●国際バカロレア教育シンポジウム
~IBの理念を踏まえ国内外の現状を紹介~
~産学官それぞれがIBの持つ可能性を展望~
学校法人山梨学院は創立70周年記念事業として「国際バカロレア教育シンポジウム」を7月1日、山梨学院メモリアルホールをメイン会場に実施した。学校法人山梨学院の設置学校の一つである山梨学院高校は今年度より山梨県初の国際バカロレア(IB)認定校として日本語DPを開始。また、小学校や幼稚園でもIB候補校としての教育プログラムを昨年度から引き続き実施している。今回のシンポジウムでは、“山梨県の若者の未来を切り拓く”をテーマにIBの理念や国内外の現状が紹介され、日本の大学入試制度や教育制度への影響等今後の展望やIBの可能性が議論された。シンポジウムは約600人が参加し、3部制で行われ、第1部では、基調講演、第2部では教育有識者によるパネルディスカッション、第3部では会場を分け、企業からの視点・大学からの視点・高校からの視点で分科会が行われた。参加者は講師の話に熱心に耳を傾け、時折メモを取るなどしてIB教育の現状や可能性について知識を深めていた。
学校法人山梨学院は2016年に創立70周年を迎え、各学校種における独自ブランドの創出と強化、キャンパスの国際化とグローバル化への対応など「世界標準への挑戦」をスローガンに様々な教育イノベーションに取り組んでいる。2015年度には大学に国際リベラルアーツ学部を新設、2016年度にはスポーツ科学部を新設するなど学部再編が行われた。また、高校・中学校・小学校・幼稚園の系列校では、World Schoolプロジェクトとしてグローバル化に対応した教育改革に取り組んでいる。2015年9月には高校がIBDP候補校に認定され、2016年3月には小学校と幼稚園がIBPYP候補校に認定された。さらに、高校はIBDP候補校としての教育・研究を経て、2017年1月に正式な認定校(日本語DP)に県内で初めて認定され、今年4月から日本語DPを開始している。
■第1部 基調講演
この日のシンポジウムは3部制で行われ、第1部では、IB認定校の東京インターナショナルスクール理事長でIB日本大使、内閣府教育再生実行会議で教育再生実行アドバイザーを務める坪谷ニュウエル郁子氏が「国際バカロレアの概要-日本と世界の動き」、日本へのIB教育導入を推進している文部科学省大臣官房国際課国際協力企画室長の原田大地氏が「国際バカロレアの推進について」と題して基調講演を行った。坪谷氏はIBが誕生した背景や歴史、理念に触れ、IBの4つのプログラム(PYP、MYP、DP、CP)について解説。さらに各国のIBプログラムの導入状況や世界の大学入試における活用状況を紹介した。結びに「日本の教育は世界に誇れる大変素晴らしい教育だと思っています。日本人は、基礎学力が高く、相手を思いやり、民度が高い。これらは日本の学校の教育によるものです。一方で日本の教育で足りないものは“発信力”だと思います。このIBが育てる能力の中で私が一番強いと思うのが“発信力”です。日本の教育に21世紀型の教育・多様な価値観を受容すると言われているIBが重なることでこれからの新しい人材が輩出できます。子どもは私たちの未来です。子どもは教育で変わります。つまり教育は未来を変えることができます。この山梨から世界で活躍できる人材が出てくることを期待します」と語った。一方、原田氏は、現在直面している日本の状況を「グローバル化の進展」「人口推移と将来人口」「生産年齢人口の推移」の3点から解説。また、日本の子どもたちの学力についてOECDの学習到達度調査(PISA)の調査結果をもとに解説。他方で文科省として「真の学ぶ力」を育成・評価できるよう、抜本的な意識改革・制度改革が必要であるとし、高大接続改革や学習指導要領の改訂等時代に合わせた改革・対応を行っていることを紹介した。さらに、IBの推進として「日本語DPの導入」「学習指導要領の教育課程の特例措置(省令改正)」「IB教員の養成支援」の取り組みについても詳説を加えた。
■第2部 パネルディスカッション
第2部では、第1部で登壇した坪谷氏、原田氏に加え、大学からの視点として筑波大学人文社会系教授、同大アドミッションセンター長の島田康行氏、グローバル企業からの視点として株式会社日立金属執行役・人事総務本部長の田宮直彦氏がパネリストとして登壇。進行は山梨学院短大教授で山梨学院小学校・中学校・高等学校の山内紀幸校長が務めた。パネルディスカッションでは、それぞれの専門分野からIBの持つ可能性や展望、IBの理念を有した人材育成の重要性について議論が交わされたほか、あらかじめ参加者から寄せられた質問に回答・解説が行われた。
■第3部 分科会
第3部では会場を分かれ、企業からの視点・大学からの視点・高校からの視点で分科会が行われた。各会場では、登壇者からテーマに沿った詳細な解説や報告がされるとともに、参加者からも意見や質問が寄せられ、時間が許す限り、活発な議論が行われた。(以下テーマと登壇者)
①企業が求めるグローバル人材-IB学習者の重要性
田宮直彦氏
②大学入試改革とIB教育-なぜ大学はIB学習者を求めるのか
島田康行氏、原田大地氏、坪谷ニュウエル郁子氏
③山梨学院高校がIB認定校になるまで
山学高IB担当(吉田正副校長、堀内晃IBDP主任、アンジェラ・ラスマセンIBDPコーディネーター、池尻文IBCASコーディネーター)
今回開催されたシンポジウムには山梨学院系列校の保護者のほか、県内の教育関係者、教育を学ぶ学生らが参加。山梨県では、山学高が県下初のIBDP認定校としてIBカリキュラムを今年度から実施しており、都留文科大学ではIBユニバーシティとして国際教養学科でIB教員養成を同じく今年度スタートさせた。また、駿台甲府高がDP候補校になっているほか、県立甲府西高でもIB導入に向けた検討が行われ県教委が準備を進めている。山梨県でも少しずつIBの裾野が広がる中で、県内のIB先駆者として山梨学院の今後の取り組みが注目される。
文(Y.Y)、カメラ(藤原 稔)2017.7.3