書家・熊峰氏が紡ぐ世界に浸る。孔子学院「中国書法作品展」
1本の筆から生まれる漢字の芸術
目から鱗の「奇跡のレッスン」再現

山梨学院大学孔子学院は10月24、25日の両日、「孔子学院の日」を記念したイベントとして中国の著名な書家である熊峰(ゆう・ほう)氏を招いて熊峰『中国書法作品展』を開いた。熊峰氏の作品展示と、中国書法の揮毫(きごう:筆で文字を書く)パフォーマンスの披露や中国書法を体験できるワークショップを開催した。熊峰氏は日中書法協会会長。書を通じた日中友好の懸け橋として長年活動している。孔子学院は毎年、中国への理解を深めてもらおうと学生や教職員、地域住民を対象に「孔子学院の日」を記念したイベントを開いている。学園祭の「樹徳祭」に合わせた催しで、会場の孔子学院棟1階特設展示場は学生をはじめ中国文化に興味を持つ近隣の住民らでにぎわった。
中国との共通点や違いを感じる漢字の奥深さ
開会セレモニーで山学大の青山貴子学長は「孔子学院の樹徳祭に合わせたイベントを毎年楽しみにしています。今年は中国書法です。漢字圏の日本では漢字が非常に身近であり、中国との共通点がある一方で違いも感じ取れます。私も僅かながら中国語を学んでいますが、漢字については新たに学ぶことが多く、そういう意味でも興味深いテーマです。また、書かれた書を見る機会は多いのですが、本日は熊峰先生の実際のパフォーマンスが見られる貴重な機会です。みなさん存分に楽しんでください」とあいさつした。
東アジア特有の書の文化を大切にしたい
熊峰氏は「私は『樹徳観』の思想を唱えた哲学者陸九淵(りくきゅうえん)の故郷・江西省の出身です。(山梨学院大は樹徳祭で)とても不思議なご縁です。中国では漢字を書き表すことを『書法』と言います。日本の書道、韓国の書芸も漢字に対する敬意を芸術にしたもので、東アジア特有の文化。この文化を大切にしたい。山梨には大自然から贈られた『山』があり、山梨学院大という素晴らしい大学があります。ここで私は再出発します。大変感慨深いです」とあいさつ。その上で「語るより『書』が私の様々な思いを表しています。作品をお楽しみください」と話し、中国書法作品展が幕を開けた。
今日この時を、即興で14文字の漢字に表す
作品展は大小さまざまな書が展示された。縦約2.5㍍の掛け軸には、何百という漢字が書き込まれ、見る人を圧倒していた。熊峰氏は通訳を介して作品を説明。来場者からは「これはどういう漢字ですか」などの質問が寄せられ、熊峰氏が丁寧に答えていた。
揮毫パフォーマンスでは、熊峰氏が縦長の紙に「樹徳」という文字をまず象形文字で横書きに書いた。その下に隷書、楷書、行書、草書の順で計5つの書体を書いて違いを見せた。また即興でこの日の雨の天候を「山梨の素晴らしい初冬の風景」として14文字の漢字で雨音や花などを表した。見学者は1本の筆から紡ぎ出される芸術を食い入るように見ていた。
この後、来場者から漢字のリクエストを受け付けた。熊峰氏は笑顔で書き終わると記念撮影にも気軽に応じていた。「酒折太極拳」と書いてもらった男性は「額に入れて家宝にします」と喜んでいた。
見学した青山学長は「一つの漢字や形に込められたもの、表現できるものが予想以上に豊かだと分かりました。自分の内面も文字で表現できると分かり新鮮でした。揮毫パフォーマンスも素晴らしかった。即興で今日この場をどう文字に表現するのかを実際に見ることができて感激しました。学生たちにも文字の奥深さを感じてほしい」と感想を語った。
酒折の地で「奇跡のレッスン」
午後から開かれた中国書を体験できるワークショップには事前に申し込んでいた10人が参加、熊峰氏の技法を目の当たりにし「奇跡のレッスン」を体験した。
熊峰氏は「書は紙の上のダンス」と例え「筆が紙に付く前にすでに始まっている」と話した。その上で①角度、②深度、③速度─の3つの「度」を基本にまず筆の使い方を学んでから、文字の形に入ることを提唱した。
このうち角度は最初に筆が入る角度のことで30度、45度、90度、120度など角度を変えて書き始めることで、同じ文字でも印象が全く変わること。また、太極拳を例に挙げて「太極拳は右に動く時、まず体を左に振ってから右に動きます。下へ動く時は、上に振ってから下へ。つまりリズムが大切」と解説。実際に参加者の手を取って筆の使い方を教えた。
最初は文字を書かずに、3つの「度」を繰り返し練習して手に筆の動きを覚えさせることが重要。文字を書くのは1日10分でも十分だと強調した。
最後に特別なプレゼントとして熊峰氏が参加者の希望の漢字を書き、一人ずつ贈った。参加者の一人で、孔子学院で太極拳を指導している松村達也さんは「まさに『目から鱗(うろこ)』の練習法でした。参加して本当に良かった。人生を楽しむという思いで『楽』と書いてもらいました。額装して飾ります」と満足そう。
経営学部1年の女子学生は「孔子学院の中国文化サロンに参加して書に興味を持ちました。筆を持ったのは中学以来。中国書法は日本の書道にないやり方。『蓮』と書いてもらいましたので部屋に飾ります」とうれしそうに話した。
熊峰【ゆう・ほう】氏略歴
1965年 中国江西省生まれ。
2010年 上海国際博覧会で日本館の漢字芸術総監督就任。
2019年 NHK「奇跡のレッスン・書道編」出演。
2023年 長年の交流功績により在上海日本国総領事館表彰を受賞。
2024年 日本と中国の文化交流を促進した功績により外務大臣賞受賞。
(文 古屋賢二)(カメラ 小池裕太) 2026.10.24

