●第二十回酒折連歌賞 答えの片歌入賞者発表
~大賞・文部科学大臣賞に神奈川県の主婦村岡さん~
~アルテア部門大賞、香川県の中1高木さんが受賞~
「第二十回酒折連歌賞」の表彰式が2月10日、山梨学院クリスタルタワー7階広報スタジオで行われた。表彰式には、受賞者の4人(1人欠席)のほか選考委員、主催者関係者、後援団体各賞授与者、報道各社が集まった。今回、酒折連歌賞への応募は国内外から総数45,858句が寄せられ、その中から一般部門大賞・文部科学大臣賞には主婦の村岡純子さん(神奈川県小田原市)が受賞。表彰状と副賞、大賞杯が授与された。山梨県知事賞は韮崎高校の板山優汰さん(山梨県韮崎市/体調不良のため欠席)、山梨県教育委員会教育長賞に藤村悦郎さん(大阪府豊中市)、甲府市長賞は小金奈緒美さん(埼玉県越谷市)がそれぞれ受賞、表彰状と副賞が贈られた。また、小・中・高校生を対象にしたアルテア部門の大賞・文部科学大臣賞は高木明日希さん(中学1年 香川県高松市)が受賞、表彰状と副賞が贈られた。また、一般部門大賞同様、大賞杯が授与された。一般部門の大賞・文部科学大臣賞を受賞した村岡さんは「今回の受賞を糧に、さらに励んでいきたい」と受賞の喜びを語った。4人の受賞者は、表彰式後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
わが国の連歌発祥の地とされている『酒折宮』にちなんでつくられた酒折連歌賞は、1998年(平成10年)、多くの人が連歌に興味・関心と創作意欲を持つことで連歌の再興と普及により、文学の振興、文化の創造を推進しようと、山梨学院大学が母体になり創設された。「古事記」に登場する倭建命(日本武尊)と御火焼(かがり火役)の老人との問答にちなみ、五・七・七の『問いの片歌』に対して『答えの片歌』五・七・七で返す問答形式の歌遊び。文学形態上からも珍しく特色があるといえる。伝統を現代に活かそうという試みは、今回で第二十回目を数える。酒折連歌賞は、上位5句のほかに入選10句、優秀賞12句、優良賞54句、アルテア賞佳作19句の合計100選を選出。選考委員は(右から)、選考委員長の三枝昂之氏(歌人)、宇多喜代子氏(俳人)、今野寿美氏(歌人)、井上康明氏(俳人)、もりまりこ氏(歌人)、辻村深月氏(作家)の6人が務めた。なお、辻村氏は欠席した。
表彰式で古屋忠彦主催者代表は、初めに受賞者に祝いの言葉を掛け、並びに多くの応募作品を審査した選考委員、酒折連歌賞に関心を寄せてくれる報道機関に謝辞を述べた後、「酒折連歌賞は、節目の二十回を迎えたわけですが、地方の大学が全国区の文学賞を主催できるということは大変誇り高い名誉な事であります。一番うれしいのは山梨県だけではなく全国47都道府県から応募に、さらに海外から応募があり主催者の一人として本当に心強く思っています。皆様に温かく見守られながら続けていけることを心から感謝申し上げます」と挨拶した。続いて廣瀬孝嘉酒折連歌賞実行委員長が酒折連歌賞の特色や経緯、統計などを説明。続いて受賞者の発表、表彰状の授与が行われた。選評では選考委員の三枝昂之委員長は、現在の短歌の若い歌人の作品の傾向に触れ、「自問自答の手さぐりに作品が多く、他人がいない」と説明、それに対して酒折連歌について「他人が対象にいます。酒折連歌は『問いの片歌と答えの片歌』でワンセットになっています。目の前の自然といったものに目を置くということは、詩の一つの大切な原点だと思うのですけど、その原点を一番今に活かしているのは、酒折連歌ですので皆さんも一人一人の問いと向き合うことによって、おのずから他人の眼と問答するわけです。個人的なつぶやきが表現の主流になっている中では、これから対話詩としての酒折連歌は大切なものになる」と酒折連歌の重要性を述べた。続いてそれぞれの受賞5作品に講評を加え、それに応え受賞者が喜びの言葉を述べた。
◆上位5人受賞者の受賞の言葉と創作に込めた思い (アンケート=受賞の喜びから)
◆一般の部 大賞・文部科学大臣賞 村岡純子さん | |
<問いの片歌(二)> コーヒーか紅茶かそれとも海を見にゆく? |
