●第99回全国高校サッカー選手権 決勝
~山梨学院高が青森山田高との激闘を制し2回目の優勝~
~守護神・熊倉が魂のPKセーブ、3962校の頂点へ~
第99回全国高校サッカー選手権大会決勝が1月11日に行われ、11大会ぶりの選手権制覇を目指す山梨学院高は埼玉スタジアム2002で青森県代表の青森山田高と対戦した。決勝も完全無観客で行われ、サッカー部員や代表生徒は山梨からパブリックビューイングで戦況を見守った。試合は、立ち上がりから青森山田が押し気味に試合を進めたが、前半12分、MF廣澤灯喜のミドルシュートで山学が先制。11年前を彷彿とさせるゴールでPV会場は歓喜に沸いた。1対0で折り返した後半は、青森山田がさらに攻勢を強め、12分にセットプレーの混戦から同点に追いつくと18分には、右サイドを崩し青森山田が逆転。一方の山学は、33分にFW野田武瑠のゴールで試合を振り出しに戻す。試合は延長戦に突入したが、両校決定機を活かせず、勝負の行方はPK戦に。山学は守護神・熊倉匠が魂のセーブでPK戦を4対2で制し、第88大会以来2回目の選手権制覇、3回目の日本一を果たした。PV会場は感動の渦に包まれ、激闘を制した選手たちに温かい拍手が送られた。
全国制覇まであと1勝。山梨学院は、1回戦・米子北高に1対0、2回戦・鹿島学園高に1対0、3回戦・藤枝明誠高に1対1からPK戦サドンデスの末勝利。準々決勝では、Jリーグ内定選手4人を擁する昌平高と対戦し、ハードワークとハイプレッシャーで相手を圧倒し、1対0。準決勝では、帝京長岡高に2対2からPK戦で勝利し、11大会ぶりの決勝に進出した。対する青森山田高は24年連続26回目の出場で、今季はスーパープリンスリーグ東北優勝、過去には選手権優勝2回・準優勝2回、総体優勝1回を誇る強豪。初戦・2回戦は広島皆実高に2対0、3回戦を帝京大可児高に4対2、準々決勝では堀越高に4対0、準決勝では矢板中央高に5対0といずれも複数得点で勝利を収め、決勝まで駒を進めた。11年前の第88回大会では、両校決勝で対戦し、その際は、山学が碓井鉄平主将(現・カターレ富山)のゴールで1対0で勝ち切り、初出場初優勝を決めた。準決勝に引き続き、決勝も登録外のサッカー部員、生徒会、応援団、チアリーダー部、吹奏楽部の代表生徒によるPVを実施し、約160人が山梨からエールを送った。全国制覇・3つ目の星獲得まであと1勝、山学イレブンは、山梨で応援する仲間の想いも背負い、最後の試合に臨んだ。
第99回全国高校サッカー選手権大会 決勝 ≪山梨学院高VS青森山田高≫ 2021.1.11 会場:埼玉スタジアム2002 |
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〇 山梨学院高校2 | 前半 1−0 後半 1−2 延前 0−0 延後 0−0 PK 4−2 |
2 青森山田高校 ● |
山学得点者:廣澤灯喜、野田武瑠 |
■山学が11年前と早い時間に先制に成功
前半立ち上がりから青森山田が押し気味に試合を進め、6分には、左サイドを抜け出しシュートを打つが、山学GK熊倉匠(3年 FC東京U-15深川)が右足でファインセーブ。山学は厳しいプレスや強度の高い守備で、相手の攻撃の芽を摘み、虎視眈々と守備から攻撃を組み立てる。12分、守備からカウンターを仕掛け、右サイドからボランチ谷口航大(2年 鹿島アントラーズジュニアユース)がドリブルで駆け上がり、中央へグラウンダーのクロスを入れ、これを受けたMF廣澤灯喜(3年 湘南ベルマーレU-15小田原)がペナルティアークからミドルシュートを打ち、ボールはゴール左に吸い込まれ、山学が先制。11年前を彷彿とさせる同じような時間帯での得点にPV会場は歓喜の渦に包まれた。1点を追う青森山田は細かくパスをつなぎ、ショートカウンターで山学ゴールに襲いかかるが、1回戦同様にCB一瀬大寿(3年 VF甲府U-15)・板倉健太(3年 CAアレグレ)が規律性のある守備でディフェンスラインを整え、高さ活かし空中戦を制し、両SBの鈴木剛(3年 クラブ与野)・飯弘壱大(3年 FC多摩)が粘り強い守備を披露。山学は堅守から素早い攻守の切り替えを見せ、セカンドボールを素早く回収し攻撃につなげる。中盤の右MF新井爽太(3年 FC深谷)、左MF廣澤の運動量豊富な両サイドを起点に攻撃を組み立てるが、青森山田のハイプレスやここまで2失点の堅守で追加点を奪えない。一進一退の激しい攻防が繰り広げられる息詰まる展開となったが、山学が1点をリードして1対0で前半を折り返す。
■後半は青森山田が猛攻、2対2の同点に。
