●甲斐の古道を歩く「若彦路編」
~歴史遺産を巡るフィールドワーク~
~古代の「道」を通じ、歴史再発見~
山梨学院甲斐の古道プロジェクト委員会は6月17日、甲斐の古道の一つである「若彦路」や周辺の歴史遺産等を巡るフィールドワーク体験プログラムを実施した。山梨学院の所在する甲府市酒折地区は、江戸時代の地誌『甲斐国志』に甲斐の古道の路首(起点)と記載されていることから、山梨学院創立70周年事業の一環として「甲斐の古道プロジェクト」を発足させ、古道の現況調査や市民を対象としたフィールドワークを実施している。この日実施された「若彦路」編は、一昨年の「青梅街道編」、昨年の「鎌倉街道・御坂路編」に続く第三弾として企画され、富士山世界遺産構成資産の冨士御室浅間神社を起点に、御室道や長浜街道、道者道を経由して若彦路を歩く約10kmの行程が組まれた。途中、常在寺や法華院、鼻曲石、蓮華寺、八王子神社、妙本寺などの神社仏閣や歴史遺産を見学。参加者は、講師の説明に耳を傾け、メモや写真などで記録し、古代の「道」を辿り、地域の歴史を再発見していた。
江戸時代の地誌『甲斐国志』には、「本州九筋ヨリ他州へ通ズル路九條あり・・・(中略)・・・皆酒折ヨリ路首を發起ス」と記述があり、山梨学院の所在する甲府市酒折地区が甲斐の古道の起点であったと記されている。甲斐の古道は九筋あり、河内路(駿州往還)・右左口路(中道往還)・若彦路・鎌倉街道(御坂路)・萩原口(青梅街道)・雁坂口(秩父往還)・穂坂路・大門嶺口(棒道)・逸見路(諏訪口)の9路からなっている。学校法人山梨学院は創立70周年記念事業として「甲斐の古道プロジェクト委員会」を立ち上げ、山梨学院大学考古学研究会の協力も得ながら、古道の現況調査に取り組んでいる。委員会では、一昨年初めて市民を対象に、山梨市から甲州市にかけての青梅街道でフィールドワークを実施。昨年は、第二弾として富士河口湖町から富士吉田市にかけての鎌倉街道(御坂路)のフィールドワークを行い、富士山世界遺産の構成資産や富士講にまつわる歴史遺産、資料など見学した。
今回の第三弾では、甲斐国と駿河国を結ぶ「若彦路」を中心に富士河口湖町でフィールドワークが実施された。講師は富士河口湖町教育委員会・杉本悠樹学芸員や富士山世界遺産センター・堀内亨さんらが務めた。講師を含め37人の参加者は、梅雨の中休みで爽やかな新緑に日差しが降り注ぐ中、午前10時に冨士御室浅間神社を出発。御室道や長浜街道、道者道、若彦路を歩き、以下の行程で神社仏閣や文化財などを見学した。
【行程】冨士御室浅間神社→常在寺→東照宮御宿陣ノ跡→神主家→廃浄蓮寺跡→法華院→鼻曲石→道者道記念碑→大嵐集落→蓮華寺→小海説明標→八王子神社→妙本寺→道の駅かつやま→谷崎潤一郎文学碑→シッコゴ公園→冨士御室浅間神社
若彦路は酒折(甲府市板垣(現在の里垣地区))を起点に笛吹市奈良原、鳥坂峠、上芦川、大石峠、大嵐、鳴沢村大田和を経て富士宮市上井出に通じており、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の皇子「稚武彦王(わかたけひこのおう)」の名前にちなむと言われている。各見学場所では、杉本さんや堀内さんが『甲斐国志』や『吾妻鏡』、冨士御室浅間神社が所蔵する典籍『勝山記』などをもとに歴史学・民俗学的視点から解説を行った。また、富士山世界遺産の構成資産や関連する文化財も数多くあることから、富士山や富士講、修験道との関わりについても説明が加えられた。この他、同行した十菱駿武山梨学院大学客員教授や保坂康夫非常勤講師が道中、参加者からの個別の質問に答え、参加者らは理解を深めていた。約10kmのコースを約5時間かけて巡り、参加者は講師の話に熱心に耳を傾け、メモや写真に記録し、古代の「道」やそれを織りなす人々の生活に思いを巡らせていた。企画した十菱駿武客員教授は「これまであまり良く知られていなかった若彦路を歩くことによって、古代から現代までの各時代の民家や文化財を探ることができました。それぞれの道には色々な伝説が絡んでいるということを実地で探ることができて、良いフィールドワークになったと思います」と成果を語った。県外出身で現在は富士吉田市に居住する70代男性は「地元を再発見しようと思い参加しました。車ではよく通りますが、地名の由来や歴史については、まったく分かりませんでした。今回参加して若彦路の名前の由来や道程など新しい発見もありました。実際に歩いてみることで、昔の人の思いも知ることができました」と感想を語った。また、地元の富士河口湖町小立から参加の60代男性は「地元でフィールドワークが行われることを知り、参加しました。妙本寺や八王子神社など自分の足で歩いたことはなかったので良い機会になりました」と述べた。この他一般参加者に交じり、山梨学院大学国際リベラルアーツ学部のウィリアム・リード教授や留学生も参加した。リード教授は「学生に古い神社やお寺、文化財を見せたくて参加しました。また、山梨の自然の中を歩くことにも魅力を感じました。学生たちはFuji Cultureというワークショップを履修しており、もともと関心が高く、自国にない文化に触れることができ、学生も喜んでいました。一人で来ると解説やコースが分からず苦労しますが、きょうはとても良い機会になりました」と感想を語った。
文・カメラ(Y.Y)2018.6.17