●やまなし文芸講座2018 酒折連歌編
~井上康明さんが短詩型文学の魅力を解説~
~三枝昂之さんが良い答えの片歌の条件を提示~
山梨学院生涯学習センターは6月21日、「やまなし文芸講座2018 酒折連歌編」を開講させた。「やまなし文芸講座」はこれまでの「酒折連歌講座」と「山梨学院文学講座」を統合し、文学や酒折連歌をはじめとする短詩型文学を学ぶ講座として新たに設定された。第1回の6月21日は、俳人で俳誌『郭公』主宰の井上康明さんが「短詩型文学の魅力―飯田蛇笏・龍太の世界― 夏の俳句」と題し講座を行った。井上さんは、郷土の俳人、飯田蛇笏・龍太親子の夏の俳句を題材に短詩型文学の魅力を解説したほか、鑑賞を通じ、酒折連歌の作歌のポイントなどを説明。第2回目の7月6日には歌人で歌誌『りとむ』発行人の三枝昂之さんが「酒折連歌考―人はなぜ歌を詠むのか―」と題し講座を行った。三枝さんは、万葉集や古今集、新聞歌壇に詠まれた歌を日常生活や社会情勢に結び付けて解説。その上で、酒折連歌賞の過去の入賞作品から良い答えの条件について説明を加えた。
「やまなし文芸講座」は今年度から始まった新たな講座で、これまで開講していた「酒折連歌講座」と「山梨学院文学講座」を発展的に統合して設定された。今回は“酒折連歌編”として、6月21日と7月6日の全2回実施された。
■第1回 6/21
俳人で俳誌『郭公』主宰の井上康明さんが講師を務め、「短詩型文学の魅力-飯田蛇笏・龍太親子の世界-夏の俳句」と題し講座をおこなった。井上さんは1952年韮崎市生まれ。20代から俳句を始め、飯田龍太に師事、『雲母』会員となる。『雲母』終刊後は廣瀬直人主宰の『白露』創刊に参加、編集同人として携わる。『白露』終刊後の平成25年に『郭公』を主宰・創刊する。酒折連歌賞や山梨日日新聞俳句欄、都留市ふれあい全国俳句大会の選考委員を務める。第1回目の講座では、郷土の俳人、飯田蛇笏・龍太親子の夏の俳句を題材に、夏の季語や蛇笏・龍太それぞれの人生観に触れながら短詩型文学の魅力を解説。また、『枕草子』の一節を紹介し、四季折々の情景から夏特有の印象や表現方法について説明を加えた。その上で井上さんは、酒折連歌の作歌について「問いの片歌を受け止め、情景を読み解き、繋がりを見いだし、向かい合う世界を作っていくことが大切です。俳句も必ず季語があり、情景があります。この情景と季語が繋がるともなく繋がっています。繋がりながら離れる、切れて繋がる・・・この部分が情景を創る際に工夫するところです」と語り、「情景の創作は勘が頼りです。他の作品を鑑賞し、得た感動を心にしまい、自分の句を作る際は、この心の豊かな気持ちを自分の言葉に生かすことが求められます。一方で、勘は鈍るので他の作品を鑑賞し、常に磨き続けることが重要です」と話した。
■第2回 7/6
歌人で歌誌『りとむ』発行人の三枝昂之さんが講師を務め、「酒折連歌考―人はなぜ歌を詠むのか―」と題し講座を行った。三枝さんは1944年甲府市生まれ。2005年度から2年間NHK教育テレビの「NHK短歌」を担当。第14回やまなし文学賞、第17回齋藤茂吉短歌文学賞、第56回芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。山梨県立文学館館長。2011年度には春の紫綬褒章を受章。宮内庁の宮中歌会始や山梨日日新聞短歌欄などの選者を務め、酒折連歌賞は第四回から選考委員を務めている。この日は、万葉集や古今集に詠まれた和歌や歌人の萩原慎一郎さんの歌集『滑走路』に収められた歌、新聞歌壇に掲載された短歌などを日常生活や社会情勢に結び付けて解説。また、歌の力の源泉について、信仰儀式などと結び付けて言及した。その上で、過去の酒折連歌賞の入賞作品を提示し、良い答えの片歌の条件「①答えに具体があること(小さい具体を通して大きな世界を表現する)・②答えに個性があること(工夫や冒険があること)・③人生的な共感を呼ぶ答え(主題の普遍性)」について説明を加えた。結びとして「酒折連歌は一種の言葉のゲームです。文芸の一番肝心な部分に触れる要素が含まれています。遊びながら日本の文芸の機微に触れることができますので、是非様々な形でチャレンジしてみてください」と受講者に語りかけた。
「酒折連歌賞」は今回で20回目を数え、“酒折連歌”は五七七の問いの片歌に、答えの片歌を五七七で返す二句一連の片歌問答。俳句などと違い、作歌上の約束事は五七七で返すことのみ。問いの片歌に続く答えの片歌を作者の感性で自由に発想し、老若男女を問わず詠むことができる歌遊び。今年の第二十回酒折連歌賞は4月1日から募集が開始され、一般部門と小・中・高校生の作品を対象としたアルテア部門のそれぞれの大賞に文部科学大臣賞などが贈られる。応募の締め切りは9月30日必着。詳しい募集内容と応募の問い合わせは山梨学院大学酒折連歌賞事務局(TEL055-224-1641 ホームページ)
文・カメラ(Y.Y)2018.7.6