●甲斐の古道を歩く「棒道」
~歴史遺産を巡るフィールドワーク~
~新緑映える八ヶ岳・棒道周辺を散策~
山梨学院生涯学習センターは6月23日、甲斐の古道の一つである「棒道」や周辺の文化財・歴史遺産などを巡るフィールドワーク体験プログラムを実施した。これまで青梅街道や鎌倉街道、若彦路、駿州往還の4古道のフィールドワークを行い、今回は第5弾として「棒道」編が企画された。棒道は、戦国時代に武田信玄が北信濃攻略のために整備したとされる軍用道路。この日は、北杜市長坂町の三分一湧水公園を起点に小荒間古戦場跡、小荒間番所跡、上ノ棒道の石造群などの歴史遺産を見学。参加者は、講師の説明に耳を傾け、地域の歴史を再発見するとともに、戦国の歴史ロマンに思いをはせていた。
江戸時代の地誌『甲斐国志』には、「本州九筋ヨリ他州へ通ズル路九條あり・・・(中略)・・・皆酒折ヨリ路首を發起ス」と記述があり、山梨学院の所在する甲府市酒折地区が甲斐の古道の起点であったと記されている。甲斐の古道は九筋あり、駿州往還・中道往還・若彦路・鎌倉街道・青梅街道・秩父往還・穂坂路・棒道・逸見路の9路からなっている。学校法人山梨学院は創立70周年記念事業として「甲斐の古道プロジェクト委員会」を立ち上げ、山梨学院大学考古学研究会の協力も得ながら、古道の現況調査に取り組んだ。今年5月には青梅街道・秩父往還の起点、甲州街道の分岐点として今にその姿を残している山崎三叉路の一画に「甲斐の古道歴史公園」を整備。これまで、青梅街道(山梨市・甲州市)、鎌倉街道(富士富士河口湖町・富士吉田市)、若彦路(富士河口湖町)、駿州往還(身延町)でフィールドワークを実施。今回の第5弾では、山梨県教育委員会及び甲府市教育委員会が後援となり棒道(北杜市長坂町・小淵沢町)のフィールドワークが企画・実施された。
講師は地元の北杜市教育委員会の長谷川誠学芸員と十菱駿武山梨学院大客員教授、保阪康夫山梨学院大学講師が務めた。「棒道」は、韮崎市穴山から八ヶ岳南麓を通り、長野県白樺湖北方の大門峠に向かう古道で、上中下3本ありいずれも武田信玄が北信濃攻略のための軍用道路として整備したとされ、現在では上ノ棒道のみ現存している。直線的な道の特徴から「棒道」と呼ばれ、江戸時代には要所に口留番所が置かれ、上ノ棒道の小荒間付近には西国・坂東各三十三観音が設置されている。講師を含め20人の参加者は、午前10時に三分一湧水公園に集合。三分一湧水は、戦国時代に水争いをしていた各村に平等に配水するために造られた堰で、ここに湧く八ヶ岳南麓の湧水は日本名水百選にも選定されている。参加者は、以下の行程で棒道周辺に残る石造物などの文化財や歴史遺産を見学した。
【行程】三分一湧水公園→小荒間古戦場跡(信玄公御座石・信玄公鞍掛石)→小荒間口留番所跡(道祖神・道標)→上ノ棒道(馬頭観音、千手観音、聖観音、十一面観音、如意輪観音)・富蔵山公園(馬頭観音)→火の見櫓跡→大東豊公民館(昼食休憩・開拓の碑)→二十二夜供養塔→三分一湧水公園
各見学場所や道中では、講師の長谷川学芸員や十菱客員教授、保阪講師が歴史学や民俗学、八ヶ岳の自然環境を踏まえながらそれぞれの文化財・歴史遺産の説明を行った。また、『甲陽軍艦』や地域に残る古文書や伝承などから棒道や点在する石造物についてポイントごとに解説を加えた。特に棒道には、江戸時代に旅の安全を祈願し、各村の有志が建立した「西国三十三所」「坂東三十三所」の霊場を模した観音さまが安置されており、参加者は、講師の解説に耳を傾け、道中に点在する観音さまを興味深く拝観し、写真に収めるなどしていた。約8.4kmのコースを約4時間かけて歩き、参加者はメモや写真などに記録し、点在する歴史遺産からいにしえの人々の生活や地域の歴史を再認識し、戦国時代の歴史ロマンに思いを巡らせていた。
企画した十菱駿武客員教授は「棒道は戦国時代に武田信玄などの武将が、川中島の合戦に参加するために信濃の善光寺平まで整備した直線のルートで、主に軍用道路です。この道は、生活道路として使われていた時代もありました。道の遺構は残っていませんが、江戸時代末に地元・長坂の村民が石仏を建て、奉納し、旅の安全を祈りました。良く整備された道で、それぞれの歴史遺産を巡りながら健康増進と歴史を再発見する良いイベントになりました」と成果を語った。甲斐市から参加した40代女性は「昨年の若彦路、駿州往還に参加し、地域の歴史に興味を持ち、もっと学びたいと思い今回も参加しました。木陰が涼しく、色々なお話が聞け、見て歩くことで変化があり、勉強になりました。次々に現れる観音さまにワクワクして楽しみながら歩けたので、山道も苦にならなかったです。地域の歴史を知ることで、昔の人々の生活を知ることもできるので、次回もぜひ参加したいです」と笑顔で語った。また、70代の甲州市の男性は「甲冑を着た武士がこの道を意気揚々と歩いたことを想像し、その気持ちを味わうことができた。私自身四国八十八箇所や坂東三十三箇所巡りをしたこともあり、棒道の観音を巡ることで当時のことが思い出された。新緑や八ヶ岳の高原の風が気持ちよく、自然を満喫でき、草花も見ることができたので、次回も都合がつけば参加したいです」と晴々した表情で述べた。さらに、甲府市の70代男性は「歴史に興味があり、古道など昔の街道を歩くことが好きで参加しました。趣味と健康を両立することができ、戦国の歴史も感じることができました。地元に同じような趣味を持った仲間がいるので、今度は一緒にこの棒道を歩いてみたいです」と話した。
次回・第6弾は9月28日に秩父往還(山梨市室伏学校→日吉山王神社→円照寺→山王神社→吉祥寺→下釜口飛尾神社→川浦口留番所→川浦温泉)を舞台に行われる予定となっている。
文・カメラ(Y.Y)2019.6.23