●山梨学院学術報告会2017
~大学教員が調査研究の成果を学外に発表~
~5人の教員が専門分野の興味深いテーマで~
山梨学院生涯学習センターは、山梨学院の教員が取り組む調査・研究活動の成果を発表する「山梨学院学術報告会2017」を2月15日、山梨学院クリスタルタワー6階の生涯学習センター講義室で開催した。これは教員が学会や研究会などで発表した学術論文などの研究成果を、学内及び学外の一般の方々に広く公表するもので、2013年度から始まり5回目の実施となった。今回の報告会は、第1部、第2部の2回に分け大学から5人の教員が自身が研究するテーマの成果を発表した。第1部では最初に山梨学院大経営情報学部経営情報学科・倉澤一孝特任准教授が「中国におけるキャッシュレス化の進展」のテーマに中国で実地調査した結果を報告。続いて法学部政治行政学科・大高瑞郁准教授が「他者の心の推論:子どもはどのように親の心を読むのか?」と題し、子どもが親の態度や感情表出によって親の心を読む調査・検証を行った成果を報告した。健康栄養学部管理栄養学科・名取貴光准教授は「神経変性疾患の予防・治療に向けた基礎的研究」をテーマにアルツハイマー病など神経変性疾患の抑制効果を研究報告した。夜7時から始まった第2部報告会では、現代ビジネス学部現代ビジネス学科・東秀忠准教授が「自動車からモビリティへ~技術は社会をどう変革するか?~」をテーマに移動手段を考えることによって社会をどう変えていけるかを考察した。また、スポーツ科学部スポーツ科学科・森幸也教授が「生物進化論と地球温暖化説、両論争への固定的自然観の影響」をテーマに各論争を通して固定観念が科学的考察を歪めてきたのではないかとの研究発表を行った。会場には一般市民の方や大学教職員が5人の取り組んだ興味深い研究テーマの発表に耳を傾け、発表後には質疑応答が活発に行われた。
冒頭、司会進行を務めた丸山正次法学部学部長・政治行政学科教授は「本学の教員が研究者として取り組んでいる学術研究の成果について学内外の方々に広く知っていただこうという趣旨で2013年度から始め今回に至っています。学会の報告ではなく一般の社会人向けの発表でお願いしますと、今までは2,3人の発表でしたが今回は5人の先生が報告してくださることになりました。研究内容が違いますので、興味・関心を持っていただけると思います」と挨拶をした。
◆第1部 「中国におけるキャッシュレス化の進展」
初めにマクロ経済、ファイナンス、統計学が専門の倉澤一孝経営情報学部経営情報学科特任准教授の「中国におけるキャッシュレス化の進展」の発表報告が行われた。現金流通が盛んな国とキャシュレス化が進む世界の現状やメリットを挙げながら、日本の個人消費に占める決済手段の割合とキャシュレス化が急激に進む中国の現状を中国人留学生の協力を仰ぎながら山梨学院大研究継続奨励金で現地調査した内容やキャッシュレス化のシステム、今後の日本のキャシュレス化への動向や日本、中国のキャシュレス化における『安全性・適合性・有用性・容易性』などの心理特性の違いを追求していきたいとした。
◆「他者の心の推論:子どもはどのように親の心を読むのか?」
続いて、社会心理学の対人関係を専門分野に研究している法学部政治行政学科・大高瑞郁准教授のテーマは「他者の心の推論」と題してそれぞれの対人関係の中で、子どもの親の配偶者に対する態度、夫婦関係をどのように読んでいるのかに焦点を当てて、三者関係の中に埋め込まれた二者関係をどのように推論するのかを研究報告した。男女比が同じようになるため山梨学院大と短大の学生335人に協力してもらい、子どもが認知する親の配偶者の態度、感情表出、親の子どもに対する態度、子どもの親に対する態度、夫婦の互いに対する態度などを記述統計、子どもは親の感情表出に基づいて親の心を読むなどと分析した。発表後の質疑応答では、今回は、学生だけの調査だったが今後は年齢の幅を広げていくとしている。
◆「神経変性疾患の予防・治療に向けた基礎的研究」
続いては、食品学、神経科学、糖鎖生物学が専門の健康栄養学部管理栄養学科・名取貴光准教授が研究課題の「神経変性疾患の予防・治療に向けた基礎的研究」について研究発表を行った。初めに山梨県の健康寿命、平均寿命の現状と現代社会の課題を紹介。高齢化の進む現代の加齢とともに発症率が高くなるアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の治療方法の開発が重要で、その研究成果を発表。予防効果のある栄養成分や、それが含まれる食品、アルツハイマー病、パーキンソン病を引き起こす物質の解説。それらの予防・治療に向けて行ってきた基礎的研究として、原因物質のアミロイドベータ毒性保護効果の研究や線虫を用いた予防実験などを行い、抑制効果が認められたとする報告を行った。
◆第2部 「自動車からモビリティへ~技術は社会をどう変革するか?~」
第2部は1時間の休憩を挟んで午後7時より始まった。2人の教員の研究成果が発表された。初めに東秀忠現代ビジネス学部現代ビジネス学科准教授が「自動車からモビリティへ~技術は社会をどう変革するか?~」と地方の交通弱者と自動車技術の発展との矛盾を鋭く切り込んだ。現在、過疎地域などで出かけたくても移動手段(モビリティ)がなく出かけられない交通弱者が多い場所が増えていることを指摘。それは交通機関が営利を目的にしているからなどと課題を挙げ、これまでの自動車利用パターンと現在行われつつある新しい利用パターンの例を示し、さらにスイスにおける自動運転バスの事例を挙げ、自動車先進技術を持つ日本のモビリティと社会の関わりを検証、問題提起を行った。
◆「生物進化論と地球温暖化説、両論争への固定的自然観の影響」
次にスポーツ科学部スポーツ科学科・森幸也教授が長年と研究に取り組んでいる科学論争史で「生物進化論と地球温暖化説、両論争への固定的自然観の影響」と題して研究成果を報告した。森教授は、科学論争に対する研究の視点として、各論争には個別性・独自性があり、論争間には類似性・共通性も見られるとした。具体的な研究テーマの生物進化論と地球温暖化説では、日常的・常識的な「固定的自然観」の影響が暗黙のうちに作用し、根拠なく、宇宙・地球・自然界・生物界を時間的・空間的に、不変・不動の存在として思い込んでいたとした。地球温暖化の要因論に関しては、気候変動による思い込みー「気候の不変性」と呼ぶべき固定的自然観の影響―により、十分な根拠なく大問題と認知され、重大な環境問題と誤認されてしまい、進化論の論争にも悪影響を与え、地球温暖化の論争に対しても固定的自然観がかなりの悪影響をもたらしたのではないかと考察した。報告後には、質疑応答が行われ、難しいテーマにも熱心な一般聴衆者との質疑応答が行われ、中身の濃い学術報告会となった。
文(K.F) カメラ(平川大雪)2018.2.16