●山梨学院学術報告会2018
~5人の大学教員が調査研究の成果を報告~
~密度の濃い学術専門分野のテーマを解りやすく~
山梨学院生涯学習センターは、山梨学院の教員が取り組む調査・研究活動の成果を発表する「山梨学院学術報告会2018」を2月14日、山梨学院クリスタルタワー6階の生涯学習センター講義室で開催した。これは教員が学会や研究会などで発表した学術論文などの研究成果を、学内及び学外の一般の方々に広く公表するもので、2013年度から始まり6回目の実施となった。今回の報告会は、大学、短大から5人の教員が自身の研究するテーマの成果を報告した。最初に室町さやか山梨学院短期大学保育科専任講師は「保育現場における音楽活動の現状と展望」、三本木温スポーツ科学部教授は「市民ランナーにおけるランニングへの意識について」、また、「産前産後ケアセンターの利用率向上を目的にした『ナッジ』に関するランダム化社会実験」のテーマで遠藤清香短期大学保育科教授、石川勝彦学習・教育開発センター特任講師、倉澤一孝経営情報学部特任准教授の3人が共同研究報告を行った。
学術報告会で司会進行を務めた丸山正次法学部学部長・政治行政学科教授は冒頭、「本学の教員が研究者として取り組んでいる学術研究の成果について学内外の方々に広く知っていただこうという機会を設けて2013年度から毎年行っています。今回初めて、3つの報告がある意味共通した問題関心、人の意識がどういうものなのか確認する意識調査がテーマになっています。人間の意識はたくさんあるわけですからそういう意識を見ようとするときに我々は必ずその意識のどこを見ようとするか眼鏡を掛けます。その眼鏡の掛け方が違うとこのようにものの違った見え方がするのだと、今日は3つの報告から受けられると思っています」と挨拶をした。
◆「保育現場における音楽活動の現状と展望」
初めに音楽学・音楽教育学が専門の室町さやか短期大学保育科専任講師の「保育現場における音楽活動の現状と展望」の発表報告が行われた。この研究は、山梨県内の幼稚園、保育所、認定こども園での音楽活動を調査し、保育者及び幼稚園教諭に求められる音楽の力を明らかにし、保育者養成校における音楽教育の在り方を考察することを目的とした。研究方法として、保育現場におけるピアノ活用の実態と問題点を究明する形で行われた。調査から「保育の表現技術」の音楽表現にピアノ偏重が認められるものの、現場ではピアノが多く活用され親しまれている現状を示す一方、保育者のピアノへの苦手意識から子どもを音楽から遠ざけていることも指摘。「ピアノ=音楽活動」という固定観念から、ピアノを用いない音楽活動の重要性にも着目した。今後もピアノ以外の音楽活動について各園が「表現」の中でどのような活動を行っているかを分析し、その園における保育方針や音楽活動に対する意識について明らかにしていくとした。
◆「市民ランナーにおけるランニングへの意識に関する調査研究」
続いて、体育学・スポーツ科学を専門にしている三本木温スポーツ科学部教授は「市民ランナーにおけるランニングへの意識に関する調査研究」と題して、ランニングブームの現状に至る経緯と要因を踏まえ、市民ランナーの学校期におけるランニング(持久走)についての意識(好き、嫌い)を分析。なぜ学校期に嫌いだったランニングが成人期に好きになったかの関連性を調査・研究した。対象者をあるランニングクラブの協力を仰ぎ、自分の意思でランニングを定期的に行っている成人173人にアンケートを求めた。内容は、学校期におけるランニングの好き・嫌いの理由、成人期に始めた理由・続ける理由、学校卒業後のランニングの中断年数など19項目の質問を設けた結果、『ランニング愛好者の多くは、必ずしも学校のランニングは好きではなかった』『ランニンが好きだった人たちに比べ、ランニングが嫌いだった人たちは、学校卒業後にランニングを始めた理由に、運動不足(不健康)やストレス、すっきり感を挙げるものが多かった』『学校期の好き・嫌いが卒業後にランニングを始めるきっかけに影響している可能性がある』とランニングは、手段から目的に変わり、意識の変化が起こっているのではないかと研究結果を導き出した。
◆「産前産後ケアセンターの利用率向上を目的にした『ナッジ』に関するランダム化社会実験」
続いては、特別支援教育・障害児教育が専門の短期大学保育科・遠藤清香教授、発達心理学が専門の学習・教育開発センター石川勝彦特任講師、マクロ経済学・ファイナンス・統計学が専門の倉澤一孝経営情報学部特任准教授の3人による共同研究「産前産後ケアセンターの利用率向上を目的にした『ナッジ』に関するランダム化社会実験」について研究発表を行った。まず初めに遠藤清香教授は、本研究が平成30年度科学研究費助成事業に採択され、3年間の計画で行われる研究の1年目の進捗状況であることを説明。報告ではまず、本研究の背景として産前産後の重要性に触れ、笛吹市の山梨県産前産後ケアセンターの概要とニーズがあるにも関わらず利用率が高くないことに言及。望ましい選択が存在しているのにも関わらずその選択肢を選ばない「選択エラー」の問題を挙げ、そのためなぜ利用率が上がらないか仮説を立て、理由に応じた促し(ナッジ)をすることを本研究にしたと背景説明をした。続いて昨年実施した調査結果を石川勝彦特任講師が報告。出産・子育ての「困難場面」を98項目に整理し大学生約300人、当事者(支援が必要)でない青年を対象に援助要請態度の実態を記述するアンケート調査した。深刻な場面であるほど自己の援助要請を手控えるという結果になり、深刻度が高いほど他人より自分を後回しにする傾向になったと分析。大学生の段階でこのような意識が生まれていることから困難に予防的に備えることが難しいと予測され、問題意識としてそれに考慮した施策やナッジが必要になってくるとした。続いて、公共サービス等を必要としている潜在的利用者にいかに届けるか、今後の研究の方向性の報告を倉澤一孝特任准教授が引き継いだ。行政窓口までは届いている公共サービスを提供する施設が利用者まで行きつかない課題を申請書の簡略化の工夫や意識の違いに差のある潜在利用者の区分けし、それぞれに応じたメッセージを発信することで利用率が上がった成功事例を参考にしながら今後、市町村の協力のもとに潜在的利用者のタイプ分け調査の実施。それによる優れたサービスを提供している産前産後ケアセンターの認知度の向上につなげる有効的な広報活動の工夫。これら対策実験による効果を見極めていくと、今後2年間にわたる研究の方向性を発表した。
今回、3テーマで2時間にわたる密度の濃い報告に参加者は、熱心にメモを取りながら聞き入った。それぞれの報告後には、質疑応答が行われた。
文(K.F) カメラ(平川大雪)2019.2.15