●文部科学大臣賞「第二十六回酒折連歌賞」表彰式
~大賞の金子さん・県知事賞の山学高片桐さんらが表彰される~
~選考委員長が見事な問答が揃ったと高評価~
「満天の星を巡らせ指揮棒止まる」の問いの片歌に「振り向いてベートーヴェンは喝采を知る」と答えの片歌。北海道岩見沢市の金子幸男さん(78歳)の句が「第二十六回酒折連歌賞」の一般の部の大賞・文部科学大臣賞に選ばれた。その表彰式が2月15日、山梨学院広報スタジオで行われた。他に山梨県知事賞の山梨県の片桐帆乃美さん(山梨学院高16歳)、山梨県教育委員会教育長賞・小倉正一(山梨県61歳)、甲府市長賞は内藤春美さん(山梨県62歳)がそれぞれ受賞。小・中・高校生を対象にしたアルテア部門の大賞・文部科学大臣賞は鈴木優依乃さん(埼玉県17歳)の上位5人が選出され、それぞれ表彰状と副賞とともに大賞杯や楯が贈られた。酒折連歌賞は「古事記」に登場する「五七七」の問いに「五七七」で答えを返す問答で『酒折宮』がわが国の連歌発祥の地とされたことにちなんで1998年(平成10年)、山梨学院大学が中心となり創設された。表彰式挨拶で古屋忠彦酒折連歌賞実行委員会代表が受賞者への敬意、選考委員や関係者に謝意を述べ、四半世紀継続してきた酒折連歌賞を次の時代をイメージして発展を願った。歌人の三枝昂之選考委員長は、講評で今年の上位作品は見事な問答が揃ったと作品を評価。それに対して受賞者が作品への思いと喜びの声を述べた。閉式後、記念写真撮影が行われ、その後、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、受賞を報告した。
■酒折連歌賞とはー
わが国の連歌発祥の地とされている『酒折宮』にちなみつくられた酒折連歌賞は、1998年(平成10年)、山梨学院大学が中心となり、多くの人に連歌に興味・関心と創作意欲を持ってもらい連歌の普及、文化の創造や文学の振興、また、生涯学習の推進を図ろうと創設された。五・七・七の問いの片歌に対して答えの片歌五・七・七で返す問答形式のやり取りが連歌の起源といわれ、文学形態上からも珍しく特色があることから伝統を現代に活かそうと始められた。1999年度に応募が始まり、応募数は5回目から3万句を超えるようになり2008年、10回目の節目には5万句を超え、連歌ファンが大幅に増えた。それ以降もコンスタントに3万通を超える数で推移。第26回を迎えた今回は33,645句の応募があった。表彰は、一般部門では大賞の文部科学大臣賞をはじめ、山梨県知事賞、山梨県教育委員会教育長賞、甲府市長賞を設け、また、小・中・高校生を対象に、斬新で若々しく将来楽しみな才能を見出すことを目的としたアルテア部門の最高賞も大賞・文部科学大臣賞が設定されている。表彰式に招かれる上位5人の句のほか、特選10句、優秀賞12句、優良賞54句、アルテア賞特選19句の合計100選が選出された。
■晴れがましい表彰者5人が表彰を受けるー
今回受賞した上位5人、酒折連歌賞実行委員会関係者、選考委員の三枝昂之委員長(歌人)、西村和子氏(俳人)、井上康明氏(俳人)、もり まりこ氏(歌人)、大森静佳(歌人)の5人、西村和子氏(俳人・海外出張のため欠席)。受賞者家族など受賞者関係者、そして報道各社が集まり酒折連歌賞の表彰式が酒折連歌賞実行委員会・細萱和寛事務局課長の司会進行で執り行われた。
❖はじめに主催者代表の古屋忠彦山梨学院特別顧問が酒折連歌賞の創設からこれまでを回顧するとともに続けて「時代が変わっていく僅か四半世紀の世界でありますがそんな頃に始めたものがいまだにこういう形でつながっています。そして、先生方の顔ぶれも変わったけれども、応募数が多いに越したことはありませんが、それを誇るだけでなくまずは中身が豊かなものであることと、歴史を重ねることの大切さ、人口減が続く中で単純に考えると応募する数も少なくなるわけですが、創設当時を考えると関係者の努力でこういう形で続けることができたことを本当にうれしく思います。これからも次の時代をイメージしながら酒折連歌賞が発展していくことに誓いを立てながら今日の表彰式に参りました」と挨拶。
❖引き続き、廣瀬孝嘉酒折連歌賞実行委員長が酒折連歌賞の受賞者にお祝いの言葉を掛け、3万句余りの中から選考した委員、酒折連歌賞を応援してくれた報道機関に謝意を述べた。続けて、今回の酒折連歌賞の応募統計上から見た特長を「文学賞として非常に応募数が多かった。10代の作品が70%を超えていることでこれは学校からの団体応募のおかげ。60代、70代の応募も増加傾向にあり、応募することを楽しみにしていることに心強く思っている。また、本県を筆頭に全国から応募が寄せられていることで、山梨初の文芸が幅広い方々に受け入れられていることは特にうれしく励みになっている」と説明。連歌の魅力については、「酒折連歌は人の心と言葉をつなぐ奥の深い魅力ある文芸であり、四半世紀の活動を積み上げきましたが、こうしたぬくもりの輪をさらにさらに広げていきたいと願っております」と挨拶した。引き続き、今回の受賞者の作品を紹介し、それぞれ受賞者を表彰した。
