●山学大生が甲府市議会へ政策提言発表会
~初の甲府市議会で市が抱える課題解決策を提言~
~若者目線で練り上げた提言が市議の耳目を集めた~
山梨学院大学が2008年、全国に先駆けて地方議会改革の一環として昭和町議会と連携協定を締結した。一方で、甲府市とは包括連携により本学は近年様々な活動をしてきたが、甲府市との協働の機会がなかった。一年前に「学生による政策提言発表会」を同議会に秋田辰巳学長代理が提案したところ快諾を得られ、1月29日に甲府市議会議場ではじめての実施となった。大学側から法学部法学科・片田興ゼミ、同・外川伸一ゼミの計34人(全員法学部法学科3年)が参加。4グループに分かれ甲府市議会議員27人(出席者)を前に政策提言を発表した。提言内容は、甲府市の活性化や市民サービスの充実などにつながる「甲府市における人口減少対策」、「甲府市における公共交通政策」、「県都・甲府市の観光活性化策」、「市立甲府病院の課題と取組 ~経営財政分析の観点から~」の4項目。学生たちは現在、甲府市が抱える課題や将来を見据えた中長期改善策を約6ヶ月の限られた期間内に調査・研究を重ね練り上げた政策提言を作り上げた。若い感性と柔軟の発想の提言に議員は真剣に耳を傾け、学生との質疑応答では活発な質問が出され、学生のアイディアに真摯に向き合っていた。これらの提言は今後の市政運営の参考として検討されていくとした。
■主催者代表挨拶
今回初めてとなる甲府市議会議場において「政策提言発表会」が開かれた。
午後1時30分、「政策提言発表会」は初めに甲府市議会・長沼達彦議長が挨拶。「昨年3月に山梨学院大学からお話をいただき、甲府市議会といたしても令和3年に制定した議会基本条例に広聴機能の充実や市民意見を起点とした政策立案を規定しており皆様から政策提言をいただくことは今後、市議会が政策立案を進めていくうえで有意義であるという思いから開催することになりました。4つのテーマを拝見しますと、どのテーマも甲府市にとりまして非常に重要課題であり若い世代の学生の皆様の視点からどのような政策提言が発表されるのか興味とともに大きな期待を寄せています」と述べ、続けて山梨学院大学秋田辰巳学長代理は「発表には学生ならではの視点や価値観が多分に反映されています。この日のため、学生たちは1年を掛けて熱心に課題に取り組んでまいりました。中国の孟子は『善政を行えば民は富を得る。善教を行えば民は良い心を得る』と言いました。今日は、善政と善教が交わる絶好の機会と理解しております。本日の提言が今後の甲府市政運営と発展のため、そして甲府市民の豊かな生活のためご活用いただけると幸いです」と述べた。
■各ゼミ4チームの政策提言発表 (持ち時間各25分・質疑応答10分)
◆第1提言 「甲府市における人口減少対策に関する提言」(外川ゼミA 11人)
❖発表ではまず、チームリーダーの西山洸司郎さんが若者(学生)の県外流失、結婚数の低下、雇用による人口減阻止の3つの政策提案項目を提示し、続けて、「現在、大きな社会問題として挙げられる人口減少問題に注目。少しでもこの問題解決ができないかと考えました」と政策提言の趣旨を説明した。続けてチームメンバーがスライドを使い人口減少の現状と問題についてピーク時、昨年の数値と比較し、これからもこのままでは減少傾向が推測されると予想。その要因に県内に魅力的な企業が少ないための働き手(20歳~25歳)の流失と、それに関連して結婚数低下の原因、雇用の問題の現状を分析。それに対する対策を奨学金制度の充実や結婚については、行政による安全なマッチングアプリ作成、甲府市の特徴を生かした企業誘致に向けた基盤整備の拡大など、課題の重要性や解決への論拠を提示説明した。
❖発表後、甲府市出身の西山洸司郎さんはこのテーマを挙げたことに「この提案をしようという時に丁度、甲府市で人口減少の政令みたいのが出ていたので、重要なことで自分たちも考えていかなければいけないのかな」と深刻な問題として受け止めた。提言の一つ、結婚数の低下について「マッチングアプリに関しては世代間の価値観の違う視点で考えることは難しいことでありましたし、全国で同じ悩みを抱えているので甲府市で提案するとしたらどのように持っていったらいいのか悩みました。だからこそ企業誘致として甲府市の魅力を伝えることなどに工夫をした」と社会問題になっているテーマに果敢に挑んだ
◆第2提言「甲府市における公共交通政策に関する提言」(片田ゼミA 7人)
❖このチームは、甲府市の地域公共交通の現状と課題として①バスの運転手の不足、②バス利用者の回復、③タクシーの運転手、事業者の減少の3つを挙げた。その理由として、交通弱者(高齢者や車のない人)の増加。訪日外国人の増加。事業者の減少、高齢化によるバス・タクシーの運転手不足が原因として政策を考えた。その対策として、デマンド交通の推進については、現在運航中の宮本・能泉地区、上九一色・中道地区の運行実績や他県の先進例を挙げ、甲府市の取り組みとして範囲を広げた実証実験の推進などを提言。免許返納推進(特典付き)では、山梨県の取り組みで行っている特典付きの充実や安価な専用年間パスポートの提供、ライドシェアの運行では先進例を多く参考にしてメリット、デメリットを拾い出し分析、検証した。
