山梨学院広報課

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●山学大でヨルダンのシリア難民について映画上映
~ヨルダン大使館協力による国際交流イベント~
~シリア難民のキャンプ生活の実態を知る~  

山梨学院大は4月16日、ヨルダンのシリア難民についてのドキュメンタリー映画「Tiny Souls」の上映会・フリートークが行われた。山学大国際交流センターが在日ヨルダン大使館の協力で開催。国際交流センターの取り組みの一つとして2019年から世界各地の大使などを招き講演会や国際交流イベントを実施。国際共修の実践を通じて学生たちに異なる文化を持つ様々な国への視野を広げてもらう試みとして行っている。今回上映する映画は北海道ほどの面積の中東ヨルダンが周辺の紛争当事国から逃れてきた難民を積極的に受け入れている難民キャンプの実態を紹介するもの。上映前に挨拶に立ったリーナ・アンナ―プ駐日ヨルダン大使は「私の国ヨルダンが関わっている非常に重要な人道的問題を皆さんと共有する機会を与えてくれたことに感謝しています」と述べ、さらに「本日のイベントは、現在世界が直面している最も差し迫った問題であり、世界中で紛争などによって強制的に故郷を追われている7,900万人の人々の苦しみに光を与えるものです」と上映会の目的を語った。大使は他にもヨルダンが置かれている詳細な現状説明とシリアの紛争から逃れてきたある難民家族の子どもたちの生活を中心に淡々と描かれた映画から集まった学生、教職員約50人は、難民生活の辛さや彼らを受け入れるヨルダンが直面する財政負担や経済への影響など厳しい現実を感じていた。上映後、大使と参加者による質疑応答が行われた。

■中東ヨルダンとはー
今回、国際交流の対象になったヨルダンは、1954年日本と国交を樹立。1974年には双方に大使館を設置した。皇室・王室という間柄から伝統的な友好関係を築き、これまで技術的・経済的援助などさまざまな支援を通して極めて良好な関係を築いている。さらに武道・日本食・伝統芸能・アニメを中心に日本文化への関心の高さから文化事業の交流などを積極的に展開している。ヨルダンは中東に位置し、王家が君主を務める立憲君主制国家で現在イスラム教徒が90%以上を占め、言語はアラビア語である。面積は日本の約4分の1、北海道とほぼ同じ大きさで人口はおよそ1,000万人。周囲をイスラエル、パレスチナ、サウジアラビアやイラク、シリアの紛争当事国に囲まれている。外交的にはアラブ、イスラム諸国と友好関係を築いており国内的にも治安は安定している。主たる産業はほとんどなく、ぺトラ遺跡などの観光資源を活かした観光産業に力を入れている。しかし、中東戦争やイラク戦争、シリア危機などにより隣国からの移民が多く流入し、人口はここ20年で2倍に膨れ上がった。総人口に占める難民は約350万人に上り、特にシリア難民66万人以上を受け入れた。ヨルダン政府はこれまで難民を自国民と同じように扱ってきたが、これに伴い経済、財政状況が悪化し大きな課題となっている。

■上映会イベントの開催の経緯―
今回の国際交流の懸け橋になった村上昂音・国際交流センター副主幹は「国際交流センターは2019年から各国の大使を招いての講演会や国際交流イベントを開催しています。初めにネパール、コソボ、昨年にはロシア、ケニアと。今回は中東のヨルダンから映画と写真展。学生にとっては難民というのは遠い存在なのでより身近に感じていただけると思います。そして視野を広げて世界は日本だけではない様々な国の人がいろいろな思いで生きているということを広く知ってもらいたい」と趣旨を述べた。また、「このイベント自体は昨年の12月、すでに甲府市の図書館で一般市民向けに上映会を行ったのですが、参加者の年齢層が高かったのでこのような素晴らしい映画と写真展をぜひ若い学生たちに見せられればと、私たち国際交流センターがヨルダン大使館に直接アプローチして開催を実現できたものです」と開催の経緯を話した。

