●明治杯全日本選抜レスリング選手権 総集
~現役男子70㎏級青柳、OB乙黒世界選手権内定~
~山学関係出場19人中12人が5位までの上位に~
2023年度「明治杯全日本選抜レスリング選手権大会」が6月15日~18日までの4日間、東京体育館で熱戦が繰り広げられた。この大会は9月にセルビア・ベオグラードで開催される世界選手権日本代表選考会を兼ねており、各階級の全日本ランキング上位選手によって競われる日本一決定戦。昨年暮れの天皇杯全日本選手権で優勝した選手がこの大会で優勝すれば代表に選出される。山梨学院大からはフリースタイルに9人、OB4人、グレコローマンスタイル1人、女子には5人がエントリーした。その結果、山梨学院関係で世界選手権出場を内定した選手は、現役の男子フリースタイル(FS)70㎏級・青柳善の輔(4年)、OBでは男子FS65㎏級の乙黒拓斗(自衛隊)が2018年以来の世界選手権出場の切符を掴んだ。また、女子FS76㎏級2位の茂呂綾乃(1年)は、まだ出場の可能性のあるプレーオフに進んだ。他に昨年の世界選手権出場者の女子65㎏級・寺本鈴(3年)は2位となり惜しくも出場を逃した。3位5位決定戦に回り3位になった選手は、2021年世界選手権出場実績を持つ男子FS74㎏級佐藤匡紀(4年)ほか5人、また、5位には女子50㎏級・小幡未羽(1年)ほか男子3人となり、エントリー19人中12人が上位に入った。これ以外にも本来の力が出し切れなかった選手もいたが、この大会を機に2024年のパリ五輪を目指す山梨学院関係選手の飛躍が期待される。
明治杯全日本選抜選手権は、前年12月行われる天皇杯全日本選手権、本大会ベスト8位以内選手や国内有力大会の上位選手など資格大会の推薦を満たした者、強化委員会による推薦選手などが日本一を目指して争われる。2022年12月の天皇杯全日本選手権1位の選手が今大会で優勝すれば、世界選手権の代表に決定。他の選手が優勝すれば、2人の優勝者によってプレーオフが行われ、勝った選手が代表へ選出され、今年9月にセルビアで開催される世界選手権で3位以内に入れば2024年パリ・オリンピックの代表に内定する。
大会はフリースタイル(FS)、男子10,女子10階級で行われ、その内オリンピック実施階級は男女とも6階級。非実施階級は男女各4階級で、グレコローマンスタイル(GR)は男子のみ実施階級6,非階級4となっている。世界選手権ではすべての階級が実施される。今大会の試合運営はオリンピック実施階級は予備選から準決勝までを当日に、翌日に敗者復活戦、順位決定戦、決勝戦が行われた。非実施階級は予備選から決勝戦まで当日に実施された。
■《6月15日 大会1日目 13階級(OP階級8、非階級4)》
※OP階級:オリンピックに採用されている階級
大会初日、OP階級の男子FS86㎏級に出場した五十嵐は1回戦を第2P(ピリオド)で逆転勝ちしたが準々決勝で優勝候補の高谷惣亮にフォール(F)負けを喫した。翌日、3位5位順位決定戦に進み、東日本リーグ戦でも接戦を演じた日体大選手にこの試合でも接戦、逆転勝ちを収め3位となった。同級に出場したOB大津拓馬は1回戦負け、山梨学院から唯一グレコローマンスタイル(GR)に出場したOP階級の男子130㎏級・山田康瑛(3年)は3回戦を1-1のラストポイントで勝利。翌日の順位決定戦で3位を確定した。女子は非階級のFS65㎏級寺本鈴(3年)は2022年度世界選手権に出場した実力者。2大会連続出場を目指し決勝に進んだが、天皇杯1位のライバル吉武まひろ(日体大)に敗れ世界選手権出場権を逃がした。他に女子FS55㎏級に出場した澤田美侑(1年)、丸未永海(1年)はともに1回戦敗退した。
■《6月16日 2日目 8階級(OP階級6、非階級2)と前日OP8階級》
OP階級の男子FS74㎏級でシード3にランキングされた鈴木大樹(3年)は期待されるも1回戦敗退。2021年世界選手権に出場した佐藤匡記(4年)は1回戦、2回戦に接戦を制するも、準々決勝で優勝候補の高谷大地(自衛隊)に10-5で敗れ翌日の3位5位決定戦に回り、TFで勝利し3位を確定した。同級OBの木下貴輪は毎年優勝候補に挙げられるがいまだ世界選手権の出場が無く昨年の天皇杯、明治杯とも2位となりあと一歩のところで世界選手権出場を逃した。この大会に懸ける思いは強く、優勝しプレーオフに持ち込み世界選手権の切符を入れようと試合に臨んだ。2回戦準々決勝から登場した木下はポイントを重ね終了間際にテクニカルフォール(TF)で勝利し、準決勝では1-3のロースコアで敗れ今年も世界切符を逃した。3位5位決定戦に回り今年は悔しい3位となった。また、OP階級の男子FS57㎏級では上位を期待された小野正之助(2年)が棄権。もう一人の塚岡達也(4年)が1回戦に勝利し、2回戦にリオ五輪銀メダリスト樋口黎にTFで敗れるも敗者復活で3位5位決定戦に回ったが敗れ5位となった。昨年、天皇杯3位の同級のOB榊流斗は階級を下げて臨んだ1回戦で4-4の同点も、ラストポイントで敗退した。※ラストポイント=最終的に同点に追いついた選手が勝利者になる。