❖これを受け三枝昂之選考委員長は「いろいろな文芸賞がありますが、酒折連歌賞は一番古い日本の文化を今に再発見をしようという賞でもあって非常に珍しいです。つまり古い形のものを大切にすることが実は新しいということを酒折連歌賞が示しています。今回の問答は実に見事な問答が揃いました」。と受賞した5作品を取り上げて問いと答えの片歌が見事にはまった見事な作品が揃ったと絶賛した。続けて「皆さんがそれぞれの問い片歌にチャレンジしてくださって、素敵な問答が成立したことは選考に携わる人間としては本当に感謝を申し上げたいと思います」と挨拶した。
◆選考委員長の寸評と上位5人の受賞者の喜びの声ー
◆一般の部 大賞・文部科学大臣賞 金子幸男さん(78) 北海道岩見沢市
問いの片歌2
満天の星を巡らせ指揮棒止まる
答えの片歌
振り向いてベートーヴェンは喝采を知る
三枝選考委員長の寸評=「(曲が)終わったあとに会場は拍手の嵐だが彼には聞こえない。そこで振り向いた時にそこで彼はその風景を目で見る。問いのピースと答えのピースがピタッとはまった問答です。これは選考会の時にこれは大賞で仕方がないだろう(場内笑い)」と満場一致の優れた作品と評価した。
寸評の後、受賞の挨拶で大賞を受賞した金子幸男さんは「私は今、早春の酒折の町に来ております。酒折連歌賞の事務局から大賞の内定がありましたが、まだ松飾りが取れない正月でした。今もまだ初夢を見ている気持ちでいます。老いも若きも夢を見たもの勝ち。私はそう思っています。伝統ある酒折連歌賞の大賞を賜り、この賞に恥じぬようにさらに創作を続けて夢を追いかけたいと思っています」と受賞の喜びを述べた。
◆一般部門 山梨県知事賞 片桐帆乃美(16) 山梨県甲府市(山梨学院高1年)
問いの片歌1
笑わないで答えてほしい本当のこと
答えの片歌
モナリザの目の奥にある黒の意味とは
三枝選考委員長の寸評=「これは難しい問いですけど、モナリザの謎の微笑ではなく、眼差しの奥の黒の意味を教えてほしいと受けたところが見事だった」と表現の豊かさを評価。
片桐帆乃美さんは「私は山梨学院小学校1年から授業の一環として酒折連歌賞に取り組んできました。関係者の皆様に感謝を申し上げます。これからも周りに目をこらし、自分の想像で世界を広げ、感性を高めていけたらと思います」。
◆一般部門 山梨県教育委員会教育長賞 小倉正一さん(61) 山梨県都留市
問いの片歌2
大丈夫 霊峰富士の声が聞こえる
答えの片歌
新学期教室の窓まず開けてみる
三枝先生の寸評=「新しい教室に入って誰も知らない場面の中で、まずは窓を開けて新鮮な空気に気持ちを新たに確かめながら、多分遠くには富士山があって、富士山が大丈夫と言ってくれるような。『窓を開けてみる』の答えが見事だった」。
小倉正一さんは「私は高校の教諭をしていて生徒と一緒に挑戦しています。ここ数年は自作の方にも力を入れていて、何度か挑戦しているんですがこのような大きな賞をいただいたのは初めてですので感激しています。一昨年から「酒折連歌の会」に入り、そこで先輩方と一緒に酒折連歌に取り組んでいます。そのことが大きな力になったと思います」。
◆一般部門 甲府市長賞 内藤春美さん(62) 山梨県甲府市
問いの片歌3
イヤホンをはずして月の光浴びる
答えの片歌
ローマでもパリでもなくてここに生まれた
三枝選考委員長の寸評=「とても素敵な問いの片歌にローマでもパリでもなく、お自分が住んで入る月の光こそ本当の月の光だと自然環境の魅力を再発見する答えの片歌で、この国の月の光を愛でる答えの片歌としてとても素晴らしい」。
内藤春美さんは「いつも問いの方を読んでなんて素晴らしいだろうと初めのうちは、自分も出して見て、後で見ると問いに対して自分の作は、なんて恥ずかしいみたいなこともあり、いつもどんな方が作っていらっしゃるんだろうと思っていたんですが、画面越しではなく実際にお会いできて本当に光栄です」。
◆アルテア部門<小・中・高校生対象>
大賞・文部科学大臣賞 鈴木優依乃さん(17) 埼玉県草加市
問いの片歌4
とけてゆく空のかなたに青い風船
答えの片歌
かなしさを込めて折られたひこうきが追う
三枝選考委員長寸評=かなり難しい問いだと思いました。これだけで十分詩的なわけです。これにどのように付け加えるか難しいと思うんですけど、17歳でこんな見事な問答にしたのはすごい」と高評価を与えた。
鈴木優依乃さんは「昨年もアルテア部門で選んでいただき、今回も何かしらで入賞できたらと思っていたところ、まさかこんな大きな賞に選んでいただけるとは思わず、いまだにびっくりしています。先程お褒めの言葉をいただき、この場に立たせていただきとてもうれしく思っています。今後も連歌、短歌、詩などの文芸とともに生きていきたいと思っています」。
閉式後、受賞者は山梨学院大学クリスタルタワー前で記念写真撮影が行われ、連歌発祥の地・酒折宮を参詣し、境内で『連歌の碑』などを見学、その後本殿を参拝し受賞を報告した。
■詳しい選評や入選者100選など詳しいことは酒折連歌賞ホームページを。
文(K.F)カメラ(平川大雪)2025.2.15