<答えの片歌> 三択があればよかったハムレットにも |
村岡純子さん(女性 主婦 55歳 神奈川県小田原市在住)
「大変光栄に存じます。毎回、どの問いの片歌も一目見るなり、その歌に触発された情景や思い出が次々に浮かんできます。二番の問いの片歌について考えている時に、テレビで『ハムレット』の舞台が放映されており、あの有名な『生きるべきか、死ぬべきか』というセリフを聞き思い浮かびました。この問いの片歌にある自由闊達な優しさが悩みを抱える人々に届きますようにとの願いを込めて作りました。これからもどんな片歌に出会えるだろうかととても楽しみです」。
◆一般部門 山梨県知事賞 板山優汰さん | |
<問いの片歌(一)> 晴れた日の買い物メモに単三電池 |
<答えの片歌> スーパーで買えればいいのに時間と未来 |
板山優汰さん(男性 高校1年生 15歳 山梨県韮崎市在住)
「韮崎高校の夏期休業中の生徒の取り組みの一つとして酒折連歌賞があり応募しました。『晴れた日の』という言葉から雲一つない青空の中、心が広がっていく明るいイメージを持ちました。買いたいものはたとえ乾電池でも心の解放には今の自分にない時間、未来が手に入ると良いのに、と思い答えの片歌を詠みました。多くの応募がある中で自分の詠んだ片歌が受賞したことをとても光栄に思っています。今回の受賞を機に、今後も日本の伝統文化に触れていきたいと思っています」。
◆一般部門 山梨県教育委員会教育長賞 藤村悦郎さん | |
<問いの片歌(五)> まっすぐにまっすぐに降る雨を見ている |
<答えの片歌> 世に出るぞ山椒魚が誓いを立てる |
藤村悦郎さん(男性 62歳 大阪府豊中市在住)
「もともと俳句や川柳を作るのは好きだったのですが、偶然雑誌で見て強く興味を持ち応募しました。初めての応募でこのような賞をいただき、大変うれしく思っています。『まっすぐに降る雨を見ている』のは誰だろうと考えた時に、水中から見上げているという絵を想像しました。マーメイドとかクラゲとか考えるうちに井伏鱒二の山椒魚が思い浮かび、その気持ちを考えてみました」。
◆一般部門 甲府市長賞 小金奈緒美さん | |
<問いの片歌(三)> 歩きだす洗いざらしのブルージーンズ |
<答えの片歌> 砂利道もでんでんむしは威風堂々 |
小金奈緒美さん(女性 主婦 55歳 埼玉県越谷市在住)
「二度目の入賞はないと思っていました。まだ実感は湧きませんが日に日に感謝とうれしさが込み上げています。二階のベランダでふと見つけたカタツムリに心が動かされました。小さな身体で歩みも遅いカタツムリが、こんなに高い所まで来ていることに驚きました。そして動かないように思えていたカタツムリが目を離したときに消えてしまったことに驚きました。しかし、そのカタツムリは消えたのではなく、しっかりと歩を進めていただけだと気づきました。どんな障害物を今触れている一点を全身で受け止め、悠々と歩む姿に感動しました」。
◆アルテア部門<小・中・高校生対象> 大賞・文部科学大臣賞 高木明日希さん | |
<問いの片歌4> 風の色記憶の中のあなたとあなた |
<答えの片歌> エピソード枝を揺らして語り続ける |
高木明日希さん(男性 中学1年生 13歳 香川県高松市在住)
「国語の教科書に『空を見上げて』という話があります。東日本大震災を経験した中学生が連歌をつくる話でした。その授業で先生がこの連歌賞を紹介して、1年生全員が連歌賞に挑戦しました。問いの片歌を選ぼうとしたとき、ふと外を眺めると校庭の2本の木が風に揺れて枝がぶつかっていました。その様子が人と人とがまるで話しているように思えました。季節で変わる風の吹き方や匂いが、季節が巡るたびにその頃にあった色々な出来事を思いださせてくれるということを表現したいと思いました。賞はただただ驚いています。本当にうれしいです」。
受賞者は表彰式後、報道の取材を受け、記念写真撮影などを行った。その後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
文(K.F) カメラ(平川大雪) 2019.2.10
100選の詳細及び選評は酒折連歌賞HP