❖チームリーダーの中沢孝太郎さんは議場での発表について「議員さんが思ったよりたくさんいたのでプレッシャーも感じましたが練習通り発表できたので良かった」。このテーマについては「私が笛吹市出身で笛吹市ではデマンド交通のルートがあって、私の母が怪我をしたときに利用して助かったので甲府市でもあったらもっと便利になるのではないか」と決めた。発表後の手応えは「最初、質問になかなか手が上がらなかったので、あまり刺さら(心に響く)なかったのかと思ったんですけど、その後いろんな視点から質問してくださったので、しっかり聞いて活かしてくれたら」と話し、「こういう場でみんな話す機会はないのでいい経験ができた」と貴重な体験が終わり安堵の表情を見せた。
◆第3提言「県都・甲府市の観光活性化策に関する提言」(外川ゼミB 8人)
❖高添 遥さんリーダーのは初めに観光客対象を10代後半から30代を想定した政策提言ポイントを示した。統計では山梨県、甲府市ともこの年代は全体の2割程度で若者の観光客の増加が必要と考えた。そこで施策としてグラフを示しながら各地の観光地検索でユーチューブ、SNSなどの利用率が高いことを示し、甲府市へのアプローチが低いことから利用率を上げることが重要とした。他に甲府市には観光資源が多くあることからも魅力あるイベントをつくるべきで、低価格で情報を広げ、広告効果が期待されるハッシュタグの活用、リピーター率を上げるクーポンやポイントの付与、夜の飲食店が多い甲府の中心商店街で昼時の食べ歩き体験を他県の先進事例を示しながら紹介。また、甲府南エリアでの音楽フェスの開催で周辺に経済効果があるなど、甲府市の観光活性化に新しい視点から様々な提言を溢れ出させた。
❖発表後、高添 遥さんは「自分たちの視点を活かすことが大事だと思い、今、甲府市がどうやったら若者が増えるのかをチームで考えた政策に自分たちの視線を自由に出せたので、楽しかった」。発表の出来については「良かったです。本当にどこに焦点を当てるのかずっと悩んでいて、1年間取り組んだ中でも半分ぐらいはまとまらない部分が多く、後半になってみんなの意見も、資料もたくさん集めて作ったので、発表できたすべての達成感があの場で放出できたという感じです」と笑顔で答えた。
◆第4提言「市立甲府病院の課題と取組~経営財政分析の観点から~」
(片田ゼミB 8人)
❖まずは問題提起として、星野恭亮さんリーダーのは、経営状況が類似団体と比較して厳しい現状にある。収益性と集客力の低さ。市の財政への影響を大きな課題として取り上げた。そこでチームは4つの同規模類似団体との比較で経営状況の違いを洗い出し、その結果、修正医療収支比率のデータ、病床使用率、入院患者・外来患者の収益データが他の団体の平均値に届かず、職員給与費対医業収益だけが平均値を大きく上回る結果を示した。チームは改善点として人員配置の見直しや業務内容の効率化、医業収益の拡大への取り組みなど、様々な視点から詳細な分析、検証し地域病院としての役割拡大、強みである地域連携による安全・安心感を最大限に活かす市立病院の取り組みをホームページの刷新でPR、利用患者数の増加を見込むなど若者目線の政策提言を行った。
❖星野恭亮さんは立案の難しかったところを「まずは財政面をどこから立て直すかを考えていて、そこだけは何度も集まって考えました」。どのように進めていったのか「経費(人件費を含む)の問題でまずはホームページを作成(充実)して、収益を上げてそこから経費を落としていくことを最終的に決めてそれを軸に発表を進めていった」。議員の反応については「あそこまでの大きな反応をもらえるとは思わなかったので、やりがいのあるテーマでしたので、自分としてもうれしいですし、終わった後もチームメンバーも喜んでいました」と議員の反応の大きさに市政運営の課題に改めて風を吹き込んだ政策提言だった。
甲府市議会議員は学生たちの若い感性の考えと一生懸命に政策づくりに取り組んだ提言に真剣に聞き入りメモを取り。質疑応答には多くの議員が与えられた時間を超過する活発な質問をし、励ましと時に厳しい指摘もあり互いに熱のこもった議論が展開され、実りある政策提言発表会になった。
■お礼の挨拶ー
全ての政策提言が終了後、指導教授代表として片田 興山梨学院大法学部教授は「山梨学院大学では課題型学習で問題を解決していこうという取り組みをゼミナールで行っています。その学びの場がプロセスだけにはなりますけれども、今日は学びの成果に質問をいただいた中で検証してまた、4年生になって学びの改善につなげていく、その大切な場をいただきました。是非、今後も継続的に地域の若い人材を育成して、その学びを振り返って検証できる場として今後もよろしくお願い申し上げます」とお礼の挨拶を述べた。
■閉会の挨拶ー
続いて、長沢達也甲府市議会副議長が閉会の言葉を述べた。「本日、皆さまからいただいた政策提言を私ども市議会といたしましても、よりよい市政運営につながる政策として立案できるように、また市民生活の向上に資するように市議会として努めてまいりたい」と学生らに謝意の言葉とともに発表会を締めた。
全てを終了し控室で、山梨学院大学ローカルガバナンス研究センター(現在、活動休止)に長年携わってきた山梨学院大学・外川伸一法学部客員教授に今回の成果を聞いた。「外川ゼミA・Bの場合は、2年生の時に昭和町議会でも政策提言をしているんですが、基本的には論理的な思考力を養うために行っています。大学でもゼミをPBL(プロブレム・ベースド・ラーニング)方式でやると、これは問題解決技法ですから何か地域に問題があった場合、その問題を自分たちで見つけてその問題に対する解決方法を、今回の場合も政策という形で見つけていこうとやったわけです。2年間やってみて論理的に考える力が確実に伸びている」と学びの成長に手応えを感じていた。
文(K.F) カメラ(平川大雪)2025.1.30