で返す問答形式の歌遊び。文学形態上からも珍しく特色があるといえる。伝統を現代に活かそうという試みは、今回で第十八回を数え、一般部門では大賞の文部科学大臣賞を初め、山梨県知事賞、山梨県教育委員会教育長賞、甲府市長賞があり、また、小・中・高校生を対象に、斬新で若々しく将来楽しみな才能を見出すことを目的としたアルテア部門にも大賞・文部科学大臣賞が設けられている。これら上位5人の句のほか、入選10句、優秀賞12句、優良賞54句、アルテア賞佳作19句の合計100選が選出された。選考委員は、選考委員長の三枝昂之氏(歌人)、宇多喜代子氏(俳人)、今野寿美氏(歌人)、井上康明氏(俳人)、もりまりこ氏(歌人)、辻村深月氏(作家)の6人が務めた。
表彰式では、初めに主催者代表の古屋忠彦山梨学院大学長が「アメリカの著名な歴史学者が今の世相を評して乱気流の時代と言いました。にもかかわらず俳句や短歌、詩などさまざまな伝統文化の一角に、我々が普及に努めてきた酒折連歌は、世相とはいかにも対極的なイメージの日本人のふるさと、最古の伝統文化の発祥という気を持ちまして、ここまで18年間歩んでまいりました。私たちの学園も70歳となった節目を厳粛に受け止めて、時代はどうあれ、私たちがメッセージの発信をお手伝いさせていただいた酒折連歌が今後も連歌賞として定着し、回を重ねていくことをお誓い申し上げます」と挨拶した。続いて廣瀬孝嘉酒折連歌賞実行委員長が「酒折連歌賞は、地域文化に根ざしたものです。相手を受け止めた上での言葉選びに、この文芸の特長があり、鑑賞や創作を通して、二人の心が触れ合い、通じ合いが生まれ、独吟では得られない、生きたコミュニケーションが形成されます。このように酒折連歌は、人の言葉と心を繋ぐ、奥の深い、魅力ある文学です。人と人が触れ合うぬくもりの輪をさらに広げていきたいと思います」と挨拶した。選考委員の三枝昂之委員長は「酒折連歌の選考は応募数が多いから大変です。しかし楽しいです。なぜ楽しいかというと短歌や俳句というのは、自分ひとりで作って自問自答する孤独な作業です。酒折連歌は例えば私が問いかけをすると1万近い人がさまざまなプランを寄せてくれます。たった一つの問いが1万の問答になる。その競い合いが選考していてとても楽しい。ボールを投げると変化球、直球、いろいろなボールが返ってくる。それが苦しいですけど本当に楽しい。今回もいい句が揃いました」と挨拶。続いて一つひとつの句に講評を加えた。次に受賞者がそれぞれ喜びの言葉を述べた。
◆上位5人受賞者、受賞の言葉と創作に込めた思い
◆一般の部 大賞・文部科学大臣賞 佐藤せつさん | |
<問いの片歌4> ありがとうたったひとことメールの返信 |
<答えの片歌> 四年目の最後の学費振り込みしのち |
■佐藤せつさん(主婦 68歳 千葉県柏市在住)
「今回で3回目の応募です。今までこのような栄えある大賞をいただいたことがなく、本当に身に余る光栄です。息子が大学3年のとき、『一人暮らしをしたい』と言ったときに夫が反対し、『学費は出すが後は勝手にしろ』と息子は出て行きました。私がアパート代、生活費などパートで働き送金し無事大学を卒業しました。そんな経緯があり、問の片歌を読んだとき、そのことを思い出し答えの片歌を書きました。酒折連歌の問いの片歌、答えの片歌を別の人間が詠む形式は、歌と歌、人と人との繋がりができる楽しいものです」。
◆一般部門 山梨県知事賞 小林美成子さん | |
<問いの片歌1> 猫がきておいてけぼりの時をうずめる |
<答えの片歌> 小春日の縁側という細長宇宙 |
■小林美成子さん(主婦 80歳 静岡県静岡市在住)