■《6月17日 3日目 7階級(OP階級4、非階級3)と前日のOP6階級》
昨年の天皇杯全日本選手権優勝者FS70㎏級(非実施階級)青柳善の輔(4年)は初の世界選手権を期待されマットに上がった。初戦の準々決勝では同門の冨山悠真(2年)を4-0で破り、準決勝では大技を決めるなど順当に勝ち進んだ。決勝戦は好敵手と目される2022年度全日本学生王者・渡邊慶二(日大)と対戦。いつも以上に気迫が入った動きで相手を寄せ付けず、悲願の世界選手権の切符を手にした。試合後の共同インタビューで青柳善の輔選手は「絶対優勝したいという気持ちで挑んでいたのですごくうれしいです。去年、世界選手権に帯同させていただいてそこから同じ階級の選手の成國大志さん(2022年世界選手権王者)が優勝したことに憧れて、どうしても世界選手権に来年は出たいと身体づくりや練習の強度も上げ、きつかったんですけどそれが勝利につながった」と目標の実現に喜んだ。青柳と対戦した冨山悠真は3位5位決定戦で敗れ5位となった。この日、初めに登場したOP階級男子FS65㎏級の荻野海志(2年)は1回戦をFフォール勝ちを収め、2回戦準々決勝で東京オリンピック金メダルのOB乙黒拓斗と対戦、攻守にまさる乙黒に対して堂々と渡り合い善戦するも0-2敗れた。翌日の3位決定戦に回るも、敗れ5位で大会を終えた。OBの乙黒はその後、準決勝で激しい攻防の中、右足甲を負傷。痛みをこらえて何とか辛勝したが翌日の決勝戦出場が危ぶまれた。OP階級の女子76㎏級茂呂綾乃(2年)も世界選手権に近い存在として注目を浴びる。茂呂は当時高校3年生で昨年の天皇杯全日本選手権の覇者となり、昨日の予選で昨年の世界選手権代表3位の強豪鏡優翔(東洋大)と対戦するも惜敗。予選を2位で通過し、決勝トーナメントに進出した。準決勝では22年U23世界選手権3位のベテラン松雪泰葉をTFで下し決勝に進出した。決勝では再び鏡と対戦。リベンジを果たし世界選手権の出場権を獲得すべく臨んだ一戦は、緊張からか消極的ポイントを奪われ0-1とリードされ、第2P(ピリオド)序盤で一時同点に追いつくも、その後も攻めきれずに1-2とこの試合も惜敗。7月1日に行われるプレーオフで再び鏡と激突する。インタビューで茂呂綾乃選手は「年齢に関係なくいろんな人に支えてもらっていたのに、勝てばオリンピックがほぼ決まりという試合で自分が一番悔しいですけど、みんなに恩返しができずに情けない試合をしてしまってそれがすごく心残りです」と声を詰まらせて語った。「まだプレーオフがあるのですぐ切り替えて大学帰ったら誰よりも練習して必ず私が世界の代表になってオリンピックに出たいです。出たいじゃなくて出ます!」と前を向いた。女子ではOP階級の50㎏級・小幡未羽(1年)が1回戦をTF勝ち、準々決勝も昨年のこの大会3位の入江ななみ(ミキハウス)をTFで破り、翌日の準決勝では天皇杯、明治杯2位でシード2の強豪吉元玲美那にTF負けを喫し5位となった。
■《6月18日 最終日4日目 非階級2階級と前日OP階級4階級》
最終日、非階級の男子FS61㎏級に出場したのは昨年天皇杯3位森田魁人(3年)と東日本学生選手権1位の深澤颯太(3年)。深澤は1回戦で敗退したが森田は1回戦をTF勝ち、2回戦を2-2の同点にラストポイントで辛くも勝利を挙げ、準決勝に進み、この大会で2人目の高校生王者となった坂本輪に敗れ3位決定戦に進んだ。そこでは手堅く勝利を収め3位を確定した。前日の準決勝で右足甲を痛め試合後、背追われ退場した乙黒は最終日の決勝戦出場を危ぶまれたが、足をかばいながらもマットに上がった。対戦相手は、昨年の天皇杯決勝で乙黒に敗れた安楽龍馬との再戦となった。試合は足を気にしながらもスピードとテクニックに勝る乙黒が安楽を寄せ付けずに9-0で優勝。2018年、日本男子最年少優勝記録を打ち立てた以来の世界選手権出場を内定させた。
今大会で世界選手権内定数はOP実施階級男子はFS6階級、GR2階級、女子は3階級の計11階級。非実施階級は男子FS4階級、GR4階級、女子は4階級、計12階級が内定した。プレーオフは男子GR4階級、女子3階級で行われる。
文(K.F)カメラ(平川大雪)2023.6.19