■山学国際交流センター、在日ヨルダン大使館主催者挨拶―
4月16日、ヨルダンのシリア難民について取り上げたドキュメンタリー映画上映会が山梨学院大学キャンパスセンター2F・シーズシアターで開催された。新型コロナ感染防止のため50人の参加者に限定された会場には、難民問題に関心のある学生、教職員が集まった。上映に先立って秋田辰巳国際担当学長代理は「本国駐在のヨルダン駐日リーナ・アンナ―プ大使を山梨学院大学にお招きできたことは大変光栄なことと存じます。ご存知のようにザータリ難民キャンプはシリア難民のキャンプとしては世界最大の規模です。一国が多くの難民を受け入れることは容易ではないと思います。しかしヨルダンの深い慈愛と寛容な心を持つ国家であるがゆえに難民は独歩の地で生活する場所と時間とそして活力を手に入れることができました。17世紀のイギリスの詩人ジョージ・ハーバードは言いました。『私たちは地球の反対側でどんな生活をしているのか知らない。今日地球の反対側の世界に目を、心を開きましょう。今日ヨルダンについて理解を深めましょう。そして今日世界の平和と地球という家族の幸せの歩みを進めましょう。』」と挨拶。続いてヨルダン駐日リーナ・アンナ―プ大使は「ヨルダンは比較的国土の小さい国です。数十年にわたり助けを必要としている隣人に愛と思いやりを与えきたヨルダンを私は大きな心を持つ小さな国だと思っています。ヨルダンは難民受け入れ国として非常に大きな負担を背負っています。シリア難民の流入が自然、物理的資源にも大きな負担を掛けています。このような状況にもかかわらず、思いやりと人道主義の伝統を守りながら難民問題に正面から対処しています。私たちは難民を助けたいと思っています。困っている人たちに必要なサービスを提供したいと考えています。しかし、自分たちだけではできません。世界は一丸となって、この大きな責任を背負わなければなりません」と語り掛けた。

■シリア難民を知るドキュメンタリー映画上映
ヨルダン人のディナ・ ナセル監督による「Tiny Souls」が上映された。映画はシリア国境から数キロしか離れていないヨルダン北部の8万人が暮らす(ヨルダン第4の都市に匹敵)世界最大のシリア難民ザータリキャンプのテントが延々と並ぶカットから始まる。シリア内紛で逃れてきたシリア難民のある家族の厳しい生活ぶりが子どもたちのインタビューを中心に淡々と描かれていく。笑顔で答える少女の言葉の端々に不自由な生活の苦悩が滲む。画面に見入る参加者はヨルダンに逃れてきたシリア難民生活者と手を差し伸べるヨルダン政府の苦しい現状に厳しい表情で思いを巡らしていた。上映後、ヨルダン駐日リーナ・アンナ―プ大使はフリートークのやり取りで「最後に皆さんに考えてもらいたいのは、世界中には8,000万人の人が家を失っている人がいます。その内難民と言われている人たちは2,600万人。今日皆さんにしてほしいと思っているのことは一人ひとりはこういった状況の中で何ができるかを考えてほしい。それは皆で話し合うことでもあるでしょうし、もしくは気付きという意味で気付きを高めていくという方法でもあると思います。今日この時点でこれだけの人がこういった暮らしをしていることを心において考えて自分の問題として考えてほしい」と参加者に真摯に訴えかけた。

上映会終了後、参加した真剣な眼差しで画面を見据えていた川西沙耶さん( iCLA=国際リベラルアーツ学部1年)は「iCLAの授業の一環で先生に進められ参加しました。世界史を学んでいたときにヨルダンという国は、パレスチナ問題を含め知っていたんですけど、改めてこういう会に参加して、私よりも年齢の小さい子どもが自分から難民キャンプに行きたいと言っていたのがすごく衝撃的でした。実際この映像を見る前はあまり関心がなかったのですがこのようなリアルな映像を見てすごく心を動かされたというか、何か難民の人たちに手助けできることがあれば」と話した。柳沢唯人さん(同)は「自分は国際リベラルアーツ部なので国際関係のことに興味があり、ヨルダンと日本の関係について知りたいと思って参加しました。ヨルダンの難民の受け入れの体制はすごいなと思ったし、日本は極端に小数(難民)しか受け入れていないそうですけど日本で自分ができることがあれば少しでも役に立ちたいと思いました。将来は通訳を目指しているんですけど、そういう仕事で行けたら実際に目で確かめてみたい」と今まさに続いている難民キャンプの姿を心に刻み付けた。

今回の上映会は、鑑賞したすべての者に改めて鮮烈な問題を投げ掛けたに違いない。映画でのナレーションの中で「キャンプには戦争は存在しないが平和もない。そして希望もない」という言葉が印象に残った。笑顔に隠された子どもたちの「シリアに戻りたい」という強い気持ち。生きる希望をこの子どもたちに捧げると映画は締めくくっている。

文(K.F) カメラ(平川大雪) 2021.4.16