●税理士が課題解決に向け専門的知識を教授
~東京地方税理士会山梨県会との連携授業~
~租税ディベートを通じ課題解決能力を育成~
山梨学院大学経営学部の専門演習Ⅱ(太郎良留美教授)において、税理士を講師に迎えた連携授業が10月13日に行われた。山梨学院大学は、東京地方税理士会山梨県会と租税教育推進協定を締結しており、相互に連携し租税教育に携わる人材育成を行っている。太郎良教授の専門演習Ⅱ(3年次配当科目)では、租税について調査・研究を行い、成果として小学生を対象とした「租税教室」を実施している。この日は、協定に基づき、租税教育プログラムの一環として甲府支部から2名の税理士が講師として参加。学生らは今月下旬に予定されている租税に関するディベート発表会に向け、課題解決に向けた専門的知識の教授や収集した資料の分析・検討方法について税理士から直接指導を受けた。学生の一人は「税に関しては素人で一視点からしか物事を捉えることができず、税理士の先生の指導を受けて、データ収集能力がまだ弱いと感じました。課題解決に向けて、様々な方法で根拠となるデータを収集し、発表資料をまとめていきたいと思います」と感想を語った。
山梨学院大学は2016年5月に東京地方税理士会山梨県会と「租税教育の推進および充実に関する提携協定」(租税教育推進協定)を締結。“租税教育”は、次代を担う子どもたちに対し、租税の意義や役割を正しく理解し、社会の構成員として税金を納め、その使い道に関心をもってもらうことなどを目的に実施され、近年では「租税教育の充実」について国税庁・総務省・文部科学省が積極的に推進するとともに、各県の税理士会と大学とが協定を結び、県単位でも租税教育に携わる人材育成が進められている。山学大では、経営学部経営学科の太郎良教授が専門演習において、租税の知識習得や研究、租税教室の実施などを行っている。この演習では、税理士を始め、税務署の職員なども講師として授業に参加し、学生は学外の方との交流や指導を通じ、コミュニケーションスキル『対人基礎力』の育成のほか、租税に関する専門的知識の教授、問題の発見・主体的な資料の収集とその分析や検討を行うことで『対課題基礎力』の習得が図られている。このほか、チームでの課題解決や自己設定課題の解決に向け、計画的な学習・研究を行うことで『対自己基礎力』も醸成されるなど、専門的知識の習得に留まらない、総合的な研究活動が実施されている。
経営学部長も務める太郎良教授は税理士会など産業界や専門機関との連携について「税理士や税務署の職員が講師として参加するため、外部の方からの指導や交流を通じ、社会人としてのキャリア形成の場にもなっています。このゼミでは、最終課題として学生が小学生に向けて租税教室を実施します。彼らが先生となって小学生に税金について教える授業になりますが、その準備として、税への専門知識を深め、問題意識を高めるために、ディベートを通じて理解を深めています。税金は立場や立ち位置によっては、異なった見方・捉え方ができますので、学生という単一の視点ではなく、税理士の先生方から租税の専門知識に加え、資料収集のヒントや多角的な物事の捉え方を教えていただくことで、発表内容にも深みが出てきます。自己学習に加え、専門家からの指摘が加わることで、知識の幅が広がり、学生自身の課題解決能力の育成にもつながってくると思います」と意義を語った。
10月13日の専門演習Ⅱでは、今月下旬に予定しているディベート発表会の発表準備が行われ、甲府支部から税の専門家として第一線で活躍する2名の税理士が講師として参加し、学生の指導にあたった。学生らは税理士会から事前に提示されたテーマをもとに肯定派・否定派に分かれ、根拠資料の収集やプレゼン資料の作成を実施。設定されたテーマは2つ。「消費税の軽減税率制度は廃止し、単一税率10%にすべきである」「税金は社会を支える会費のようなものである」。この日は、各テーマの肯定派・否定派のグループに税理士が入り、当日の発表(立論)を想定し、パワーポイントや根拠資料、参考となる具体例の確認を行った。税理士からは、論点整理や論理構成(主張)の組み立て方、根拠資料の選別方法などに加え、租税制度や法体系、税理士としての実務上の視点など専門知識についての教授が行われた。また、訴求ポイントとしての表現方法や具体例の明示方法など効果的なプレゼン技法の指導も行われた。
指導した前田晋吾税理士は「学生たちはポイントを押さえて発表資料を作成しており感心しました。一方で、ポイントを訴求する根拠が弱く、裏付け資料や具体例がさらに集まれば、自分たちも理解し、納得する形で発表できるので、専門家が指導することで問題点を気付けるということは良い機会だと思いました。学生たちは、最終的に租税教室を実施しますが、誰かに何かを教えるには、中途半端な知識ではできませんので、教えるために理解する・目の前の課題を解決するというこのサイクルが社会に出てからも役に立つスキルになると思います」と話し、山梨県会の租税教育推進部長を務める浅川尚樹税理士は「私が第1回目で出したヒントを理解しており、粗削りではありますが、学生の視点で自分たちの意見をまとめてあり、驚かされました。学生一人一人が自分自身の問題として税を捉えており、不明な点は自分で調べ、答えを導き出し、意識の高さが伺えました」と学生を評価し、今後実施する租税教室に向け「年代が近い大学生のお兄さん、お姉さんが先生となりますので、親近感を持ちやすく、子どもの目線に立ったアイディアで教室を行いますので、子どもたちも税について良く勉強をしてくれます。これから社会に出て日本の将来を担っていく若い方たちには、早い段階で税について学び、理解することで自分と社会との関わり方の発見にもなると思います」と語り、期待を寄せた。
税理士の指導を受けた荻原敦さん(経営学科3年)は「私たちは税に関しては素人で一視点からしか物事を捉えることができず、専門の税理士の先生の指導を受けて、データ収集能力がまだ弱いと感じました。税理士の先生の意見も参考にしながら、課題解決や当日の発表に向けて、様々な方法で根拠となるデータを収集し、発表資料にまとめていきたいと思います」と述べ、原新吉さん(経営学科3年)は「税理士の先生には自分たちが調べたこと以上に深い視点で追及していただき、とても勉強になりました。ディベートの流れはできていたのですが、具体例の情報が足りなかったり、用語の定義が不明確な部分があったので、立論構成に向けてさらに調べていきたいです。(租税教室では)大人になれば税について意識したり、関わりを強く感じてきますが、学校で税について深く学ぶ機会は無いので、自分たちがディベートを通じて学習したことを分かりやすく子どもたちに伝えていきたいと思います」と話した。
学生らは10月下旬のディベート発表に向け、さらに資料収集や論点整理を行い、租税に関する知識や理解を深め、ディベート発表後は、12月に予定されている小学校での「租税教室」実施に向け、シナリオや教材等の検討・準備を進めていく。
文・カメラ(Y.Y)2020.10.13