●カカオ成分の脂肪酸トリプタミドが寿命延長に期待
~山学短大・萱嶋教授らの共同研究グループが発見~
~同酵素は老化抑制や肥満、糖尿病予防などにも効果~
山梨学院短期大学食物栄養科の萱嶋泰成教授と東京工科大学応用生物学部の今井伸二郎教授、株式会社明治らの研究グループは、カカオ種子に含まれる成分「脂肪酸トリプタミド」が、生命維持に重要な酵素であるサーチュインを特異的に活性化することを発見した。老化や肥満抑制に関与する分子としてサーチュインが知られているが、萱嶋教授と今井教授らはこれまでの研究において、穀物外皮に存在する成分が、この酵素を活性化する知見を得ており、伝統的に長寿食とされているカカオに着目し研究を開始。その結果、カカオ種子に多く含まれるサーチュインを活性化する長寿成分が「脂肪酸トリプタミド」であることを確認。この成分をショウジョウバエに食べさせたところ、通常食に比べ平均寿命が4日 (14%) 程度増加することが確認された(これをヒトに当てはめると日本人の平均男性の平均寿命81.6歳 が93.0歳に延長したことに相当)。同酵素は、老化抑制や肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの予防にも効果があるとされている。
【研究背景】
わが国の平均寿命は年々伸び超高齢社会が進む一方、寝たきりや認知症患者の増加など必ずしも健康寿命が延伸していないのが実態となっている。健康寿命の延伸は喫緊の課題となっており、高齢者の健康維持・疾病予防等を実現する技術の開発が期待されている。こうした背景から、萱嶋泰成教授と今井教授らは老化を抑制し、肥満を代表とするメタボリックシンドロームに有効な機能性食品の開発に取り組んできた。
【研究成果】
老化や肥満抑制に関与する分子としてサーチュインという酵素が知られており、この酵素は、細胞の維持や増殖に関与するアセチル化タンパク質のアセチル基を取り除く働きをし、この酵素を活性化することで、寿命の延長や肥満抑制につながるとされている。萱嶋教授と今井教授らはこれまでの研究において、穀物外皮に存在する成分が、この酵素を活性化する知見を得ていたことから、伝統的に長寿食とされているカカオ (Theobroma cacao) に着目し研究を開始。その結果、カカオ種子に多く含まれるサーチュインを活性化する長寿成分が「脂肪酸トリプタミド」であることが確認された。この成分をショウジョウバエに食べさせたところ、通常食に比べ平均寿命が4日 (14%) 程度増加することが確認された。これをヒト(日本人男性の平均寿命)に当てはめると81.6歳が93.0歳に延長したことに相当する。同研究グループでは、ぶどう種子に含まれる成分「レスベラトロール」でもショウジョウバエの寿命の延長効果を確認しており、脂肪酸トリプタミドの方がより強い効果を示した。
【社会的・学術的なポイント】
カカオにはさまざまな有効成分が含まれており、代謝性疾患の予防食として期待されているほか、定期的なカカオ摂取は健康寿命を延ばすと長らく考えられきた。一方でその直接的な成分などについての知見は得られていなかった。また、チョコレートやココアに含まれるカカオポリフェノールは、活性酸素を抑制し、生活習慣病に有効であるとの報告が多くあるほか、コレステロール値の改善や血圧低下および血管内皮機能の改善、心疾患リスクの低減、インスリン抵抗性の改善といった多岐にわたる臨床試験結果が得られている。今回の発見は、カカオの継続的摂取が寿命の延長と同時にこれら生活習慣病を予防し、健康寿命の延伸に繋がる可能性を示したものと言える。また、特定成分である「脂肪酸トリプタミド」がサーチュインを活性化し、ハエの寿命延長を確認した世界で初めての研究であり、学術的にも意義深いと考えられる
なお、本研究成果は、英国Nature系の科学誌「Scientific Reports」オンライン版において、2022年7月15日に掲載された。
■本研究に関するプレスリリース
記事提供(山学短大・萱嶋泰成教授)、構成(Y.Y)2022.8.5