後半に入ると青森山田が攻勢を強め、ボール支配率を高めるが、ダブルボランチの谷口・石川隼大(2年 GRANDE.FC)が最終ラインとの距離をつめ、厚い守備で攻撃を凌ぐ。後半12分、ロングスローからのセットプレーの混戦で青森山田のシュートを1度は山学GK熊倉が防いだものの、こぼれ球を押し込まれ、試合は振り出しに。18分には、サイドチェンジから空いたスペースの右サイドを突破され、グランダーのクロスを合わされ逆転を許す。19分、同点に追いつきたい山学は、1先制を決めたMF廣澤に替え、決定力の高い山口丈善(3年 三菱養和SC調布ジュニアユース)を投入。25分には、山学はダブルボランチの一角のMF石川とツートップの一角の久保壮輝(3年 FC.GIUSTI世田谷)に替え、FW笹沼航紀(3年 FC東京U-15深川)・茂木秀人イファイン(2年 FC東京U-15深川)の2枚替で前線を強化。33分、この交代が功を奏し、FKの素早いリスタートからFW笹沼が縦へと早いスルーパスを入れ、途中出場のMF山口が反応し、相手GKとDFを引き付け、こぼれた所をFW野田が押し込み、山学が同点に追いつく。同点になったものの試合の主導権は依然と青森山田が握り、後半終了間際まで山学ゴールに襲いかかるが、山学守備陣が耐え、GK熊倉のビックセーブも飛び出し、試合は10分ハーフの延長戦に。
■勝負の行方は延長、PK戦に。
延長に入っても青森山田の攻撃力が衰えず、山学イレブンは体を張ってゴールを死守。山学は最後まで集中力高くゴールを守り切り、勝負の行方はPK戦に。先攻は青森山田。両校1人づつ成功させた2人目。ここで守護神・熊倉が魂のセーブを見せる。相手のキックに見事反応し、左へ飛び両手でブロック。山学は2人目のCB板倉が成功させ2対1に。両校3人目を成功させた4人目、青森山田は失敗し、山学・MF谷口は落ち着いてゴール中央へ決め、試合終了。PK戦4対2で最後の激闘を制し、11年ぶり2回目の選手権制覇を果たした。決勝での青森山田のシュートは24本、対する山学は7本。圧倒的な攻撃力を守護神・熊倉を中心とした堅守で防ぎ、3962校の頂点に立ち、総体と合わせ通算3回目の日本一となった。なお、今大会の優秀選手には、山学からはGK熊倉匠、DF一瀬大寿、板倉健太、MF谷口航大、新井爽太、FW野田武瑠、久保壮輝の7名が選出された。
優勝監督インタビューで長谷川大監督は「非常に厳しい戦いになって選手が本当に頑張ってくれたと思います。優勝の実感はまだ湧きませんが、彼らが本当に頑張った1年だったのでこれが報われて本当に良かったと思っています。大声援を学校から送っていただいて、ここに来ていない3年生の顔が見えて、本当に頑張らなきゃいけないと思い、体が動いたと思います。本当にありがとうございました」と話し、優勝キャプテンインタビューでGK熊倉匠主将は「(優勝は)本当に嬉しいです。きょう2失点してしまって、自分の中で何もやっていなかったので、最後にチームを救うことに自分が貢献できて良かったです」と喜びを語った。決勝も最前列で選手たちを見守ったサッカー部の応援リーダーの天沼優聖選手(3年)は「コロナで行動制限があり、苦しい1年でしたが、やっと報われたなと感じています。自分たちのサッカーの代名詞である守備がしっかり発揮でき、勝利につながったと思います。応援する側も全力で応援し、サッカー部として一つになったことが優勝につながりました。これまで一緒にやってきた仲間が優勝してくれたので、嬉しい気持ちでいっぱいです」と話し、日本一を勝ち取った仲間を思いやった。準決勝同様に祈るような気持ちで試合を見つめていた応援団の芦川奈々恵団長(3年)は「一人一人が悔いのないプレーをしていて、同じ山梨学院の生徒としてとても誇らしい気持ちです。どちらが勝つか分からない状況だったので山梨から祈るのみでした。声を出せない中、ガンバレと心の中で叫びながらずっと応援していました。山梨学院を背負って誇らしいプレーをしてくれたのでとても格好良かったです」と語り、チアリーダー部の土橋マリア部長(3年)は「直接現地で応援を届けたかったですが、学校で応援することはできたので、精一杯やれることはやろうと決め、応援に臨みました。危ないシーンは何度かあったのですが、普段のサッカー部の人たちを見ていたので絶対に勝ってくれるという思いで期待して見ていました。優勝の瞬間はチアリーダー部として3年間頑張ってやってきて良かったと心の底から思いました。クラスメートも得点を決めたりしたので、戻ってきたらお疲れ様、おめでとうと声を掛けてあげたいです」と同じ学び舎で学ぶ仲間たちを称えた。
全国制覇の証、3つ目の星獲得を目指し臨んだ今大会。山学は、選手層の厚さを活かし、選手個々が与えられた役割を全うし、それぞれの選手が輝きを放ち、全国のピッチを駆け回った。奇しくも11年前と同じ、1月11日の全国制覇。ただ、前回と異なり、今大会は、感染対策として仲間たちはスタンドやPV会場から静かに選手に思いを届けた。離れていても、声援は出せなくても思いは届く、まさにそれを体現した優勝劇。コロナ禍の混沌とした日常の中、山学の選手権優勝は、獲得した3つ目の星の輝きのごとく、山梨を元気づける一筋の光明となるだろう。
文(Y.Y)、写真(平川大雪)2021.1.11