「私は30年来、俳句を趣味にしていましたので、五七五以外の詩形は詠んだことはありませんでした。たまたま酒折連歌賞のホームページを閲覧していたところ問いの片歌の『猫がきてー』の問いかけにふと、生家の縁側の光景が脳裏に浮かび導かれるように答えの片歌のフレーズを呟いていました。少女期の私のおいてけぼりの思い出がいっぱい詰まった家の内、外ともつかない不思議な空間縁側。庭先を過る近所の猫。俳句ではモノに語らせる客観写生を心掛けてまいりましたが、問いかけの言葉によって自分では予想もしていなかった風景や言葉が顕れるという片歌の新鮮な世界を体験させていただきました。今回片歌という形式の楽しさを経験し、俳句仲間にも勧めたいと思います」。
◆一般部門 山梨県教育委員会教育長賞 小金奈緒美さん | |
<問いの片歌2> 聴いてみよう姿勢正して三月の雨 |
<答えの片歌> アドリブがきかぬ素数の私のままで |
■小金奈緒子さん(主婦 53歳 埼玉県越谷市在住)
「私の何気ない心の声に共鳴してくださった方がいたのかと思うと驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。この片歌は問いの片歌を目にしたときに、真っ先に浮かんだものです。素直な今の自分の気持ちをそのまま詠みました。幾つになっても不器用にしか生きることしかできないもどかしさと、それでいてそんな自分が愛おしく思ってしまう心模様を表現しました。問いの片歌を毎年楽しみにしています。心の引き出しを自然に開いてくれる問いの片歌に酒折連歌の素晴らしさを感じます」。
◆一般部門 甲府市長賞 高幣美佐子さん | |
<問いの片歌5> 駅に立つ心の声を確かめながら |
<答えの片歌> この位置で同じ車両に乗るきみを待つ |
■高幣美佐子さん(女性 69歳 東京都練馬区在住)
「私は四国の小さな田舎町で育ち、隣町の高校へは一駅だけ電車に乗って通学しましたが、1時間に2本しかないために、近郊の生徒は皆同じ電車を目指して集まり、ホームで乗る位置も、その顔ぶれもだいたい決まっていたように思います。この『君』というのは、私が高一の時に、ひそかに憧れていた先輩ですが、当時のこととて、口もきかないうちに卒業してしまいました。そんなことを懐かしく思い出しているうちに、さらっと出来た句です。応募は2回目ですが、過去の百選を拝見すると、柔軟な答えに驚くばかりでとても面白く、勉強になります。古来受け継がれてきた言葉遊びをもっと多くの方に知って楽しんでいただきたいと思います」。
◆アルテア部門<小・中・高校生対象> 大賞・文部科学大臣賞 池田綾乃さん | |
<問いの片歌4> ありがとうたったひとことメールの返信 |
<答えの片歌> 舞い上がるささいなことで人って不思議ね |
■池田綾乃さん(中国・上海日本人学校浦東校中学3年生 15歳)
「酒折連歌賞のホームページでアルテア部門の大賞に自分の名前が載っていたときはとても驚きました。両親と一緒に喜び合いました。家族全員が祝ってくれて本当に嬉しかったです。今回受賞できたことによって、自分も『やればできるんだ』という自信がつきました。4番の問いかけを読んですぐに片歌の句が浮かびました。気になっている人からメールで『ありがとう』と立ったひと言の返信で、嬉しく舞い上がってしまいます。しかし、『ありがとう』は誰でも言える言葉で、今までいろいろな人に言われてきた言葉なのに、気になっている人に言われたら他の人に言われたときと全く違う思いが湧いてくるのは何故だろうと不思議に思ったことを答えの片歌として創作しました」。
受賞者は表彰式後、報道の取材を受け、記念写真撮影などを行った。その後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
文(K.F) カメラ(平川大雪) 2017.2.26
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